2017年07月24日

欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-

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Prudentialの例
Prudentialは、内部モデルと標準式によるSCRの計算の主な差異を、以下の通りまとめている。

・内部モデルのリスクシナリオは、Prudential固有のリスクプロファイルを反映し、データ分析と専門家判断の組み合わせから導き出される。

・各カテゴリ内の内部モデルリスクドライバは、通常、標準式で考慮される広範なリスクカテゴリよりもはるかにきめ細かである。

・内部モデルは、標準式に含まれていないいくつかのリスク(例えば、株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスク、国債スプレッドリスク)もカバーしている。

・内部モデルでは、一緒に発生するリスクの組み合わせの貸借対照表への影響を許容するが、標準式では、個々のリスクを個別に考慮するのみである。

・内部モデルでは、対応する負債の価値の変動を反映して、各リスクシナリオでマッチング調整リングフェンスを変更することができるので、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオ外のリスクの分散が認められる。

具体的には、以下の通り記述されている。

E.4.3内部モデルと標準式
内部モデルと標準式によるSCR計算の間の主要な差異は、以下を含んでいる。

・標準式のストレスと相関が規定されているのに対して、ソルベンシーII指令によって要求される内部モデルテストと基準に従うことを条件に、内部モデルのリスクシナリオは、Prudential固有のリスクプロファイルを反映し、データ分析と専門家判断の組み合わせから導き出される(詳細は下表参照)。

・同じ幅広いリスクカテゴリが内部モデルのリスクドライバをグループ化するために使用されるが、各カテゴリ内の内部モデルリスクドライバは、通常、標準式で考慮される広範なリスクカテゴリよりもはるかにきめ細かである。例えば、標準式のストレスの多くは国によって異ならないが、内部モデルのリスクドライバは、通常、国やその他のリスクの属性によって異なる。

・内部モデルは、標準式に含まれていないいくつかのリスク(例えば、株式インプライドボラティリティリスク、金利インプライドボラティリティリスク、国債スプレッドリスク)もカバーしている。

・内部モデルSCRは、基礎となるリスクドライバを総合的なストレス・シナリオにまとめ、99.5%のワーストパーセンタイル結果を導出するために、これらのストレス・シナリオをグループの貸借対照表に適用した結果をランク付けすることによって導き出される。逆に、標準式SCRは、所定の各ストレスの貸借対照表への影響を別々に計算し、次にこれらの結果を所定の相関行列を用いて集計することによって導き出される。したがって、内部モデルでは、一緒に発生するリスクの組み合わせの貸借対照表への影響を許容するが、標準式では、個々のリスクを個別に考慮するのみである。そして

・内部モデルでは、対応する負債の価値の変動を反映して、各リスクシナリオでマッチング調整リングフェンスを変更することができる。したがって、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオ外のリスクの分散は認められる。逆に、標準式は一緒に発生するリスクの組み合わせによる影響を考慮していないため、内部のリスクとマッチング調整ポートフォリオ外のリスクとの間での分散化は認識しないことが求められる。


なお、Prudentialも、Allianz と同様に、具体的なリスクカテゴリ(リスクモジュール)毎の標準式と使用された内部モデルの対比表を作成している。
 

3―グループと単体の内部モデルの差異

3―グループと単体の内部モデルの差異

単体ベースとグループベースとでSCRを算出する際に同じ内部モデルが使用されているとは限らない。

(1)AXAの例
AXAは、「個々の事業レベルで使用された内部モデルと、グループのソルベンシー資本要件の計算に使用された内部モデルとの主な違い」について、以下の2点を挙げて説明している。

2つの違いは、英国の監督当局である健全性規制機構(PRA)のスタンスによるものである。

(1) AXA Insurance UK plcでは、「動的ボラティリティ調整」の使用が認められない。

(2) 年金負債の評価で、AXA Insurance UK plc及びAXA PPP healthcare LtdのソロSCR計算の社債スプレッドの動きに対して、50%のヘアカットが適用される。

E.2 ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR)

個々の事業レベルで使用された内部モデルと、グループのソルベンシー資本要件の計算に使用された内部モデルとの主な違い
AXA Insurance UK plcでは、英国の監督当局である健全性規制機構(PRA)の要件に起因して、グループ統合に使用される内部モデルとローカルで使用される内部モデルの間に、2つの主な違いが存在している。なお、英国の保険会社は、(PRAの要件のため)ボラティリティ調整よりもマッチング調整の使用を好んでいる:

■市場リスクに関する内部モデルには、ソロSCRとグループSCRへのローカル寄与の両方に対するSCRの計算におけるボラティリティ調整の将来の変化を予測する「動的ボラティリティ調整」のモデル化が含まれる。しかし、PRAの立場は、英国はSCRの算出におけるボラティリティ調整の水準を変更してはならないということである。その結果、AXA Insurance UK plcの市場リスクモデリングには、ソロSCRの計算における動的ボラティリティ調整の利益を取り除くための調整が含まれている。

