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2017年07月05日
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リスク・シフティング仮説とリスク・マネジメント仮説
株主の立場から年金運用を検討する代表的な仮説として、リスク・シフティング仮説と、リスク・マネジメント仮説がある。前者は、株主価値最大化のために、年金運用では株式を上限まで保有するというものであり、後者は、企業の存続を意識して、安定運用を目指すものである。
Sharpe(1976)が提唱したリスク・シフティング仮説は、株主のモラルハザードを前提とした考え方である。図表3は母体企業の破たん時における株主のペイオフを表している。(1)年金資産が年金負債L(年金債務の現在価値)を下回った場合、企業(株主)は、追加的な掛金の拠出を行う。年金資産が負債を下回る状況(AT<L)で、母体企業が破たんした場合、米国では年金保障公社(Pension Benefit Guarantee Corporation: PBGC) が年金制度を引き継ぎ、一定レベルの年金給付を行うこと保障している。このため、(2)破たん時に株主は不足分L-ATの支払いを免れること、つまりPBGC からL-ATの分の利益を得ることができる。
年金資産のリスクを10%の場合(青線)とするよりも、30%(オレンジ線)とした方が、株主が保有する債務不履行オプションの価値が高まる。株主はできるだけ年金資産のリスクを増やす、つまり株式への配分を増やすことで株主価値を高めることができる。したがって、できる限り株式への配分を高めようとする。
これに対して、現実の年金運用では株式100%などの極端な資産配分が観察されない。また、PBGC による企業破たん時の年金基金の引継ぎ方法も修正され、破たん企業の一部の資産に対して、PBGC は租税債権者と同等な強い立場を持っている。グループ会社に対しても一定の権利を保有しており、以前よりは、積立不足の基金のPBGC への引継ぎは見られなくなっている。
Rauh(2006)では、リスク・シフティング仮説に代わるリスク・マネジメント仮説を提唱した(図表5)。これは、仮に母体企業が破たんする可能性が高まった際に、株主がリスク・シフティング仮説に基づき、年金運用でリスク資産を増やして運用し、株主価値を高めようとしたとする。この時、市場全体の株価が低下し、年金資産は大幅減少し、企業価値(株主価値)が低下したが、母体企業の破たんは免れたとする。
この場合、企業には財政状態が非常に悪化した年金基金が残ることになる。(1)株主は企業に残る少ない資金で、(2)年金不足額が解消するまで、追加的な掛金を優先して支払わなければならず、この間、(3)新規の投資や配当の支払いが制限され、財務的なフレキシビリティーが著しく低下する。そのため、株価がさらに低下することや、(4)場合によっては、事業に十分な資金が回らず、破綻する可能性がさらに高まることもある。
これに対して、現実の年金運用では株式100%などの極端な資産配分が観察されない。また、PBGC による企業破たん時の年金基金の引継ぎ方法も修正され、破たん企業の一部の資産に対して、PBGC は租税債権者と同等な強い立場を持っている。グループ会社に対しても一定の権利を保有しており、以前よりは、積立不足の基金のPBGC への引継ぎは見られなくなっている。
Rauh(2006)では、リスク・シフティング仮説に代わるリスク・マネジメント仮説を提唱した(図表5)。これは、仮に母体企業が破たんする可能性が高まった際に、株主がリスク・シフティング仮説に基づき、年金運用でリスク資産を増やして運用し、株主価値を高めようとしたとする。この時、市場全体の株価が低下し、年金資産は大幅減少し、企業価値(株主価値)が低下したが、母体企業の破たんは免れたとする。
この場合、企業には財政状態が非常に悪化した年金基金が残ることになる。(1)株主は企業に残る少ない資金で、(2)年金不足額が解消するまで、追加的な掛金を優先して支払わなければならず、この間、(3)新規の投資や配当の支払いが制限され、財務的なフレキシビリティーが著しく低下する。そのため、株価がさらに低下することや、(4)場合によっては、事業に十分な資金が回らず、破綻する可能性がさらに高まることもある。
このような危機的な状況を避けるために、株主は母体企業の破たんリスクが高まった場合、あるいは、年金基金の財政状態が悪化した場合に、株式への配分を減らし債券への配分を増やすことで、株主が危機的な状況を回避するように行動すると予測するのがリスク・マネジメント仮説である。逆に破たんリスクが下がった場合や、基金の財政状態が改善した場合では、株式への配分を増やすことが予想される。リスク・マネジメント仮説が支持されるとすれば、年金基金は、株価が低下した際には株式配分を減らし、逆に株価が上昇した際には、株式配分を増やすという順張り的な資産配分が観察されるはずである。
(2017年07月05日「ニッセイ年金ストラテジー」)
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