2017年06月23日

高齢者見守りサービス-多様なサービスの提供と今後の可能性

小林 雅史

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1――はじめに

高齢化社会の進展に伴い、1人暮らしの高齢者世帯が増え、孤立死の問題などもクローズアップされる中で、営利・非営利の双方で、高齢者向けに見守りサービスを提供する企業が増加している。

わが国において、営利事業として高齢者見守りサービスの提供が開始されたのは、おおむね21世紀に入ってからである。

メーカーやエネルギー会社などが、従来から提供してきた商品やサービスを活かして、新たに高齢者見守りサービスを開発し、はじめて有償で提供する形態であった。

以降、ホームセキュリティー会社などの参入が相次ぎ、2013年10月には、全国約2万4千の郵便局網を有する日本郵便も、高齢者見守りサービスの提供を開始した。
これは、郵便局員が毎月1回、高齢者自宅を定期訪問することで生活状況を確認し、家族に状況を報告するものである。

2015年10月からは、IBM、Appleと共同で、かんぽ生命も含む郵政グループ全体による高齢者向けタブレット等を活用した実証実験を開始するとともに、2017年4月には、茨城県大子町から高齢者見守りサービス事業を受託した。

一方、地方自治体と連携した民間の非営利事業としての高齢者見守りへの取り組みもあり、宅配便業界や生協などに加え、地方自治体と保険会社との包括連携協定締結の中での無償での高齢者見守りの動きも進んでいる。

本レポートでは、本格的なサービス提供後20年近くなる高齢者見守りサービスについて、経緯と現状を紹介することとしたい。
 

2――高齢者見守りサービスの現状

2――高齢者見守りサービスの現状

1高齢者見守りサービスの提供開始
国民生活センターは、2003年6月6日、報告書「高齢者の安否見守りサービス」を公表した1

この報告書は、高齢化の進展により、従来、市区町村の民生委員による戸別訪問など、行政の福祉の分野とみなされてきた高齢者向けサービスが、民間事業者を中心に拡大しているとして、事業者4社に対してアンケート調査などを行なった結果をまとめたものである。
同報告書においては、それまで提供されてきた高齢者側が異常事態発生時に自ら通報する緊急通報サービスに加えて、

「高齢者の電気ポットやガスの利用状況を離れて住む家族等のパソコンや携帯電話に送信したり、 あるいは部屋に取り付けたセンサーによって高齢者の在室状況を送信する、など商品や機器と情報通信機器を活用したサービスが、このところ相次いで登場している」

として、高齢者から離れて住む家族側が、高齢者の安否を自動的に知ることのできる、有料の安否見守りサービスが近年相次いで登場しているとしている。

(表1)のとおり、当時の調査対象となった事業者4社のうち、調査時点で自治体や介護施設等を対象としていたアートデータ(1998年サービス開始)を除き、個人へのサービス提供は2001年以降であり、おおむね21世紀に入ってから高齢者見守りサービスの提供が開始されたこととなる。

サービス対象地域は日本全国で、比較的支払いやすい料金に設定してあるが、新しいサービスであるため、当時の利用者も50人から1600世帯程度と少ない。

また、「サービスの提供内容としては、日常生活を見守ることに重点を置いたサービスであり、緊急通報サービスではない」とされており、緊急事態を知らせることはできないとの指摘があった。
(表1)事業者4社の高齢者見守りサービス(2003年3月時点)
 
1 「高齢者の安否見守りサービス」(2003年6月6日)、国民生活センターホームページ。


2高齢者見守りサービスへのニーズ(高齢者側、家族側双方のニーズ)
こうした高齢者見守りサービスに対するニーズ動向調査としては、高齢者側のニーズ動向調査と、高齢者の家族側のニーズ動向調査の双方がある。

高齢者側のニーズ動向調査としては、東京都健康長寿医療センター研究所メンバーによる「独居高齢者見守りサービスの利用状況と利用意向」(2011年9月)がある。

これは、2011年9月、東京都大田区において、65歳以上の単身世帯高齢者2,569人全員を対象に、大田区で実施されている公的見守りサービスなどに関する質問表を郵送し、回答があり、実際に独居であった1,095人のデータを分析したものである。

実際の利用者は、緊急通報(公的助成のある有償のペンダント式通報ボタンなど)11.3%、緊急連絡先登録(無償の民生委員への緊急連絡先の登録)18.0%、人的見守り(定期的な電話による安否確認、公的助成額以上の通話料は有償)10.3%、センサー見守り(民間が実施)4.7%となっている。

また今後の利用意向としては、緊急通報47.9%(非利用者については81.4%)、緊急連絡先登録36.2%(同75.1%)、人的見守り32.6%(同60.0%)、センサー見守り30.6%(同53.1%)となっている。

病気や事故などの緊急時に対応するサービスの方が、普段の生活や安否状況を見守るサービスよりも利用率や利用意向が高いという傾向が示されている2

一方、高齢者の家族側のニーズ動向調査としては、財団法人ベターリビングサステナブル居住研究センターによる「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」(2011年12月)がある。

これは、さまざまな民間事業者により、緊急通報サービスや安否確認サービスなどの高齢者見守りサービスが提供される中で、こうしたサービスに対するニーズを把握するため、全国の65歳以上の親と離れて暮らす子世代(30歳以上64歳以下)の男女1,500人を対象として、2011年12月に実施されたものである。

離れて暮らす親への心配度としては、父親については77.6%、母親については81.9%に達するが、実際の見守りサービスへの加入割合は、緊急通報サービスが 3.5%、安否確認サービスが1.0%、駆け付けサービスが1.7%に止まっている。

見守りサービスに加入していない理由としては、「まだ自分の親には必要ない」が47.6%を占め、次いで「親の住まいの近所に自分や兄弟・親戚などがいるから」が42.0%となっている。

今後の見守りサービスへの加入意向としては、「必要と思う時期が来たら加入したい」が 45.9%と多数を占め、「数年以内には加入したい」(3.9%)、「すぐにでも加入したい」(0.8%)を含め、加入意向のある者が過半数を超えるが、「加入を検討する予定はない」とする者も28.4%と3割近くを占めている。

サービスに加入する際の重視する事項としては、「サービス加入時の初期費用や月々の支払料金」が 66.8%、次いで「現場まで駆け付けてくれる時間」が 64.0%となっている。

見守りサービスの妥当な価格水準としては、「緊急通報サービスのみ」と「安否確認サービスのみ」では月額「500 円未満」が半数程度(それぞれ51.9%、48.3%)となっている一方、「緊急通報+安否確認+駆け付けサービス」では月額「3,000円以上」が約4分の1(24.6%)となっており、組み合わせサービスについてはある程度の負担が必要と認識している者が多いことがうかがえる3
 
2 小池高史、深谷太郎、野中久美子、小林江里香、西真理子、村山陽、渡邊麗子、新開省二、藤原佳典「独居高齢者見守りサービスの利用状況と利用意向」『日本公衆衛生雑誌』第60巻第5号、日本公衆衛生学会、2013年5月。
3 「緊急通報・安否確認システムによる高齢者の見守りサービスに関するニーズ調査結果」(2012年11月27日)、財団法人ベターリビングホームページ。
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小林 雅史

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