■PRAは、厳しい財政状況において年金基金の負債をより慎重にモデル化することを要求した。IAS第19号によれば、年金負債は社債のスプレッド・カーブで割り引かれている。保守性な理由から、(グループSCRへの英国寄与分の25%ではなく)AXA Insurance UK plc及びAXA PPP healthcare LtdのソロSCR計算の社債スプレッドの動きに対して、50%のヘアカットが適用される。

個々の事業レベルで使用される内部モデルとAXAグループのSCRの計算に使用される内部モデルとの間には、他の違いはない。

(2)Generaliの例
Generaliは、「法人レベルでのSCRの計算には異なるアプローチが適用される」として、以下の通り説明している。

具体的には、「ローカルに特定の較正に関して、イタリアの会社については、グループ・レベル及び他のPIM事業体の計算とは異なって、イタリア政府債務へのストレスや確率論的ボラティリティ調整は適用されない。」ことになっている。これも、イタリアの保険監督当局のIVASSのスタンス等を反映したものとなっている。

E.4.3.内部モデルで使用された方法

法人レベルでのSCRの計算には異なるアプローチが適用される
グループPIM(部分内部モデル)は、PIM範囲内の会社のSCRの計算のためにも、グループ・レベルでのSCRの計算の両方に対しても、承認されている。 この目的のために、ローカル適合性評価は、モデリングと較正が範囲内の会社に対しても適切なままであることを認めている。 ローカルに特定の較正に関しては、イタリアの会社については、グループ・レベル及び他のPIM事業体の計算とは異なって、イタリア政府債務へのストレスや確率論的ボラティリティ調整は適用されないことに留意されたい。

 

4―まとめ

4―まとめ

今回のレポートでは、欧州大手保険グループ各社のSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、標準式と各社で実際に使用された内部モデルの差異の説明内容について報告してきた。

1回目のSFCRの全体的な状況に関するレポートで、今回のSFCRは必ずしも高い評価を得ていない、ということを報告した。

今回のSFCRが、ソルベンシーと財務状況に関して、基本的にはこれまでに公開されてきた以上の詳しい情報を提供しており、それらの情報が、欧州保険会社の財務状況等に関する一般の利用者の理解をより深めるものになっていることは間違いない。その意味で、SFCRの存在意義は大きいものと思われる。

ただし、一方で、保険会社の立場から見て、SFCRの作成にかかる労力等を考慮した場合に、それに見合うものになっているのか、さらには、保険契約者や投資家等の立場から見て、現在の報告内容が本当に理解できる有益なものになっているのか、という意見があるのも事実である。

例えば、今回報告した「標準式と使用された内部モデルの差異」に関する事項の記述については、欧州大手保険グループ間でも記述内容のレベルに差異が見られる。各社とも定性的事項の説明のみで、各種の内部モデルの採用により、どのような効果が得られたのかという定量的事項に関しては説明されていない。こうした内容はもちろん監督当局には報告されているものと思われるが、外部に対しては公表されていない。さらには、内部モデルの定性的説明についても、一部でさらなる詳しい内容の説明を期待していた向きにとっては期待外れであったとも推測される。

EIOPAは、1回目のレポートで述べたようなアナリスト等からの「保険会社間の比較可能性という観点からの今回の情報の有用性」に対する批判等を受けて、アナリスト、格付機関、ジャーナリスト、消費者保護団体等に対して、LTG措置や移行措置の影響に関する報告が適切で十分であると感じているかどうか、市場参加者がある指標を別の指標に対して不均衡に焦点を当てていないかどうかを調べることを目的とした「調査」を行うこととしている。これらの措置に関する開示が、保険会社間の直接的な比較に役立ったのかどうか、これらの措置を使用することが保険会社の評価にどのような影響を与えるのか等についての意見を伺うこととしている。

繰り返しになるが、監督当局に対する報告には、保険会社のリスク管理等の構造や保険会社間の相対比較を知る上で、重要な多くの有用な情報が含まれているものと思われる。こうした情報の開示も含めて、先に述べた「調査」等を通じて得られる外部の利用者の意見等も踏まえて、さらにはEIOPA、各国監督当局、保険会社自身のレビューを通じて、SFCRの充実・見直しが行われていき、その有用性がより一層高められていくことが期待される。

今回のSFCRの公表によって開示されている情報等については、日本の保険会社等にとっても大変有益なものであり、今後の日本における保険監督規制のあり方等を検討していく上でも大いに参考になるものと思われる。

SFCRを巡る動きに関しては、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年07月24日「保険・年金フォーカス」)

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