2017年06月30日

2016年度生命保険会社決算の概要

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

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【図表-7】利差益(逆ざや)の状況(大手中堅9社計) 2減少に転じた利差益
逆ざや、利差益について、さらに詳しく分析してみた。(図表-7 、8)

用語の混乱を避けるため、「基礎利回り」-「平均予定利率」、を計算し、それがプラスのとき「利差益」、マイナスのとき「逆ざや」と呼ぶことにしておく。(あるいはこれに責任準備金を乗じた金額のこともそう呼ぶ。)
【図表-8】利差益(逆ざや)状況の推移(9社計) 「基礎利回り」とは、基礎利益のうち資産運用損益にかかわる部分であり、これが契約者に保証している利率(予定利率)を下回る状態を逆ざやと言っていたのであった。

2008年度を底として、2012年度まで逆ざやであったものが、2013年度から利差益に回復し、2015年度には4,607億円の利差益となったが、2016年度は4,035億円へと減少に転じた(なお、個々にみると、一部の会社はまだ逆ざやである。)

「平均予定利率」は、保有している保険契約の負債コストを表すことになるが、過去に契約した高予定利率の契約が減少していくことにより、毎年約▲0.1%の緩やかな低下を続けており、現在の新規契約の予定利率が1%程度であることから、今後もしばらく低下傾向は続くだろう。

一方、「基礎利回り」は、▲0.12ポイント低下した。主要な構成要素である利息配当金収入合計は多くの会社で減少した。運用資産の中でも中心となる国内債券に関しては、超低水準の金利が続いているので、保有債券の年限などにもよるが、利回りは低下傾向にあると思われる。今後も利息収入にじわじわと悪影響をもたらすことになるだろう。そうした状況に対し、外貨建債券などへのシフトもすすんでおり、利息減少を緩和していると思われる。

しかし、次年度の利差益ひいては基礎利益については、何社かは今後減少傾向にあると予想しているようであり、逆ざやが復活する事態をも懸念している。
3当期利益は増加~引き続き内部留保に重点をおくが、配当も安定的な水準
次に当期利益の動きである。基礎利益、当期利益ともに減少した。以下、当期利益を構成する、基礎利益、キャピタル損益、特別損益の状況を概観し、その後、当期利益の使途を見る。(図表-9)
【図表-9】当期利益とその使途(大手中堅9社計) 基礎利益(①)、キャピタル損益(②+③)とも減少し、その合計額は19,764億円と対前年度▲2,021億円の減少となった。また、「⑧その他」のほとんどを占めるのが、追加責任準備金(逆ざや負担に備えるため、予定利率よりも低い評価利率を用いて責任準備金を高めに評価したことによる差額分。これが平均予定利率を下げる効果を発揮し、逆ざや解消の早期化に貢献してきた。)の繰入額である。前年度同様9社中6社が、個人年金など貯蓄性の高い商品を対象として繰入を行なっているが、金額自体は前年度ほどではなかった。

危険準備金や価格変動準備金の繰入・戻入は、基本的には保険業法に基づく統一の積立ルールに沿っているとはいえ、そのルールの範囲内での政策判断の余地はある。それを見るため、これらを繰入・戻入する前のベースに修正した「当期利益」(表中(A))は前年度より増加して16,192億円となっている。同じく政策要素の強い追加責任準備金を積み立てる前の状態に、さらに戻せば、18,052億円(A')と、前年度より若干減少しているのが実態といえるだろう。

さてこうした利益の使途であるが、ここ数年は価格変動準備金を中心に増加している(内部留保の増加(B))。これに、前年度ほどではないとはいえ、先に述べた追加的責任準備金繰入を加算した実質的な内部留保の増加額(B’)も12,340億円と、前年度並みの積み増しとなった。

一方、配当であるが、5,712億円が還元(株式会社の契約者配当を含む)されることとなった。
 
このような見方をすれば、2016年度は「実質的な利益」の68%が内部留保に、残り32%が配当にまわっているとみることができ、引き続き内部留保の充実により重点がおかれている。

配当還元の金額は、対前年▲573億円減少している。9社中3社が、危険差益関係で増配する一方で、2社が利差関係の配当を減配する予定となっている。
4ソルベンシー・マージン比率~若干低下したが高水準を維持
ストックベースの健全性指標であるソルベンシー・マージン比率(9社合計ベース)をみたものが図表-10である。ソルベンシー・マージン総額と保有リスクとの関係を見るため、形式的に9社計で算出した比率は前年度の916.8%から903.4%へと若干低下したが引き続き高水準にある。
【図表-10】ソルベンシー・マージン比率(大手中堅9社計) 2016年度は、その他有価証券に分類される株式や外国証券の含み益はほぼ横ばいの一方で、資産運用リスクは増加しており、外貨建て資産へのシフトによるものと思われる。

また当期利益の使途でふれたように、オンバランス自己資本(貸借対照表の資本、危険準備金、価格変動準備金などの合計)は積み増されてはいるが、リスクの増加とほぼ均衡したような水準になっている。

なお、昨年度も触れたが、現在、経済価値ベースのソルベンシーの検討が進められているところである。ここ1年は表面的な動きはなかったが、近い将来、責任準備金を時価評価することや、金利リスクの評価方法を中心に、算出方法が大きく変わると考えられる。
 

3――かんぽ生命の状況

3――かんぽ生命の状況

【図表-11】2015年度 かんぽ生命の業績 かんぽ生命は歴史的な経緯も異なり、規模も大きいので、もうしばらくの間、別途概観する。

個人保険の業績動向を見たものが図表-11である。個人保険の新契約高は、6.8%の増加となった。(前年度はかんぽ生命▲1.4%、9社計▲2.2%)。なお、保有契約の減少率は▲2.4%と9社計と同程度である。(別途「郵便貯金・簡易生命保険管理機構」で管理される、民営化前の旧簡易保険契約を含む。)
【図表-12】かんぽ生命の基礎利益 基礎利益の状況は次のとおりである。(図表-12)

利差益が786億円へと減少している。平均予定利率は低下したものの、基礎利回りの低下幅のほうが大きいことにより減少しているのは他の国内大手社などと同様である。危険差と費差の内訳は開示されなくなっているが、保有契約の減少を反映したものか、両者合計では減少した。

かんぽ生命の資産運用は、有価証券については、国債・地方債・社債がほとんどを占めており、中でも国債の構成比が有価証券全体の67%となっている。(前年度は69%)株式への投資はほとんどない。この点は他の伝統的な大手中堅生保とは異なる、より安全性を重視した運用ポートフォリオとなっている。(9社計で有価証券中国債の構成比は42%)

そうしたこともあり、基礎利回りが低い反面、ソルベンシー・マージン比率は高い。2016年度は1,289.1%へと低下した(前年度は1,568.10%)ものの、もともと高い水準にある。こうした高水準は、リスク性資産の構成割合が従来から低いことに加え、内部留保が厚いことに起因する。例えば、民営化前の旧簡易保険契約(貯金・簡易生命保険管理機構からかんぽ生命が受再している形態)を含め2.2兆円の危険準備金を保有している。かんぽ生命を除く民間生保41社の合計額が、ここ3年増加してきても4.3兆円であることからも、水準の厚さがうかがえる。また逆ざやに備えるための追加責任準備金が累計で5.9兆円と、引き続き厚い水準にある。
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保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2017年06月30日「ニッセイ基礎研所報」)

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