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ネット損保の衆安保険、株式上場-加速するアリババ、テンセントからの「卒業」?-中国保険市場の最新動向(28)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき
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4-課題は商品毎の収益性を高め、資産運用収益を安定して確保し、事業費を圧縮すること
2016年の販売上位5種の保険のうち、販売に力を入れた傷害保険、保障保険の収益はプラスであったが、返品送料補填保険、医療保険、責任保険の収益はマイナスとなった。特に、収入保険料が最も多い返品送料補填保険については、販売開始以降、収益のマイナスが続いている。
2016年の資産運用収益は前年比81.6%減の9,300万元にとどまった(次頁図表3)。前年の2015年は、株価が年初から上昇するも6月に急落し、10月には持ち直すなど相場が乱高下したが、それに伴う実現益がおよそ4億4000元と資産運用収益のおよそ9割を占め、運用収益を大幅に増加させた。一方、2016年は2015年末に持ち直した株価が、サーキットブレーカーの発動などの混乱によって1月に急落しており、実現損が4,600万元と、運用収益を押し下げる結果となった。運用収益は、ボラティリティの高い資産に偏る傾向があり、収益が安定しにくい。なお、2017年上半期の運用収益はファンドの分配金収入が前年同期比で大幅に増加したこともあって、収益額は2億8652万元まで回復している。
効率性、収益性といった視点から保険経営をみてみると、保険料収入に対する保険金などの支払いの割合(損害費率)は、2015年は68.5%であったが、2016年は42.0%と改善されている。一方、保険料収入に対する経費の割合(事業費率)は2015年が58.1%であったのに対して、2016年は62.7%と悪化している。これら損害費率、事業費率を合計したコンバインドレシオは、2015年が126.6%、2016年は104.7%と改善されているが、それには上掲の主力商品の見直しが奏功していると考えられる。今後は事業費率の改善が課題となるであろう。
衆安保険は、ITで保険事業のビジネスモデルを革新し、ネット保険やインシュアテック分野において業界をリードする存在になることを目標としている。提携する180のスタートアップ企業、フィンテック関連企業とともに、最先端の技術を導入することで保険の役割を再定義するという。それを実現する方法として、アリババやテンセント、平安保険など大手フィンテック企業が実践している、金融、生活、消費などのビッグデータや顧客を抱え込む「ネット経済圏」の形成も視野に入っているようだ。衆安保険は、現時点で、その構成要素として生活消費、消費金融、ヘルスケア、旅行、自動車の5つの分野を挙げている。
今回の上場は、衆安保険に対する市場の期待の高さを証明し、衆安保険は、上場による資本の積み増しや、独自の成長を目指す上で必要な資金の調達の機会が飛躍的に増えた。三馬ブランドの庇護から自立し、市場の評価に見合った収益や実績を着実に積んでいくことができるのか、今後はこれまで以上に衆安保険の手腕が問われることになる。
4 携程(Ctrip)については2016年末時点で出資を撤退している。
(2017年10月18日「保険・年金フォーカス」)
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03-3512-1784
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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