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- 政府支出拡大で景気回復期待が高まる一方、財政悪化懸念が浮上
2017年11月06日
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インド経済は過去2年間に7%を上回る力強い成長を続けてきたが、昨年11 月の高額紙幣廃止によって状況は一変した。廃貨に伴う現金不足の悪影響は2017 年1-3 月期に顕在化し、成長率は前年同期比6.1%増まで低下した(図表1)。その後も回復が遅れるなか、7月のGST 導入に伴って複数の間接税が一本化されることになり、国内で再び混乱が生じた。消費者は税率の変更で値下がりが見込まれる商品の購入を控えたほか、企業は節税目的で在庫削減を進めたことから一部で商品不足に陥り、6月の消費が落ち込んだ。また輸出の減速と輸入の増加に伴う純輸出の悪化も重なり、4-6 月期の成長率は同5.7%増と過去3年間で最も低い水準となった。
一方、民間投資は引き続き低迷しそうだ。GST 導入と外資規制の緩和といったビジネス環境の改善、金融緩和による借入コストの低下は投資の追い風となる一方で、不良債権問題が景気減速によって悪化している。不良債権が膨張すると、銀行収益が圧迫されて金融仲介機能が低下する。また労働力と資本が過剰債務を抱えた生産性の低い分野に停滞して成長分野に回らなくなるといった問題も生じる。インドの商業銀行の不良債権比率は2016年3月の7.5%から2017年6月には10.3%まで上昇している。日本もバブル崩壊後の「失われた20年」の低迷期に不良債権の膨張が問題となった経験があるが、主要行の不良債権比率のピークが8.4%(2002年)であったことを踏まえると、インドの銀行のバランスシートは更に悪い状況と言えるだろう。日本の場合、金融再生プログラムによる本格的な不良債権処理を推し進めて以降、不良債権比率が半減するまでには約2年半を要している。インドでは、ラグラム・ラジャン前中銀総裁が不良債権処理の枠組みを整備してきたほか、政府は昨年の「破産倒産法」の成立に続いて、今年5月には市中銀行に破産手続きを指示する権限を中央銀行に与える「銀行規制法」を改正、さらには国有銀行に対する資本注入を継続的に行なっている。このように不良債権解消に向けた取組みは進められているものの、日本の経験に照らせばインドの金融システムが正常化して民間投資が本格回復するまでには相当の時間がかかりそうだ。
一方、モディ政権は財政政策を急いでいる。2017年12月にはグジャラート州とヒマーチャル・プラデシュ州で州議会選挙が開催される予定であり、足元の景気減速が選挙結果に影響すると見込まれるためだ。与党は上院で過半数を占めておらず、議会のねじれを解消するには州議会選挙で勝利を重ねる必要があるだけに、モディ政権が景気回復に力を入れるのも当然だ。報道によると、中央政府は5,000億ルピーの追加支出を検討しており、財政赤字(GDP比)を当初予算の3.2%から3.7%に引上げる模様だ。また幾つかの州では農家に対する債務免除策を打ち出しており、就業者の約半数を占める農家の所得環境の改善も見込まれる。こうした財政支出の拡大によって景気回復が加速し、来年には再び7%台半ばの成長軌道に戻るだろう。もっともインドは財政再建下にあることも忘れてはならない。9月の金融市場は、財政悪化懸念を背景に株価・国債・為替(ルピーの対ドルレート)がトリプル安となった。中央政府と州政府の財政赤字拡大がインドの信用格付けに何ら影響しないとは考えにくく、財政政策に金融市場が揺れる展開には引き続き注意が必要だ。
(2017年11月06日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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経歴
- 【職歴】
2008年 日本生命保険相互会社入社
2012年 ニッセイ基礎研究所へ
2014年 アジア新興国の経済調査を担当
2018年8月より現職
斉藤 誠のレポート
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