2017年11月27日

米国財務省が金融規制のための政府のコア原則に関する報告書を公表-保険業に関する勧告内容について-

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(3)資本イニシアチブ
資本イニシアチブに関しては、米国国内でのNAIC(全米保険監督官協会)と州及び連邦準備制度によるグループ資本の検討とIAISでの検討について勧告している。

(3-1) 米国国内での資本イニシアチブ
米国国内においては、「NAIC、州及び連邦準備制度によるグループ資本イニシアチブは、米国の保険会社にとっての重複した不必要な規制負担を緩和するために、可能な範囲で調和されるべきである。」として、「FIOに州の保険監督当局、NAIC及び連邦準備制度と協議し、調整するように指示する。」としている。

さらに、これらに基づいて、「FIOが、国際フォーラムでグループ資本への米国のアプローチを主張する。」ことを勧告している。

ソルベンシーの維持:資本イニシアチブ
保険会社は保険契約者から将来の支払義務を生じさせるリスクを負うことになるため、保険会社の支払能力にとっては資本が特に重要な考慮事項となる。長期事業(生命保険など)では、これらの義務を裏打ちする資産の市場は、相殺される債務の満期前に満期になる可能性のある投資に限定されているため、保険会社は潜在的に大きな金利リスクにさらされる。したがって、実際の支払いが準備金を上回る場合、資本はセーフティネットとして機能する。同様に、短期事業(例えば、財産保険)は、予期しない、しばしば災害関連の、準備金を上回る可能性のある損失のためのバッファーとして機能するために資本に依存している。

米国における保険規制には、保険会社の資本の性質と程度の監督が含まれる。保険市場がグローバル化するにつれて、米国や他の地域の監督当局は、他の地域に拠点を置いているが自国市場で活動している保険会社の財務的実行可能性(健全性)を理解する必要性をますます認識している。異なる管轄区域の監督当局間の理解を深めるための1つの方法は、グループレベルで適用される、共通で理解される定量的な資本基準を使用することである。保険に関して、「グループ」とは、所有権または関係によって会社のファミリーの一部として共存する2つ以上の保険法人を指す。

現在、一部の外国管轄地域は保険会社に適用されるグループ資本要件を有しているが、そのような基準は米国には存在していない。米国の現在の州ベースのソルベンシー規制の枠組みは、保険法人レベルでのみ資本要件を適用している。最近、州と連邦当局は、保険のグループ資本イニシアチブの策定に向けて措置を講じている。

現在、米国の保険会社に適用されるグループ全体の資本イニシアチブの開発に、(1)NAIC及び州の保険監督当局、(2)連邦準備制度、(3)IAIS、の3つの組織が取り組んでいる。
   (中略)

勧告(州及び連邦による資本イニシアチブ)
NAIC、州及び連邦準備制度によるグループ資本イニシアチブは、米国の保険会社にとっての重複した不必要な規制負担を緩和するために、可能な範囲で調和されるべきである。長官は、米国の保険会社、米国の保険契約者及び米国の保険市場にとって最良の成果を生み出すために、FIOに、それぞれのグループ資本イニシアチブについて、州の保険監督当局、NAIC及び連邦準備制度と協議するよう指示する。長官はまた、FIOにこの作業を調整するよう指示する。FIOは、国際フォーラムでグループ資本の米国のアプローチを主張する。

(3-2)IAISにおける資本イニシアチブ
IAISにおけるICS(保険資本基準)の開発については、「IAISの米国メンバーがICS開発への一貫した統一されたアプローチを提示することが重要」であり、「このような基準は、世界中の様々な管轄区域で採用されているソルベンシー規制への多様なアプローチを認識すべきである。」としている。さらに、「コアな目標は、ICSイニシアチブが米国の保険ビジネスモデルと既存の州ベースの規制制度に適合することを確実なものにすること」であり、「そのような基準は、評価及び会計上の要件に対する監督上のアプローチや資本を構成するものの定義の多様性を認識する方法で開発されるべきである。」としている。

