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IAISが拡大フィールドテストのためのICS(保険資本基準)Version1.0を公表-保険負債評価の割引率について-
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1―はじめに
今回のICS Versin1.0は、2016年7月19日に市中協議に諮られた2016 ICS CD(2016 Insurance Capital Standard Public Consultation Document)に対するフィードバック等を受けてのものであるが、その位置付けはまさに2017年のフィールドテスト2に参加するボランティアグループのためのICS基準である。正式な協議文書という形にはなっていないが、今回の公表を受けて、利害関係者からのフィードバックを受け付ける形になっている。
今回のICS Version1.0については、2016 ICS CDから各種の変更等が行われている。ただし、今回のレポートでは、全体の特徴において、その概要に触れた後、具体的内容については、保険負債評価に使用する割引率に焦点を絞って報告する。
なお、保険負債評価に関する項目の中でも、2016 ICS CDから大きな変更が行われていない点等については、今回は詳しくは触れていない。こうした点を含む2016 ICS CDの概要については、基礎研レポート「IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)について-公表された市中協議文書の概要と関係団体からの初期反応等-」(2016.8.9)(以下、「前回のレポート」という。)を参照していただきたい。
1 ICS Version1.0に関連する資料については、IAISのWebサイトから入手可能
https://www.iaisweb.org/page/supervisory-material/insurance-capital-standard//file/67651/ics-version-10-for-extended-field-testing
2 2017年のフィールドテストは、2015年、2016年に続く第3回目の定量的フィールドテストであり、2017年9月が提出締切りとなっている。
2―ICS(保険資本基準)について
ICSは、IAIGs(Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループ)に適用されるグループベースの連結保険資本基準である3。ICSは、IAIGsを監督するための国際的な監督フレームワークで定性的かつ定量的な要件を取り扱うComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups)の一部である。IAIGsの認定基準4については、ComFrameに規定され、グローバルに保険活動を展開している数十社程度が該当し、これらの会社で世界の保険料シェアの5割以上を占めると予想されている5。
3 IAISの作成するルールに法的裏付けはないが、メンバーのコンセンサスで決定されたルールについては、遵守していくことが求められていくことになる。
4 規模の基準((1)少なくとも500億米ドルの保険資産又は100億米ドルの保険料)及び国際活動基準((2)3つ以上の管轄区域での活動、(3)少なくとも10%以上の保険料を本籍管轄区域外から引き受け)がベースであるが、監督当局による裁量も認められている。
5 2017年のフィールドテストには、50社以上(2016年のフィールドテストでは41社)が参加しているとのことである。
(1)今回の ICS Version 1.0の位置付け
IAISは、2015年と2016年に、ICSの開発に関する量的フィールドテストを実施したが、今回のICS Version 1.0は2017年9月に提出される予定の第3回定量的ICSフィールドテストに対応するものである。1年前の2016年7月19日に2016 ICS CDが公表された時には、2017年6月までに機密ベースで会社が監督当局に報告する「ICS Version 1.0」の採択が計画されていたが、そこまでには至らずに、今回もボランティアグループが10社ほど拡大したとはいえ、あくまでもフィールドテストという位置付けになっている。
(2) 次のステップとしてのICSのVersion 2.0の目標
今回公表された ICS Version 1.0の位置付けは、当初の計画から若干後退した形になってはいるが、IAISは、ICS Version 2.0の2019年の設定、2020年からの実施という目標を変更していない。
ICSのVersion 2.0の目標は、監督者の実施に適したICSの提供であり、その内容については、以下の通り記述されている。
・ICS Version1.0と比較して改善されたレベルの比較可能性を達成するが、おそらく最終的な目標によって想定される比較可能性のレベルではない。
・まだ2つの評価アプローチを含むかもしれないが、評価の差異を縮小することを志向する。
・ICS資本要件を計算するための標準方式と、以下を含む他の計算方式を許容しているかもしれない。:(1)内部モデルの使用(部分又は完全)、(2)外部モデル、(3)標準方式のバリエーション
(3)最終目標
IAISの最終目標は、日付は未定だが、管轄区域間で比較可能な、即ち実質的に同じ結果を達成する共通の方法論を含む単一のICSを設定することである。
進行中の作業を通じて、評価、資本リソース、資本要件等のICSの重要な要素において、時間の経過とともにコンバージェンスが改善されていくことを意図している。
3―今回の ICS Version 1.0の概要
1|プレス・リリース資料による説明
今回のICS Version 1.0について、IAISによるプレス・リリースによれば、「業界の参加は拡大し続けており、世界で最大規模の保険グループのうち約50社が現時点で拡大フィールドテストのプロセスに携わっている。」としている。また、「拡大フィールドテストのためのICS Version1.0文書は、ICS要素の設計と校正の根拠と、該当する場合は考慮する様々なオプションを説明するマイルストーンである。ICSの設計と較正の説明の一部として2016 ICS協議への回答を参照し、将来のフィールドテストの演習や相談など、ICS Version2.0に向けた今後の手順を定めている。」としている。
2017年7月21日
IAIS、拡大されたフィールドテスト用のICS Version1.0をリリース
IAISの注意はICS Version2.0に向かう
バーゼル - 保険監督者国際機構(IAIS)は本日、拡大フィールドテストのための保険資本基準(ICS)Version1.0のリリースを発表した。これは、2019年後半までにICS Version2.0を開発するための重要なステップである。
IAIS執行委員会の議長であるVictoria Saporta氏は、「拡大フィールドテストのためのICS Version1.0のリリースは、IAISの基準設定機関としての重要なマイルストーンである。」と語った。
拡大フィールドテストのためのICS Version1.0は、複数のパブリックコンサルテーション、ボランティアフィールドテスト演習、ステークホルダーセッションを通じてIAISが受け取った広範なフィードバックによって形成されている。業界の参加は拡大し続けており、世界で最大規模の保険グループのうち約50社が現時点で拡大フィールドテストのプロセスに携わっている。「公的関与はICS開発にとって重要である。このプロジェクトは、受領したパブリックコメントから大きく恩恵を受け続けている。」と、IAIS金融安定性・技術委員会のElise Liebers議長は述べている。
拡大フィールドテストのためのICS Version1.0文書は、ICS要素の設計と較正の根拠と、該当する場合に考慮される様々なオプションを説明するマイルストーンである。ICSの設計と較正の説明の一部として2016 ICS協議への回答を参照し、将来のフィールドテストの演習や相談など、ICS Version2.0に向けた今後の手順を定めている。
ICSは、国際的に活動する保険グループ(IAIG)の監督のための共通フレームワークであるComFrameのコンポーネントの1つである。ComFrameは、IAIGの複雑さと国際的な範囲に合わせた量的及び質的監督上の要件から構成されている。
拡大フィールドテストのICS Version1.0は正式な相談書ではないが、iais@bis.orgにコメントを送付することにより、一般の方もフィードバックを提供できる。受け取ったフィードバックは、ICS Version2.0の開発で考慮される。
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(2017年08月07日「基礎研レポート」)
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