2017年06月23日

中国経済:景気指標の総点検(2017年夏季号)~党大会までは大丈夫と囁かれる中、景気悪化のサインが点灯!

三尾 幸吉郎

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1.最近の金融マーケット

最近の金融マーケットを概観すると、株価はボックス圏で一進一退、人民元は小反発、住宅価格は上昇を続けており、短期金利は上昇し始めた。まず、株式市場に焦点を当てると、15年後半以降ミニバブルの崩壊で何度か急落を演じたものの、16年1月28日(上海総合で2655.66)でボトムアウト、その後はボックス圏で推移している(図表-1)。株価急落時に下値を支えた政府系ファンド(国家隊)が売りに転じた一方、株価急落時に打ち出された年金基金が株式投資を開始、上値も下値も重い展開となっている。為替市場に目を転じると、15年8月には人民元の米ドルに対する基準値を3日間で約4.5%切り下げ(市場実勢の下落は約3%)、その後も下値を探る動きが続いたが、17年に入ると下げ止まり小反発した(図表-2)。米国では15年12月以降4回の利上げを実施、今後も段階的な利上げが予想されている。しかし、トランプ政権への期待が萎むとともに米国の長期金利は低下、米中の長期金利差は大方の予想を覆して拡大、それまでの米ドル高は修正局面を迎えている。また、住宅市場では16年7月に前回高値を上回って、最高値更新を続けている(図表-3)。中国政府(含む中国人民銀行)は住宅バブルの退治に乗り出した。それまで高騰の目立っていた深圳市や上海市などでは上昇に歯止めが掛かったものの、住宅バブルは周辺に飛び火している。そして、短期金利は上昇し始めた。中国人民銀行は15年10月に基準金利(預金・貸出)を引き下げて以降その後は据え置いているが、リバースレポ(7日物)や常設流動性ファシリティなどを2回に渡って引き上げるなど、金融を引き締め方向にコントロールしている(図表-4)。
(図表-1)上海総合の推移/(図表-2)人民元レート(対米ドル、スポットオファー)/(図表-3)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均)/(図表-4)金融市場の動き

2.景気10指標の点検

2.景気10指標の点検

(図表-5)工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)の推移 1|供給面の3指標
 
【工業生産】
景気指標の中でGDPへの影響が最も大きいのが工業生産(実質付加価値ベース、一定規模以上)である。ここもとの経済のサービス化で影響力が落ちたとはいえ、依然その有効性は高い。4-5月期の工業生産は前年同期比6.6%増(推定1)と1-3月期の同6.8%増を0.2ポイント下回った。6月の動きが未反映とはいえ、第2四半期(4-6月期)の成長率は第1四半期(1-3月期)を下回る可能性が高いことを示唆している(図表-5)。
 
1 中国では、統計方法の改定時に新基準で計測した過去の数値を公表しない場合が多く、また1月からの年度累計で公表される統計も多い。本稿では、四半期毎の伸びを見るためなどの目的で、ニッセイ基礎研究所で中国国家統計局などが公表したデータを元に推定した数値を掲載している。またその場合には“(推定)”と付して公表された数値と区別している。
(図表-6)製造業PMI 【製造業PMI】
製造業の動向を示す代表指標となるのが製造業PMI(製造業購買担当者景気指数、中国国家統計局)である。これは製造業3000社の購買担当者へのアンケート調査を元に計算されるもので、通常は50%が拡張・収縮の分岐点とされる。ここもと4月、5月がともに51.2%と、第1四半期の平均(51.6%)をやや下回る水準で推移、将来3ヵ月に対する見通しを示す予想指数も2月の60.0%をピークに5月は56.8%と低下してきており、頭打ち感がでてきた(図表-6)。
(図表-7)非製造業PMI 【非製造業PMI】
一方、非製造業の動向を示す代表指標となるのが非製造業PMI(非製造業商務活動指数、中国国家統計局)である。中国では製造業からサービス業への構造転換が進行中なためその重要性は増している。製造業PMIと同様に50%が拡張・収縮の分岐点とされる。ここもと4月は54.0%、5月は54.5%となっており、第1四半期の平均(54.6%)とほぼ同水準で推移している。また、予想指数も60%前後の高水準を維持しており、非製造業PMI大きく落ち込む可能性は当面低いだろう(図表-7)。
(図表-8)業種別に見た小売売上高(限額以上企業)の動き 2需要面の3指標
【小売売上高】
個人消費の動きを示す代表指標となるのが小売売上高である。1-5月期の小売売上高は前年同期比10.3%増と16年通期の同10.4%増を0.1ポイント下回った。内訳を見ると、飲食や化粧品は16年通期の伸びを上回っているものの、日用品や自動車は下回っており、特に自動車は小型車減税の縮小を受けて16年通期の同10.1%増から同4.2%増へ伸びが鈍化した(図表-8)。但し、前四半期と比べると、第1四半期の前年同期比10.0%増から4-5月期は同10.7%増(推定)へ0.7ポイント上昇しており、個人消費は第2四半期の成長率を押し上げる要因となる可能性が高い。
(図表-9)固定資産投資(農業の投資を除く) 【固定資産投資】
一方、投資の動きを示す代表指標となる固定資産投資(除く農家の投資)は、1-5月期に前年同期比8.6%増と16年通期の同8.1%増を0.5ポイント上回った。内訳を見ると、IOT投資が勢いを増す製造業は16年通期の同4.2%増から同5.1%増へ0.9ポイント上昇、不動産開発投資は同6.9%増から同8.8%増へ1.9ポイント上昇、インフラ投資は同17.4%増から同20.9%増へ3.5ポイントの大幅な上昇となった(図表-9)。但し、前四半期と比べると、第1四半期の同9.2%増から4-5月期は同7.7%増(推定)へ1.5ポイント低下しており、投資は第2四半期の成長率を押し下げる要因となる可能性が高い。
(図表-10)輸出の先行指標 【輸出】世界の工場といわれる中国では輸出が生産を左右する。1-5月期の輸出額(ドルベース)は前年同期比8.2%増と16年通期の同7.7%減から回復、先行指標も引き続き上昇傾向にある(図表-10)。輸出相手先別の内訳を見ると、米国向けが同11.5%増、欧州(EU)向けが同8.1%増、日本向けが同6.4%増、ASEAN向けが同11.2%増と軒並み増加している。他方、原油高などを受けて輸入が輸出以上に増加したため、4-5月期の貿易黒字は前年同期比6.9%減となっている。但し、第1四半期の同40.9%減に比べるとマイナス幅は縮小、成長率を押し上げる要因になりそうだ。
 
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三尾 幸吉郎

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