2017年09月26日

EUと米国の間の再保険規制を巡る動きについて-カバード・アグリーメントがついに署名された-

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3―EUとのカバード・アグリーメントに関する米国の声明

米国財務省及びUSTRは、同じく9月22日に、保険及び再保険のプルデンシャル措置に関する米国とEUとの間の二国間合意について、米国の保険監督者及び業界参加者に、合意の実施に関する追加的な明確さを提供する目的で、声明を公表3している。

その概要は、以下の通りである。

全体
・保険事業の主な監督者としての州の保険監督当局の役割を含む、米国の保険規制制度を確認している。この合意は、米国に永続的な利益をもたらす。EUで活動する米国の保険会社及び再保険会社に対して、規制の確実性を提供し、重要な消費者保護規定を維持しながら、米国の保険会社と個人及び企業保険契約者の費用を削減することが見込まれている。

再保険(第3条) 州アプローチの構築
・米国にとって、合意の担保排除要件は、5年間の移行期間が終了するまで、完全な実施を要求するものでなく、特定の財務力及び市場遂行要件を満たす再保険会社に対してのみ適用される。

・米国は、各州に対し、合意の第3条に従った再保険法及び規則に対する関連するクレジットを速やかに採用し、EUの再保険会社に対する再保険出再に対するフルのクレジットを認めるために、各米国の州によって要求される担保金額を段階的に廃止する、ことを奨励する。

グループ監督(第4条) 米国のエンティティベースの規制制度の維持
・合意は、EU内で活動している米国保険会社に対するEUのプルデンシャルグループ保険措置の世界的な適用を制限している。

・合意は、米国の親会社がグループレベルのガバナンス、ソルベンシーと資本及びソルベンシーIIの報告要件に従うことなく、米国の保険会社及び再保険会社がEU内で事業展開できることを規定しており、EUのプルデンシャルな保険監督制度は、米国における制度ではないことを補強している。

・合意は、米国におけるグループ資本基準またはグループ資本要件の開発を要求していない。

情報の交換(第5条) 監督協力の円滑化
・米国は、米国の保険監督当局が、機密保護の高い基準を尊重しつつ、協力、情報共有を増進するために、合意に付属する監督当局間の情報交換に関するモデル覚書(MOU)に規定された実務と整合的なEU保険監督当局との情報交換に協力することを奨励している。

合同委員会(第7条)運営と透明な実施
・合同委員会は、合意の運営と適切な実施に関する情報の交換及び相談の場となる。合同委員会は、米国またはEUにおける保険及び再保険の事業を規制する能力を有さない。

・米国は、州の保険監督当局と協議し、合同委員会の議論が州の保険監督当局の見解と利益を十分に理解して行われることを確実にする堅固な協議プロセスを確立する。

結論
・合意は、当事国間で交渉される最終的かつ制御的な法文であり、重要な法的条件及び上記に要約されていないその他の条項を含んでいる。

・この文書は、合意及び連邦保険局法と併せて再検討される必要がある。

具体的には、以下の通りである。

2017年9月22日
EUとのカバード・アグリーメントに基づく米国の声明

米国は、保険及び再保険のプルデンシャル措置に関する米国とEUとの間の二国間合意について、米国の保険監督者及び業界参加者に、合意の実施に関する追加的な明確さを提供するために、以下の情報を提供する。

合意は、保険事業の主な監督者としての州の保険監督当局の役割を含む、米国の保険規制制度を確認している。この合意は、米国に永続的な利益をもたらす。EUで活動する米国の保険会社及び再保険会社に対して、規制の確実性を提供し、重要な消費者保護規定を維持しながら、米国の保険会社と個人及び企業保険契約者の費用を削減することが見込まれている。米国は、合意の実施を通じて利害関係者と定期的かつ実質的に関与することをコミットする。米国は、米国自身の義務を履行しつつ、EUがその義務を履行することを確実にするために、あらゆる努力を行う。

再保険(第3条) 州アプローチの構築

米国にとって、合意の担保排除要件は、5年間の移行期間が終了するまで、完全な実施を要求するものでなく、特定の財務力及び市場行動要件を満たす再保険会社に対してのみ適用される。第9条に従い、米国は、各州に対し、第3条に従った再保険法及び規則に対する関連するクレジットを速やかに採用し、EUの再保険会社に対する再保険出再に対するフルのクレジットを認めるために、各州によって要求される担保金額を段階的に廃止する、ことを奨励する。

合意の担保排除要件は、合意の適用前に締結された再保険契約、または合意の適用前に発生した損失または積み立てられた準備金には適用されない。合意のいかなる規定も、再保険契約の再交渉、または法律で要求されるものを超える契約上の担保要件の合意を行う、再保険契約の当事者の法的資格を変更するものではない。

この合意に基づき、第3条の規定は、特定の財務力及び市場行動要件を満たすEUの再保険会社に適用される。とりわけ、第3条は、合意が、州の保険監督当局が、出再会社がEUの再保険会社と再保険契約を締結するため、または州の保険監督当局がその州に本店を置く米国の再保険会社との再保険契約の場合と同じ要件を適用する場合に、そのような再保険に対してクレジットを認めるため、の条件として、担保要件と実質的に同じ規制上の影響を及ぼすものでない非担保要件を課すことを妨げない、ことを明確にしている。

