2017年07月24日

欧州保険会社が2016年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(4)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その3)-

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1―はじめに

欧州の保険会社各社が5月中旬から6月末にかけて公表した単体及びグループベースのSFCR(Solvency and Financial Condition Report:ソルベンシー財務状況報告書)については、1回目のレポートでその全体的な状況について報告した。また、2回目及び3回目のレポートでは、欧州大手保険会社グループ各社の長期保証措置や移行措置の適用の影響及び内部モデルの適用についての全体的な状況等を報告した。

今回のレポートでは、内部モデルに関して、標準式と各社で実際に使用された内部モデルとの差異の説明内容について報告する。
 

2―標準式と使用された内部モデルとの差異説明

2―標準式と使用された内部モデルとの差異説明

標準式と使用された内部モデルとの差異の説明については、欧州大手保険グループ6社(AXA、Allianz、Generali、Prudential、Aviva、Aegon)は、各社各様の方式で行っている。

リスクカテゴリ毎にポイントをまとめて説明している方式が一般的だが、Allianz とPrudentialは、さらに標準式と使用された内部モデルの対比表を作成している。

この章では、代表的な記載例について紹介する。
Allianzの例
Allianzは、6社のうち、「E.4.標準式と使用された内部モデルの差異」に5ページと最もページ数を費やしている。その記述は、以下の通りとなっている。

(1) 内部モデルの範囲と使用法及び基礎となる方法論
Allianzの場合、まずは、「E.4.1内部モデルの範囲と使用法」を説明した後、「E.4.2内部モデルの基礎となる方法論」において、「部分内部リスク資本モデルは、モンテカルロ・シミュレーションを用いたバリューアットリスク(VaR)アプローチに基づいている。」こと、さらに「99.5%の信頼水準」でリスク資本が計算される、ことを説明している。

最後に、内部モデルと標準式によるリスクカテゴリの構造の差異を図表で示している。

この図表からわかるように、リスクカテゴリ自体も必ずしも標準式に準じているわけではない。

Allianzの内部モデルでは、市場、信用、生命引受け、損害保険料準備金、ビジネス、オペレーショナルの6つのリスクカテゴリに分類している。

E.4標準式と使用された内部モデルの差異
このセクションでは、部分内部モデルとその基礎となる方法論と集計手順の範囲と使用法を説明し、部分内部モデルと標準式の差異の概要を説明する。

E.4.1内部モデルの範囲と使用法
Allianzグループが部分内部モデルを使用している様々な目的の説明については、「B.ガバナンス制度」の章を参照のこと。部分内部モデルとその説明の対象となるビジネスユニットについては、付録のQRT S.32.01.22を参照のこと。部分内部モデルによってカバーされるリスクカテゴリは、「C.リスクプロファイル」の章で提示され、説明されている。

E.4.2内部モデルの基礎となる方法論
当社の部分内部リスク資本モデルは、モンテカルロ・シミュレーションを用いたバリューアットリスク(VaR)アプローチに基づいている。リスク計算は、市場価値のバランスシートから始まる。各ポジションを関連するリスク要因及び関連するリスクカテゴリに帰属させる。例えば、債券は、リスクフリーの金利曲線と信用スプレッド曲線(とりわけ)に起因している。その結果、金利、信用スプレッド又は通貨リスクならびに信用リスクのカテゴリのようなそれぞれの市場リスクカテゴリに含めることになる。リスク資本は、各リスク要因の基礎となる配賦仮定に基づいて、予想される期間にわたって資産及び負債の経済的正味公正価値の変動として定義される。

このアプローチに続いて、当社は、特定の期間(「保有期間」)及び発生確率(「信頼水準」)内でのモデルの範囲における当社の事業ポートフォリオ価値の最大損失を決定する。99.5%の信頼水準を想定し、1年間の保有期間を適用する。リスク資本は、各シナリオにおいて経済価値の変化が全てのリスク要因の同時実現から得られる損益分布から99.5%のリスク価値として計算される。

