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2017年10月17日
ドイツの生命保険会社の状況(2)-BaFinの2016年Annual Report等より(ソルベンシーII制度下での報告(含むORSA))-
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(参考)EIOPAのORSA評価
EIOPAも6月19日にORSAに関する監督評価を公表しており、これについては、保険年金フォーカス「EU ソルベンシーIIの動向-EIOPA がORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)に関する監督評価を公表-」(2017.6.27)で報告した。
その中で報告したように、EIOPAも基本的にBaFinと同様に、全般的には評価しているものの、ORSAプロセスにおけるマネジメントの導入、ORSAで使用されるストレステストの質及び会社のリスクプロファイルが標準式に従ってソルベンシー資本要件の計算の基礎となる前提から大幅に逸脱しているかどうかの評価等において、さらなる改善が必要である、としている。
EIOPAも6月19日にORSAに関する監督評価を公表しており、これについては、保険年金フォーカス「EU ソルベンシーIIの動向-EIOPA がORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)に関する監督評価を公表-」(2017.6.27)で報告した。
その中で報告したように、EIOPAも基本的にBaFinと同様に、全般的には評価しているものの、ORSAプロセスにおけるマネジメントの導入、ORSAで使用されるストレステストの質及び会社のリスクプロファイルが標準式に従ってソルベンシー資本要件の計算の基礎となる前提から大幅に逸脱しているかどうかの評価等において、さらなる改善が必要である、としている。
3|BaFinの意見に対する業界団体の反論
このようなBaFinの意見に対して、ドイツの保険会社の団体であるGDV(Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft e.V.)の金融規制専門家のNicolas Edling氏等は、BaFinの意見には驚いているとして、以下のような趣旨の反論を行っている。
・ORSAは本来的に会社に特有の性質を有するものであり、一般的なコメントをするのは非常に難しい。
・各保険会社のORSAの「文書化」においては、はるかに多くの情報が存在しており、それらは最終的なより短いORSA文書においては、より根本的なポイントについてのみ詳細に述べている。
・より正確な文書は、保険会社によって保持されており、BaFinに全てを説明することができる。BaFinは保険会社との更なる協議を要請することができ、ORSAのより短いレポートは、全ての詳細ではなく、最も重要な点に焦点を当てるだけで十分である。
・取締役会メンバーは、ORSAを最も重要なリスク管理ツールの1つだと認識している。
・ストレステストの前提を全て記載する場合、それは膨大なものになるので、ORSA報告書では最も重要な前提だけを取り上げている。
・多くの保険ビジネスにおいては、データは長期間関連したままでいる間、殆ど変化しない。ORSAに最終的に現れるデータについては、詳細に検討し、取締役会は継続的な関連性と適用性を確保する必要がある。
・会社は、ORSAプロセスを評価し、その付加価値を確認している。
このように、作成者である保険会社と監督当局の間では、ORSA報告書の重要なリスク管理ツールとしての意味合いやORSAプロセスの付加価値等の全体的なコンセプトについては大きな差異は見られないものの、その具体的な作成において求められる記述の内容及びその水準等を通じてのORSA報告書の持つ位置付けについては、かなりの認識の差異があることが明らかになっている。
このようなBaFinの意見に対して、ドイツの保険会社の団体であるGDV(Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft e.V.)の金融規制専門家のNicolas Edling氏等は、BaFinの意見には驚いているとして、以下のような趣旨の反論を行っている。
・ORSAは本来的に会社に特有の性質を有するものであり、一般的なコメントをするのは非常に難しい。
・各保険会社のORSAの「文書化」においては、はるかに多くの情報が存在しており、それらは最終的なより短いORSA文書においては、より根本的なポイントについてのみ詳細に述べている。
・より正確な文書は、保険会社によって保持されており、BaFinに全てを説明することができる。BaFinは保険会社との更なる協議を要請することができ、ORSAのより短いレポートは、全ての詳細ではなく、最も重要な点に焦点を当てるだけで十分である。
・取締役会メンバーは、ORSAを最も重要なリスク管理ツールの1つだと認識している。
・ストレステストの前提を全て記載する場合、それは膨大なものになるので、ORSA報告書では最も重要な前提だけを取り上げている。
・多くの保険ビジネスにおいては、データは長期間関連したままでいる間、殆ど変化しない。ORSAに最終的に現れるデータについては、詳細に検討し、取締役会は継続的な関連性と適用性を確保する必要がある。
・会社は、ORSAプロセスを評価し、その付加価値を確認している。
このように、作成者である保険会社と監督当局の間では、ORSA報告書の重要なリスク管理ツールとしての意味合いやORSAプロセスの付加価値等の全体的なコンセプトについては大きな差異は見られないものの、その具体的な作成において求められる記述の内容及びその水準等を通じてのORSA報告書の持つ位置付けについては、かなりの認識の差異があることが明らかになっている。
4―まとめ
以上、新しいソルベンシーII制度の下での報告について、BaFinの2016年のAnnual Reportや関係する文書等に基づいて、ドイツにおけるこれまでの報告との関係及び新たな報告であるORSAを巡る動向(BaFinの評価とそれに対する業界団体の反応等)について報告してきた。
新しいソルベンシーII制度の導入に伴い、欧州の保険会社の報告負担がかなり増大しており、これに対する保険会社サイドからの問題意識がかなり高いことについては、以前のレポート9でも報告したとおりである。
特に今回のレポートで報告したように、ORSA報告書については、欧州及び各国レベルで、その位置付け等について、業界と監督当局との間で各種の議論が行われている。こうした議論が形式的な報告書の量の増大や質の向上にとどまるのではなく、より適切なリスクとソルベンシーの管理に向けた実質的な改善につながっていくことを期待したい。
次回は、低金利環境下での生命保険会社の状況等について、報告する。
9 「ソルベンシーIIの今後の検討課題について(2)-実務面の課題及びBrexitの影響等-」(2016.12.12)
新しいソルベンシーII制度の導入に伴い、欧州の保険会社の報告負担がかなり増大しており、これに対する保険会社サイドからの問題意識がかなり高いことについては、以前のレポート9でも報告したとおりである。
特に今回のレポートで報告したように、ORSA報告書については、欧州及び各国レベルで、その位置付け等について、業界と監督当局との間で各種の議論が行われている。こうした議論が形式的な報告書の量の増大や質の向上にとどまるのではなく、より適切なリスクとソルベンシーの管理に向けた実質的な改善につながっていくことを期待したい。
次回は、低金利環境下での生命保険会社の状況等について、報告する。
9 「ソルベンシーIIの今後の検討課題について(2)-実務面の課題及びBrexitの影響等-」(2016.12.12)
(2017年10月17日「保険・年金フォーカス」)
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