2017年06月27日

諸利率について(1) 貸付利率-契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率

小林 雅史

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1――はじめに

諸利率とは何であろうか。

聞きなれない言葉であるが、諸利率とは、保険契約に適用される利率を意味し、契約者に対する貸付利率、保険料の前納割引利率・積立利率、配当金の積立利率、保険金や給付金を据え置いた場合の据置利率など、契約者資金の預かり利率を指す。

予定利率の意義と開示状況については、先日、小著「予定利率の開示について-顧客にとってわかりやすい開示とは1で紹介したが、本レポートでは、諸利率のうち、まず契約者貸付、保険料振替貸付という契約者に対する貸付利率の概要と開示状況などを紹介することとしたい。
 
1 小著「予定利率の開示について-顧客にとってわかりやすい開示とは」『保険・年金フォーカス』、2017年4月25日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55577?site=nli
 

2――貸付利率が適用される各制度

2――貸付利率が適用される各制度

1契約者貸付
契約者貸付とは、保険契約の解約返戻金の一定範囲内で、保険契約者が保険会社から貸付をうけることができるという制度である2

保険契約者に一時的な資金が必要となった場合に、保険契約を解約することなく、保障を継続したままで資金調達が可能であるという、「保険契約者の便宜に資する」3制度とされている。

契約者貸付が可能な解約返戻金の一定範囲内(貸付可能額)については、解約返戻金の9割(平準払契約)、8割(一時払契約)とされることが多い。

解約返戻金がない商品(解約返戻金をなくすことにより保険料を低く抑えた商品など)や、解約返戻金が少ない商品(短期の定期保険など)などには契約者貸付制度がなく、また、保険期間の経過によりいったん増加した解約返戻金が減少する商品(長期の定期保険など)では、貸付可能額が低く設定されている場合がある。

通常の貸付には返済期限が定められているが、契約者貸付には返済期限がなく、保険金支払いや解約などにより保険契約が消滅するときに、支払われる保険金や解約返戻金などと精算される点が契約者貸付の特徴である。

さらに、貸付残高が解約返戻金を上回った場合には、その超過額を返済する必要があり、返済がなければ保険契約は失効する(超過貸による失効。こうした事態が借り入れ直後に発生するのを回避するため、前述のとおり解約返戻金の一定範囲内に制限している)。

なお近年、契約者貸付制度を変更し、貸付期間を1年とし、貸付可能額を低く設定して、契約者に返済が必要な貸付であることを意識付け、超過貸による失効を未然に防止する取り組みを行なっている保険会社もある4
 
2 「契約者貸付」、生命保険文化センターホームページ。
3 山下友信『保険法』669~675ページ、有斐閣、2005年3月。
4 高橋優「日本生命の商品制度の抜本見直しについて」『生命保険経営』第81巻第2号、2013年3月。
2保険料自動振替貸付
保険料自動振替貸付とは、保険契約の解約返戻金の範囲内で、保険料の払込みがないまま保険料払込猶予期間が経過した場合に、保険料を自動的に貸し付ける制度である。

一方、当制度の適用により解約返戻金は減少することから、当制度が適用された場合でも、一定期間内に解約や減額などが行なわれた場合には、保険料自動振替貸付はなかったものとされる5

当制度については、保険契約者への説明が十分でないことなどから、保険契約者が認識しないまま保険料自動振替貸付が適用されるなどのトラブルが発生した。

こうした事態を受け、2011年6月、金融庁は「保険会社向けの総合的な監督指針」を改正し、当制度の適用は保険契約者の選択に委ねられていることの募集段階での明示や、適用にあたっての保険契約者への通知が義務付けられた6

このほか、保険料の払込みがないケースについては、保険料の払込期月までに保険料を支払わず、その後1か月の保険料払込猶予期間内にも保険料の払込がないときは、保険会社側が払込みの催告を要することなく保険契約は効力を失う旨の条項(無催告失効条項)の有効性が争われた事案も発生している7

こうした点にも配慮し、近年、保険料の払込みがない場合の保険料払込猶予期間を1か月から2か月に延長し、顧客への通知を充実させるとともに、保険料自動振替貸付制度を保険契約者の申し出を前提とした制度に改定した保険会社もある8
 
5 「保険料の自動振替貸付(保険料の立て替え)」、生命保険文化センターホームページ、山下友信『保険法』前掲675~676ページ。
6 「『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)の公表について」(2011年3月31日)、「『保険会社向けの総合的な監督指針』等の一部改正(案)に対する意見募集の結果等について」(2011年6月9日)、金融庁ホームページ。
7 「生命保険契約約款の保険料不払失効条項と消費者契約法10条」、国民生活センターホームページ。
8 高橋優前掲論文。
 

3――契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率の変遷

3――契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率の変遷

契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率については、戦後ともに6%、1955年11月から契約者貸付利率は8%、保険料自動振替貸付利率は6%となり、1985年4月からともに8%、1989年7月にはともに7%となった(なお、約款で別途利率の規定がある保険種類については約款に従う)。

