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女性労働力率M字カーブの底上げだけが問題の本質なのか。-女性活躍推進データ再考:「補助人材」としての女性活躍推進にならないために

生活研究部 人口動態シニアリサーチャー 天野 馨南子
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はじめに-年齢階層別女性労働力率M字カーブの国際比較
一方、日本は、20代後半から30代前半にかけて10ポイント近く労働力率が急落する。そして40代後半までは20代後半における水準近くまで回復してこない。
近年では、このM字カーブの底が高くなってきた(逆U字に近くなってきた)、さらなるM字カーブの解消を目指す、といった女性活躍推進策をよく見かける。
日本の労働力率M字カーブを出生率も女性労働力率も高いヨーロッパ先進諸国と同様としたい、というところであろう。
ここで余談であるが、アメリカは日本よりも各年齢層で女性労働力率が低い。
これはあまり日本における一般的な感覚には沿わないと思うが、アメリカは国の育児休業制度もなく、ある意味徹底した実力主義をとっている。ただし、日本とは異なり、新卒・終身雇用主義ではなく労働者の中途市場が大きいため、出産・子育てで一旦市場をでても再チャレンジの道は断たれない。
日本の身近な事例ではあるが、有名国立大学をでて海外留学もした女性が、夫の海外赴任と妊娠にむけた取組を両立させるために銀行を辞めたら、出産後の再就職市場では「元の給与の半額以下の年収400万でのオファーが来た」などという非実力主義社会ではない。
話は元にもどるが、日本における近年のM字カーブを解消する政策として、2017年6月に発表された国の「子育て安心プラン」1をみても、6年間の保育園対策によって保育サポートを強化してM字カーブ解消を目指す、とある。
ただ、図表からもわかるようにM字カーブのV字のくびれは15年間も続いているので、この6年間の保育園対策だけでM字カーブが解消しえないことは、子育て経験のある身としては直感的にも感じるのであるが、その議論はまたの機会としたい。
1 2017年5月31日に国が公表した待機児童問題を柱とする子育て支援計画。
1――M字カーブが解消されることが女性活躍なのか
しかし、女性活躍問題の本質が、6歳までの「小学校就学前の保育提供の問題」に本当にあるのだろうか。
2 正式名称は「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」で1985年に制定され、翌86年4月より施行。
i 子どもが3歳未満までは無業だった母親が6歳以降、非正規として有業となる
ii 子どもが3歳未満までは正規で有業だった母親が6歳以降、非正規へ転換する
という母親の子どもの就学を境とした一定の行動パターンの可能性をうかがい知ることが出来る。
3歳未満の子どもを持つ母親ではその5割が正規従業員であるのに対し、小学校就学以降の子をもつ母親では3割未満に減少し、6割以上が非正規(主にパートである)従業員となっている。図表2から、現状では、子どもが小学校就学以降、約20ポイント有業母割合が増加するものの、それは非正規雇用が主体であることを図表4によって知ることが出来る。
一旦子育てのために仕事をやめた場合は、女性は主に非正規として労働市場にもどる道筋しか主に開かれていないのである。もしくは、子どもが就学するあたりで非正規に転換せざるを得ない状況の発生可能性も指摘できる。
一見、母親の就業上の地位変更トリックによって、保育園さえ充実すれば「M字カーブは解消され、女性活躍はすすむ」は正当な議論に見える。しかし、一旦労働市場から子育てのために退出するという人生選択をやめさせて、年齢を問わず頭数をそろえることが目標であるだけの支援策ならば、それは真の女性活躍推進政策ではない。ダイバーシティを無視した、量的労働人口確保策に過ぎなくなってしまう。
保育園等を充実して労働市場から女性が出産を機に退出することがなくなれば、本当に日本は女性活躍推進国となるのだろうか。
(2017年11月20日「基礎研レポート」)
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- プロフィール
1995年:日本生命保険相互会社 入社
1999年:株式会社ニッセイ基礎研究所 出向
【委員歴/ご依頼順(現職優先)】
1.政府
・【総務省統計局】
「令和7年国勢調査有識者会議」構成員(2021年~)
・【こども家庭庁】
「若い世代視点からのライフデザインに関する検討会」構成員(2025年度)
「若い世代の描くライフデザインや出会いを考えるワーキンググループ」構成員(2024~2025年度)
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・【内閣府特命担当大臣(少子化対策)主宰】
「少子化社会対策大綱の推進に関する検討会」構成員(2021年~2022年)
「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取組に関する検討会」構成メンバー(2016年)
・【内閣府男女共同参画局】
「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」構成員(2021年~2022年)
・【内閣府】
「令和3年度結婚支援ボランティア等育成モデルプログラム開発調査 企画委員会 委員」(内閣府委託事業)(2021年~2022年)
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「地域少子化対策強化事業の調査研究・効果検証と優良事例調査 企画・分析会議委員(2016年~2017年)
2.自治体
・【富山県】
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3.民間団体
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・【公益財団法人東北活性化研究センター】
「人口の社会減と女性の定着」に関する情報発信/普及啓発検討委員会 委員長(2021年~)
「人口の社会減と女性の定着」に関する意識調査/検討委員会 委員長(2020年~2021年)
・【中外製薬株式会社】
「ヒト由来試料を用いた研究に関する倫理委員会(通称:研究倫理委員会) 委員」(2020年~)
・【主宰研究会】
地方女性活性化研究会(2020年~)
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