2017年10月27日

地方公会計制度とその改革~その1 地方公会計とは~

神戸 雄堂

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1――はじめに

地方公共団体(都道府県及び市区町村)の基本的な役割は住民の福祉の増進を図ること(地方自治法第1条の2)とされているが、その財源は本質的には住民もしくは国民の納めた税金である。したがって、地方公共団体には最少の経費で最大の効果を挙げること(同法第2条)及び財政状況を住民に公表すること(同法第243条の3)が求められる。そのための予算の編成と執行、決算を支えるのが地方公会計制度である。

しかし、現行の地方公会計制度1ではこれらの役割を果たすには不十分な面があり、総務省によって公会計制度の改革が漸次進められてきた。当稿では、多くの方にとって馴染みの薄い公会計制度とその改革について、2回にわけてわかりやすく紹介・解説することとしたい。今回は、地方公会計と企業会計についての比較も行いながら、現行の地方公会計制度の抱える課題について考えたい。
 
1 当稿では、実際の予算書や決算書で採用されている、単式簿記・現金主義による会計方式のみを前提とした地方公会計制度について「現行の地方公会計制度」とする(以下も同様)。
 

2――地方公会計の役割とその背景

2――地方公会計の役割とその背景

公会計とは官公庁が採用している会計方式のことであり、俗に官庁会計とも呼ばれる。では、そもそも会計の果たすべき役割とは何だろうか。会計とは、ある特定の経済主体の活動を、貨幣額で測定し、その結果を書類に記録し、内外の利害関係者に伝達するための制度である。すなわち、公会計とは「国や地方公共団体が各種の収入及び支出に関わる活動を、貨幣額で測定し、その結果を財務書類に記録し、内部関係者に報告すること、もしくは納税者である国民や住民等に対して公表すること。また、これらに関する制度」と言える。

民間企業における企業会計には外部の利害関係者に対して活動の成果や財政状況について報告することを目的とした財務会計と、内部の意思決定者に対して意思決定に役立つ会計情報を提供することを目的とした管理会計の2種類がある。地方公共団体に求められることを踏まえると、地方公会計制度の果たすべき役割は、財務会計的な観点から住民に適切かつわかりやすい財政情報を公表すること、管理会計的な観点から最少の経費で最大の効果を挙げられるよう地方公共団体内における意思決定に役立つ会計情報を提供することと考えられる(図表1)。
(図表1)地方公会計の意義
地方公共団体が行政運営を行ううえでの原則は地方自治法と地方財政法によって定められているが、その代表的なルールに会計年度独立の原則(地方自治法第208条)と予算単年度主義(同法第211条)がある。会計年度独立の原則とは、地方公共団体の会計年度は4月1日から翌年の3月31日までの1年間と定め、各会計年度における歳入歳出は年度ごとに区分し,それぞれの年度の歳入を当該年度の歳出に充てるという原則である。また、予算単年度主義とは、地方公共団体の長は毎会計年度、1年間の予算を策定し、事前に議会の議決を経なければならないというものである。
(図表2)地方公会計の年間スケジュール 予算を決定するのは住民が選んだ議員によって構成される議会であり、議決対象となる予算においては住民から徴収した税金等の使途が具体的かつ詳細に示されなければならない。地方公共団体は議決を経て成立した予算を適切かつ確実に執行し、決算によって当該年度の活動の成果を住民に公表する義務がある。

そして、予算の編成と執行、決算に際して、客観的な記録の仕組みとなるのが地方公会計制度である。なお、これらを反映した年間のスケジュールは図表2の通りである。
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