可能であれば、分配は市場データ又は当社独自の内部履歴データ、例えば保険数理上の仮定を設定するために較正される。加えて、保険業界、監督当局、アクチュアリー会からの提言を検討する。

部分内部モデルには、リスクタイプに細分化できる一連のリスクカテゴリが含まれている。 これらのレベルのそれぞれについて、部分内部モデルは、単独ベースで、即ち他のタイプ又はカテゴリへの分散化の前にリスク数値を提供するが、前記の分散化も考慮に入れて集計レベルで提供する(「E.4.3集計及び資本追加」と呼ばれる)。それぞれのリスクカテゴリの詳細な説明は、「C.リスクプロファイル」の章にある。

次の2つの図は、部分内部モデルに含まれるリスクカテゴリと、比較のために、標準式の構造を示している。

部分内部モデルに含まれるリスクカテゴリ

(2)集計及び資本追加
リスクの集約については、ガウス型コピュラに基づく業界標準の手法を使用している。相関行列は、コピュラのリスク間の相互依存性を定義する。可能であれば、数年にわたる四半期観測を考慮して、過去の市場データの統計分析を通じて市場リスクの各ペアについて相関パラメータを導出している。

部分内部モデル内のリスクの集計後、追加の「内部モデル資本バッファー」がいくつかの理由により考慮される。

部分内部モデルの範囲に含まれない会社については、保険会社の場合、標準モデルに基づいている。米国子会社等は、第三国同等性原則に基づいて、それぞれの現地資本要件に基づいている。非保険会社は、銀行や資産運用会社などの個別セクターの資本要件が使用される。

さらに、分散効果についても説明している。

E.4.3集計および資本追加
リスクを集約するために、ガウス型コピュラに基づく業界標準の手法を使用する。相関行列は、コピュラのリスク間の相互依存性を定義する。可能であれば、数年にわたる四半期観測を考慮して、過去の市場データの統計分析を通じて市場リスクの各ペアについて相関パラメータを導出する。歴史的市場データまたはその他のポートフォリオ固有の観察が不十分または利用できない場合、相関は明確なグループ全体のプロセスに従って設定される。これは、リスクとビジネスの専門家の専門知識を組み合わせた専用の社内委員会、相関設定委員会によって行われる。我々は、通常、相関パラメータを、不利な状況下でのリスクの合同移動を代表するように定義する。

分散化されたリスク資本を決定するために、前項で説明した方法論を適用したリスクの共同実現に基づいて、200年間のイベントについて経済価値の変化を計算する。

部分内部モデル内のリスクの集計後、追加の「内部モデル資本バッファー」が異なる理由により考慮される。

-複製ポートフォリオの可能性のある不十分な質を補填し、リスクキャピタルが過小評価されないことを確実にするために

-保険契約者の配当によるリスク軽減効果が将来の任意給付によって提供されるバッファーよりも高くなる可能性がある場合に(「バッファーの多重使用」 )。

さらなる資本要件が、部分内部モデルの範囲に含まれない会社について考慮される。保険会社の場合、これらの要件は標準モデルに基づいている。第三国同等性原則の下で考慮されている会社(主にAllianz Life US)については、それぞれの現地資本要件に基づいている。非保険会社は、銀行や資産運用会社などの個別セクターの資本要件で含まれる。

「C.リスクプロファイル」の章で説明したように、分散化は、異なるリスクが互いに完全に依存せず、全てのリスクが同時に実現するわけではないという事実によってもたらされる。これは、部分内部モデルに基づく相関によって反映される。部分内部モデルには、モデル化されたリスクドライバの各ペアの相関が含まれているため、標準と比較して分散化がより詳細に反映される。この点については、次のセクションで説明する内容も参照のこと。グループ分散効果の詳細については、「C.リスクプロファイル」の章を参照のこと。

Allianz Groupは、グループSCRとローカルSCRの両方の計算に1つの内部モデルのみを適用する。ローカルモデルコンポーネントを使用することができ、ローカルモデルコンポーネントの責任とその較正は、ローカル会社にある。

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中村 亮一

研究・専門分野

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