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保険と見守りによる高齢者居住支援策の推進~賃貸住宅における高齢者入居のリスクに備えて~

社会研究部 都市政策調査室長・ジェロントロジー推進室兼任 塩澤 誠一郎
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住宅セーフティネット法1や改正高齢者住まい法2の施行以降、高齢者に対する居住支援策が充実してきたが、今後ますます高齢者のみ世帯の増加が予測されているなか、高齢者が住み慣れた地域で、安心して入居できる賃貸住宅をさらに確保していくことが求められる。
一方で高齢者入居に対して不安を感じている家主も未だに数多く存在するので、このような家主の不安を解消するための制度構築が必要である。
家主の高齢者入居に対する不安として主に次の4点が挙げられる。(1)家賃の滞納やその際の連帯保証人が確保できないといった不安、(2)独居の場合の孤立死や事故の発生に対する不安、(3)入居高齢者が死亡した場合の残存物の片付けや修繕費用の負担に対する不安、(4)居室内で死亡した場合の資産価値の低下に対する不安である。家主からみると、こうした不安が賃貸住宅経営上のリスクとして捉えられる。
このうち、(1)の家賃の滞納等については、既に高齢者住宅財団による家賃債務保証制度が運用されている。これは、高齢者等の入居を敬遠しないことを条件に、家主が同財団に一定の保証料を支払うことで、借主である高齢者等の滞納家賃や退去時の原状回復費用を保証する制度である。家主の不安を解消する効果は十分にあると思われる。
(2)の孤立死や事故の発生については、2011年からサービス付き高齢者住宅の登録制度が運用されたことから、安否確認等のサービスを備えた高齢者向け賃貸住宅の供給が増えており、一定の効果が期待できる。ただし、一般の賃貸住宅に対する対策が今後の課題となっている。
(3)の入居高齢者が亡くなった場合の残存物の片付けや修繕費用の負担への対処については、保険の活用が考えられる。既に、家主や賃貸住宅管理会社向けに、こうしたリスクに備えるための小額短期保険商品が登場している。賃料に応じた保険料で、入居者が死亡した場合の残存家財の片付けや居室内修繕費用として一定額を保証するもの、入居者が居室内で死亡して修繕が必要になった際に修繕期間中の家賃を保証するもの等がある。
筆者が調べた限り、今のところ、こうした保険商品の取り扱いは数社に限られているが、賃貸住宅の販売業者や賃貸住宅管理業団体、宅地建物取引業者が保険会社と提携して、自社が取り扱う賃貸住宅の家主にこうした保険商品を提供するケースも出始めていることから、今後徐々に普及していくものと思われる。
このような保険活用を全国的に普及させていくとともに、一般賃貸住宅における孤立死や事故発生防止への対応も必要である。その際、参考になる既存の取り組みがある。公益財団法人東京都防災・建築まちづくりセンターや福岡市社会福祉協議会が、高齢入居者向けに実施している事業である。これらの事業は、入居者からの預かり金により、日常の見守りサービスに加えて、死亡時の葬儀の実施、残存家財の片付けをサービスとして提供するものである。身寄りがない高齢者や親族と離れて暮らす高齢者、また、亡くなった後、遺族に迷惑をかけたくないとする高齢者が、自ら備えるための制度である。
家主や賃貸住宅管理業者向けに、このような見守りサービスと先に述べた保険商品をセットにして提供することが、(3)の入居高齢者が死亡した場合の残存物の片付けや修繕費用の負担に対する不安の解消促進に必要である。また、入居を希望する高齢者に対し、このようなサービスを備えた賃貸住宅の空室情報を円滑に提供する体制を整えることも必要であろう。
そのためには、見守りサービスを提供するNPO法人や社会福祉事業者等と宅地建物取引業者や賃貸住宅管理業者等、及び地方自治体が連携して取り組む必要がある。そうした体制づくりの受け皿として、住宅セーフティネット法に基づき各地で設置されてきている居住支援協議会3の活用が期待される。
先に示した高齢者入居に対する家主の不安のうち、(4)の居室内で死亡した場合の資産価値の低下に対する制度的対応は難しいと思うが、以上のような制度構築により、家主が不安に感じるリスクは相当程度解消されよう。2013年以降、保険と見守りサービスを用いた高齢者居住支援策の普及が大きく進展することを期待したい。
(2013年01月09日「研究員の眼」)

03-3512-1814
- 【職歴】
1994年 (株)住宅・都市問題研究所入社
2004年 ニッセイ基礎研究所
2020年より現職
・技術士(建設部門、都市及び地方計画)
【加入団体等】
・我孫子市都市計画審議会委員
・日本建築学会
・日本都市計画学会
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