こうした貸付利率の設定は、契約者への還元利回りである配当基準利回り(予定利率+利差配当率、ⅰ+Δⅰ)とのバランスをとったものである(配当基準利回りは最高で8.2%に達した)。

1991年4月には、貸付利率の設定方式について、配当基準利回りと市中金利(長期プライムレート)の双方を反映する方式とする会社が現れ(その時点では7%に据え置き)9、各社も追随した。

これは、米国で発生したディスインターミディエーション(市中金利より契約者貸付利率が低かった時代に、保険契約から資金が流失、他の金融資産へ移転)に対応し、NAIC(全米保険監督官協会)が定めた契約者貸付利率モデル法案(契約者に付利する金利+1%または社債金利のいずれか高い金利を貸付利率とする方式)10を参考としたものである。

さらに、市中金利の低下は続き、契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率は、1992年4月には6.5%に、1992年10月には6.25%に、1994年10月には5.75%に引き下げられた11

一方、予定利率についても、5%(1976年3月~)、5.5%(1985年4月~)、4.75%(1993年4月~)、3.75%(1994年4月~)などと変遷し、1996年4月、標準責任準備金制度が導入され、標準利率などにもとづいて生保各社が独自に予定利率を設定することとなったが12、当時は標準利率と同水準の2.75%に予定利率を引き下げる会社がほとんどであった。

貸付利率について、当該契約の予定利率によらず全契約一律に設定する場合には、当時の保有契約の大半を占める予定利率5.5%以上に設定しないと、予定利率以上の運用が不可能となる。

一方、予定利率が3.75%や2.75%の契約について、貸付利率を従来と同水準の5.75%とすると、当時の市中金利に比べ相対的に高くなり、顧客に不利益となる。

そこで、1996年4月の保険料率の改定(予定利率の2.75%への引き下げなど)と同時に、全契約一律ではなく、契約年度別の貸付利率設定(予定利率の高い契約については貸付利率を高く、予定利率の低い契約については貸付利率を低く設定することとほぼ同義)が実施された。

具体的には、1994年4月1日以前の契約は従来と同水準の5.75%、1994年4月2日以降の契約は4.75%、1996年4月2日以降の契約は3.75%とした13

以降、このように保険契約ごとの予定利率を加味して契約年度別に貸付利率を設定する生保会社が多く、現在に至っている。
 
9 乙幡亨「契約者貸付利率の見直しについて」『生命保険協会会報』第72巻第1号、1991年9月。
10 ブラック、スキッパー『生命保険 第12版』177~178ページ、1996年5月。
11 藤中章三「米英の契約者貸付利率の推移と日本への示唆」『生命保険経営』第62巻第6号、1994年11月。
12 猪ノ口勝徳「民間生保会社の予定利率の変遷と生保商品動向」『共済総研レポート』No.125、2013年12月。
13 「日生 4月から保険料率を改定 契約貸付等諸利率も引下げ実施」『インシュアランス』第3696号、1996年3月28日。
 

4――各生保会社の契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率の開示の状況

4――各生保会社の契約者貸付利率、保険料自動振替貸付利率の開示の状況

現在、生保各社とも、契約年度別の貸付利率を設定している。

2017年4月1日現在、生保商品販売中の40社のうち、契約者貸付制度、保険料自動振替貸付制度のある27社中26社は貸付利率を開示している(1社は既契約者に対してのみ開示している)。

先日の小著で述べたとおり、保険料率の改定を実施しているにもかかわらず、対外的に保険料率改定の事実についてプレス発表を行わない会社は複数存在し、予定利率を開示しない会社も多いが、予定利率と一定の連動性がある貸付利率についてはほぼ全社開示している状況である。

ただ、貸付利率の水準については、契約年度、貸付日や保険種類に応じて各社各様である。
契約年度に応じて最高5.75%、最低3%としている会社が多い。

一方、貸付利率の高い会社としては7.75%(1社)、7%(1社)などがあり、低い会社としては1.12%(2社、いずれも変額年金)などがある。
 

5――おわりに(私見)

5――おわりに(私見)

貸付利率はどのように設定すべきであろうか。

顧客にとっては、より低い金利へのニーズがあり、市中金利が低くなった場合には貸付利率も連動して引き下げるべきという考え方もあろうが、筆者はこうした考え方には賛同できない。

たとえ市中金利が低下した場合でも、予定利率を下回るような貸付利率の設定は、契約者から預かった保険料を予定利率以上で運用できない、すなわち、保険会社としての責任を全うできないおそれが生じるという事態に直結する。

これは、契約者にとって最も不幸な事態である。

また、市中金利が高くなった場合に、貸付利率を予定利率程度の低いままとすると、米国で発生したような資金流失の危惧がある。

NAICのモデル法案は、この2点を踏まえ、貸付利率を契約者に付利する金利+1%または社債金利のいずれか高い金利とするという合理的な設定となっている。

筆者としては、生保各社は、マイナス金利など異常な低金利下においても、契約年度に応じた設定という、契約者間の公平性を図る合理的な観点から貸付利率を設定しているものと考えている。
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小林 雅史

研究・専門分野

(2017年06月27日「保険・年金フォーカス」)

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