このように、米国財務省は、あくまでも各国の各種の多様性を認識した上での対応が必要であるとして、既存ないしは今後開発予定の米国の制度がICSとして認められていくべきことを主張している。

なお、ICS Version 2.0の2019年提供というタイムラインについては、それを延期すべきと述べている。これについては、この報告書が10月27日に公表された後に、IAISがICSの2段階方式での開発に合意したことを11月2日に公表している。この内容については、既に保険年金フォーカス「IAISがICS(保険資本基準)に関する今後の実施計画を公表-ICS Version 2.0は2段階方式で実施へ-」(2017.11.14)で報告した通りである。

報告書では、「ICSの評価方法は、IASB(国際会計基準審議会)及びFASB(財務会計基準審議会)の現在進行中の作業によって影響を受ける。ICSの実施の延期は、IAISが改善されたグローバル資本基準につながるこれらの潜在的な会計上の変更をICS内に組み込むことを可能にする。」としている。

勧告
IAISの米国メンバーがICS開発への一貫した統一されたアプローチを提示することが重要である。このような基準は、世界中の様々な管轄区域で採用されているソルベンシー規制への多様なアプローチを認識すべきである。コアな目標は、ICSイニシアチブが米国の保険ビジネスモデルと既存の州ベースの規制制度に適合することを確実なものにすることである。そのような基準は、評価及び会計上の要件に対する監督上のアプローチや資本を構成するものの定義の多様性を認識する方法で開発されるべきである。

IAISは、2019年にICS Version 2.0を提供するという現在のタイムラインを再検討すべきである。財務省は、全ての主要な保険市場で実施可能なICSの開発に関するIAISメンバー及びステークホルダーとのさらなる協議を許容するために、後の日付まで ICS Version 2.0を延期することを勧告する。さらに、ICSの評価方法は、IASB(国際会計基準審議会)及びFASB(財務会計基準審議会)の現在進行中の作業によって影響を受ける。ICSの実施の延期は、IAISが改善されたグローバル資本基準につながるこれらの潜在的な会計上の変更をICS内に組み込むことを可能にする。

(4)流動性イニシアチブ
流動性イニシアチブについては、「保険会社の流動性リスク管理プログラムを強力に支援し、保険業界の潜在的な流動性リスクへの対応を、州の保険監督当局、NAIC及び連邦準備制度に奨励」するとしている。さらに、長官が「流動性管理及び計画に関する既存のIAIS基準の改善を提唱する」ようにFIOに指示する、としている。

ソルベンシーの維持:流動性イニシアチブ
流動性リスクを理解することは、保険支払能力規制及び監督の重要な要素である。一般的に、流動性は、即座の短期金融債務を満たすために、実質的な価格譲歩をすることなく資産を迅速に流動化する金融市場参加者の能力と定義することができる。ストレス環境下での潜在的なキャッシュ・アウトフローは流動性の問題を引き起こし、不安定な価格での資産売却につながる可能性がある。このようなシナリオでは、個々の保険会社にソルベンシー関連の影響があるだけでなく、より幅広い金融市場にも潜在的に影響を及ぼす可能性がある。例えば、信用への大幅にタイトなアクセスは、その他の波及効果の中で短期債券金融を確保する能力に重要な影響を及ぼすだろう。

Price Waterhouse Coopersは、財務省の見解の中で、政策立案者によって行われる流動性の評価に対する構造化アプローチを提供する流動性のいくつかのコアな側面を概説している。

勧告
財務省は、保険会社の流動性リスク管理プログラムを強力に支援し、保険業界の潜在的な流動性リスクへの対応を、州の保険監督当局、NAIC及び連邦準備制度に奨励している。長官は、流動性管理及び流動性ストレステストの進展を監視し、州保険監督当局、NAIC及び連邦準備制度に、国内の流動性リスクイニシアチブを引き続き進めることを奨励するように、FIOに指示する。また、長官は、流動性管理及び計画に関する既存のIAIS基準の改善を提唱するよう、FIOに指示する。

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中村 亮一

研究・専門分野

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