コラム
2017年06月12日

AIは囲碁や将棋の必勝法等にどのような影響を与えていくのか

中村 亮一

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はじめに

5月23日~27日に、グーグル傘下のディープマインド(Google DeepMind)社によって開発されたコンピューター囲碁プログラムの「AlphaGo(アルファ碁)」が、中国の世界最強とされるプロ棋士である柯潔(かけつ)氏との3番勝負で3戦全勝した。2016年3月9日~15日には、韓国の世界トップクラスのプロ棋士の1人である 李世乭(イ・セドル)氏との5番勝負で4勝1敗で勝ち越しており、これにより、AlphaGoは人間を超える実力を備えたことを証明した。

こうした時期がいつかやってくるということは想定されていたとはいえ、あまりにも早期に実現されたことから、若干寂しい思いもする結果であった。もちろん、AI(人工知能)の研究における画期的な進展を示すものとして、歓迎されるべきものであることは言うまでもない。

さて、個人的には、コンピューター・プログラム等の進展によって、各種のボードゲーム(囲碁、将棋等)の先手や後手の必勝法の解明が進展して、これまで人間同士の対局の経験等によって得られてきた以上の情報がどの程度得られてくることになるのかについて、大きな関心を有している。

先手・後手有利の状況

各種のボードゲームについて、先手や後手の有利性を巡る現在の状況は、以下のようになっている。

「囲碁」については、陣地取りのゲームで、明確に先手が有利と考えられており、先手の有利性を「コミ」という仕組みで調整している。コミは時代によって経験等に基づいた改正が行われてきており、以前は4目半であったものが、1974年に5目半に、さらに2002年に6目半に改正されている。

「将棋」についても、一般的に先手が有利と考えられているが、その理由については、碁ほどに万人が納得するような説明はなされていないように思われる。ただし、日本将棋連盟が公表していたプロ棋士の対局データに基づけば、先手の勝率が52%~54%程度となっていた。なお、将棋の場合には、囲碁のような調整の仕組みはない。

「チェス」については、先手がかなり有利とされており、過去の人間やコンピューター同士の対戦データに基づくと、先手の勝率が55%程度になっているようである。ただし、この勝率は引き分けを0.5勝とした場合の数値であり、引き分けが3割~4割程度を占めていることから、勝敗が付く場合の先手の勝率はさらに高くなっている。従って、実力者同士の対局では、後手はまずは引き分けを狙うとも言われている。

なお、これらのゲームにおいては、先手と後手をランダムに決定するために、囲碁ではニギリ、将棋では振り駒等の方式が採用されている。

二人零和有限確定完全情報ゲーム

実は、このようなゲームは、ゲーム理論において「二人零和有限確定完全情報ゲーム」として分類されている。偶然(運)に左右されないゲームがこれに相当している。その具体的な定義については、その漢字表現から感覚的に理解してもらうことにして、ここでは詳しくは説明しない。

これらのゲームは、理論上は完全な先読みが可能で、双方のプレーヤーが最善の手を打てば、必ず、(1)先手必勝、(2)後手必勝、(3)引き分け、のいずれかになることが知られている。

ただし、選択肢が多くなると完全な先読みを行うことは困難になるので、人間の行うゲームとして成立する形になっている。コンピューターの場合、人間と比べれば、より多くのパターンの解析を行うことができるため、一定のゲームにおいては、完全な解析を通じて、ゲームの結果の解明が行われている。

例えば、「オセロ」については、6×6の盤のケースでは、双方が最善の手を打った場合、「16対20で後手が必勝」となることが1993年に証明されている。

さらに、小さい頃に、誰しもが遊んだ経験があると思われる「五目並べ」については、「先手必勝」であることが、既に100年以上も前に証明されている。

また、将棋の簡略版として2008年に考案された「どうぶつ将棋」については、2009年に「78手で後手必勝」となることが確認されている。

「チェッカー」については、2007年にアルバータ大学の研究グループによって、双方が最善の手を打った場合、必ず引き分けになることが証明されている。

このように、一部のゲームは解析が完了しているが、囲碁や将棋やチェスについては、いまだいかなる結論になるのかはわかっていない。即ち、仮にこれらのゲームが(何の調整の仕組みもない状態で)先手必勝だとしても、どの程度先手が有利なのか等は解明されていない。

コンピューターによる囲碁・将棋等の必勝法の完全解明の可能性

その意味で、コンピューター・プログラム等の進展によって、これらのゲームの必勝法の完全解明がなされることがあるのだとすれば、大変興味深いことである。

ただし、これだけコンピューターの性能が向上している現在においても、囲碁や将棋について、その全てのパターンを解析して、結論を導き出すことについては相当な負荷がかかり、新たなIT技術の適用等が可能になってくれば、実現してくる可能性もあるのかもしれないが、現段階での実現はかなり困難なことと考えられている。

実際に、計算機科学者の松原仁公立はこだて未来大学教授によれば、勝負が付くパターンの数について、結論が出ている「チェッカー」や「6×6のオセロ」の場合には、10の30乗のレベルであるのに対して、(8×8の)オセロは10の60乗、チェスは10の120乗、将棋は10の220乗、囲碁は10の360乗のレベルになるとのことである。

因みに、太陽の寿命は100億年程度と言われているが、これは約3.2×10の17乗 秒ということになるので、先の数値がいかに大きな数であるかが分かることになる。
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