2017年06月06日

年金改革ウォッチ 2017年6月号~ポイント解説:パート労働者の厚生年金加入状況

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

先月は、「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」が2度開催され、運用商品提供数の上限や運用商品選択の支援などについて、活発な議論が行われました。「資金運用部会」では、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の経営委員の任命基準などについて、詳細な議論が行われました。どちらの会議も、制度改正の施行に向けて、詰めの協議が進められる見通しです。
 
 
○社会保障審議会 企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会
 5月10日(第6回)  運用商品提供数の上限・指定運用方法の基準等、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000164347.html  (配布資料)
 
 5月19日(第7回)  運用商品提供数の上限・指定運用方法の基準等
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000165311.html  (配布資料)
 
○社会保障審議会 資金運用部会
 5月12日(第2回)  役員の任命基準、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000164640.html  (配布資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
 5月23日(第30回)  日本年金機構の平成28年度業務実績の評価、その他
 URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000164950.html  (開催案内)
 

2 ―― ポイント解説:パート労働者の厚生年金への加入状況

2 ―― ポイント解説:パート労働者の厚生年金への加入状況

先月の事業管理部会では公的年金に関する多様な業務状況が紹介されました。その中から、2016年10月に始まった短時間労働者(パート労働者)の厚生年金への加入(いわゆる適用拡大)を取り上げます。

1|概況:勧奨が奏功し、30万人近くの短時間労働者が加入
図表1 適用拡大の要件/図表2 短時間労働者の加入状況 厚生年金には会社員等が加入します。従来は、原則として週30時間以上勤務の方が対象でしたが、2016年10月から、週20時間以上勤務で他の4条件を満たす短時間労働者へも、対象が拡大されました。

日本年金機構は、対象企業への事前のお知らせや説明会、同年10月以降に未届出事業所への電話や訪問での勧奨を実施しました。その結果、厚生年金に加入している短時間労働者は、改正直後には約20万人、年度末には30万人近くになりました*1


2|実態:7割が女性で、その9割が月収15万円未満
図表3 厚生年金加入者の月収の分布 2016年10月末の厚生年金加入者(図表3の注参照)は3800万人で、短時間労働者はその0.6%(22万人)でした。また、厚生年金に加入した短時間労働者の69%は女性でした。同月の労働力調査では同様の労働時間数のパート・アルバイト*2 の83%が女性だったのと比べて、男性の比率が高くなっています。詳細は不明ですが、大企業等で定年後に継続就労している方が、今回の適用拡大の対象となるケースなどが考えられます。

厚生年金に加入した短時間労働者の月収(標準報酬月額)を見ると、女性では15万円未満が約9割を占めて平均額は12.0万円、男性では月収15~30万円が女性よりも多く3割にのぼり、平均額は14.0万円でした*3


3|展望:人手不足に伴う任意適用の普及
パート労働者が厚生年金に加入すると、将来は基礎年金(1階部分)に加えて厚生年金(2階部分)を受給できます。正社員と比べれば、賃金が低い分だけ受け取れる厚生年金の金額が少額になりますが、今後の給付削減(マクロ経済スライド)は基礎年金よりも厚生年金で早期に終了しますので、厚生年金を受給できるのは大きなメリットと言えるでしょう。

2016年10月の適用拡大は正社員*4 501人以上の企業等に強制適用されましたが、2017年4月からは、(1)地方公共団体は規模に関わらず強制適用、(2)正社員500人以下の企業等で労使が合意した場合は任意適用、されています。人手不足の下、人材確保策の1つとして任意適用の普及が予想されます。
 
 
 
*1 今回の年金制度の改正にあわせて、事業主へのキャリアアップ助成金も改正されました。短時間労働者の週所定労働時間を5時間以上延長して厚生年金に加入した場合などに、助成金が交付されます。そのため、図表2の人数以外に、今回の改正を機に週労働時間が30時間以上になって新たに厚生年金に加入したケースもあると思われ、この動きも重要です。改正直後の2016年10月の厚生年金加入者は3808万人で、前月比+30万人、前年比+128万人でした。同年9月末が前年比+99万人で同年8月末が前年比+98万人などの状況を踏まえると、今回の改正の影響(適用範囲が拡大された影響と助成金で労働時間が延びた影響等の合計)は、2016年10月末時点で30万人近くにのぼると推察されます。
*2 労働力調査報告(月報)の「月80~120時間勤務」もしくは「月80~140時間勤務」のパート・アルバイト。
*3 短時間労働者以外の平均額は、男性が35.2万円、女性が24.0万円。
*4 厳密には、改正前の基準による厚生年金の加入者。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2017年06月06日「保険・年金フォーカス」)

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