グループ監督(第4条) 米国のエンティティベースの規制制度の維持

合意は、EU内で活動している米国保険会社に対するEUのプルデンシャルグループ保険措置の世界的な適用を制限している。合意は、米国の親会社がソルベンシーIIのグループレベルのガバナンス、ソルベンシーと資本及び報告要件に従うことなく、米国の保険会社及び再保険会社がEUにおいて事業展開できることを規定しており、EUのプルデンシャルな保険監督制度は、米国における制度ではないことを補強している。合意は、米国におけるグループ資本基準またはグループ資本要件の開発を要求していない。第4条(h)は、州がグループ全体の資本評価を開発すると考えている。全米保険監督官協会(NAIC)を通じて、州は、グループレベルでの企業の資本ポジションを評価するための分析ツールとして機能することを意図したグループ資本算出の開発を進めている。米国は、合意が署名された日から5年以内に作業が完了し、実施されるとして、NAICのグループ資本の計算が、第4条(h)の「グループ資本評価」の条件を満たすと想定している。合意は、EU内で事業を行っていない米国の保険グループに対して、グループ資本の評価を要求していない。

米国は、既存の州法は、予防的、是正的、またはそれ以外の対応策を講じる手段として、既に保険会社レベルで資本措置を適用することを認めており、そのような措置を課す州監督当局の能力は、合意の第4条の条項に整合している、と理解している。さらに、第4条は、州が、他の予防的、是正的、またはそれ以外の対応策を課すのではなく、資本評価に基づいてそのような資本的措置を課すことを要求していない。

合意の報告規定は、規制協力を強化しつつも、グループレベルでの世界的な事業に対する広範囲のEU報告要件から、EUに関連会社を有する米国の保険グループを保護する。米国の保険監督者は、必要に応じて、米国の保険契約者に対する重大な損害や財務上の安定に対する深刻な脅威、または保険会社の米国での保険金支払能力への重大な影響を防ぐために、米国で活動している保険会社のEUの親会社に関する情報を入手することができる。さらに、第4条(c)に基づき、米国の保険監督者は、EU保険監督者から、その管轄区域で活動しているEU保険会社について、世界的なグループORSA(リスクとソルベンシーの自己評価)の要約レポートまたはそれと同等の文書を受け取る。第4条(f)に基づき、米国の州のプルデンシャル保険グループの監督報告要件は、もしそのような要件が直接的に米国における保険金を支払うためのグループにおける保険会社の能力に重大な影響を与えるリスクに関係している場合には、EUの親保険会社のレベルで継続して適用される。米国は、監督カレッジと合意の第5条に基づく情報交換を含む、米国とEUの保険監督当局間の緊密な監督上の協力が今後も継続すると想定している。米国は、第4条の報告規定に従う上で、州監督当局が、NAICの「保険持株会社制度モデル規制法」に基づく州法とのコンフリクトに遭遇すると想定する根拠を見ていない。

情報の交換(第5条)監督協力の円滑化

合意は、保険及び再保険市場のグローバル化の進展と、機密情報の交換に関する米国とEUの保険監督者間の協力の関連する必要性を認識している。したがって、米国は、米国の保険監督当局が、高い機密保護基準を尊重しつつ、協力と情報共有を増進するために、合意に付属する「監督当局間の情報交換に関するモデル覚書(MOU)規定」に記載された実務と整合的なEU保険監督当局と情報交換に協力することを奨励している。

合同委員会(第7条)運営と透明な実施

合意は、第12条(改正)に従って、当事者の書面による合意によってのみ改正することができる。第7条で述べたように、合同委員会は、合意の運営と適切な実施に関する情報の交換及び相談の場となる。合同委員会は、米国またはEUにおける保険及び再保険の事業を規制する能力を有さない。米国は、合意の適切な実施には、適切な透明性と利害関係者の関与、そして米国の利益の擁護が必要であると考えている。米国の州監督当局は、この合意の実施に大きな責任を負うことになるため、米国は、職員を含む州の保険監督当局が合同委員会の作業に直接関与することを約束している。この目的のために、米国は、州の保険監督当局と協議し、合同委員会の議論が州の保険監督当局の見解と利益を十分に理解して行われることを確実にするための堅固な協議プロセスを確立する。

結論

合意は、国内外の市場において、米国企業が外国企業と競争することを可能にし、国際的な金融規制交渉及び会議における米国の利益を向上させ、規則を効率的で効果的で適切に調整されたものとすることにより、「米国金融制度規制のための主要原則に関する大統領行政命令(2017年2月3日)」で指定された原則を支持する。米国は、合意が実行される上において、米国の利害関係者、米国の保険監督当局、米国経済の利益を促進することを期待している。また、米国は、監督と規制のために相互の制度を尊重しながら、保険及び再保険の消費者を保護するという目標をEUと共有している。合意は、当事者間で交渉される最終的かつ支配的な法律文であり、重要な法的条件及び上記に要約されていないその他の条項を含んでいる。この文書は、合意及び連邦保険局法と併せてレビューされる必要がある。

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中村 亮一

研究・専門分野

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