2017年06月01日

【インドGDP】1-3月期は前年同期比6.1%増~高額紙幣廃止の影響が顕在化して一段と減速

経済研究部 准主任研究員 斉藤 誠

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需要項目別に見ると、民間消費と投資の落ち込みが成長率低下に繋がったことが分かる(図表1)。

GDPの約6割を占める民間消費は前年同期比7.3%増(前期:同11.1%増)、総固定資本形成は同2.1%減(前期:同1.7%増)と、それぞれ低下した。一方、政府消費は同31.9%増と、前期の同21.0%増から一段と上昇した。

外需については、輸出が同10.3%増(前期:同4.0%増)と上昇した一方、輸入も同11.9%増(前期:同2.1%増)と大きく上昇した結果、純輸出の成長率への寄与度は▲0.3%ポイントと、前期の+0.4%ポイントから減少した。
実質GVA成長率は前年同期比5.6%増と、前期の同6.6%増から低下するとともに、市場予想(同6.8%増)を下回る結果となった(図表2)。

成長を支えるサービス業は同7.2%増(前期:同6.9%増)と小幅に上昇した。内訳を見ると、卸売・小売、ホテル、運輸・通信業が同6.5%増(前期:同8.3%増)、金融・不動産・専門サービス業が同2.2%増(前期:同3.3%増)とそれぞれ低下したものの、行政・国防が同17.0%増(前期:同10.3%増)と上昇した。
(図表1)インドの実質GDP成長率(需要側)/(図表2)インドの実質GVA成長率(産業別)
鉱工業は同3.1%増(前期:同6.2%増)と低下した。内訳を見ると、鉱業が同6.4%増(前期:同1.9%増)と大きく上昇した一方、製造業は同5.3%増(前期:同8.2%増)、電気・ガス業は同6.1%増(前期:同7.4%増)、建設業は同3.7%減(前期:同3.4%増)と、それぞれ低下した。

農林水産業は同5.2%増と、前期の同6.9%増から低下しものの、高めの水準を維持した。

1-3月期GDPの評価と先行きのポイント

(図表3)インドの自動車販売台数/(図表4)インド日経PMI指数の推移 1-3月期の成長率は10-12月期から一段と低下した。昨年のモンスーンの雨量改善で潤った農業をはじめ、一部のセクターは景気を下支えたものの、昨年11月の高額紙幣廃止による現金不足のショックが顕在化し、建設業や金融・不動産業など幅広い産業で需要が低迷した。10-12月期のGDPでは、現金不足に苦しんだインフォーマル・セクター(露天商や日雇い建設労働者など)の落ち込みが捕捉されなかったものの、その影響がフォーマル・セクターに波及してGDP統計に表面化したものと考えられる。紙幣流通量は3月までに正常レベルに回復し、自動車販売や景況感などの経済指標が持ち直してきていただけに今回のGDPの結果は期待外れであった(図表3,4)。
(図表5)インド預金・貸出の状況 インド経済の先行きを見ると好材料が多く、景気は再び上向くだろう。まず7月には経済の足枷となっていた複雑な間接税制が物品サービス税(GST)に一本化される。課税ベースの拡大でインフレ圧力が高まるものの、経済の効率性が大きく向上することから企業活動の活性化が期待できる。なお、GST導入前後の消費の変動は大きなものとはならないだろう。GSTでは高級品などが値上がりすると見込まれ、GST導入前後で駆け込み需要とその反動減が生じるだろうが、食品等の必需品が値下がりする分、家計が裁量的消費に回す余地は増えることになるためだ。

またインド気象局によると、今年のモンスーンの雨量は平年並み(96%)と予想される。農業セクターは現在の回復傾向が続くと見込まれ、食品価格の安定や農業所得の増加を通じた消費の拡大が期待される。

このほか、政府は17/18年度予算で財政赤字目標を緩和し、支出の拡大を通じて廃貨による景気減速への対応を図っている。重要施策であるインフラ整備の促進や地方経済の支援を中心に支出が増えると見込まれ、公共部門は引き続き景気をサポートしそうだ。

しかし、公営銀行を中心とする不良債権問題は問題債権の増加に歯止めがかかっていない3。高額紙幣の廃止により、国民が旧紙幣を銀行に持ち込んだことから預金は増加したが、企業の鈍い資金需要を受けて貸出は伸びず(図表5)、銀行は余剰資金を国債の運用に充てている。これまでの金融緩和を追い風に、銀行セクターは預金金利を引き下げて利鞘を拡大させたが、貸出が増えなければ業績の改善が遅れ、不良債権問題の解消は政府の資本注入に一層依存することになってしまう。

インド経済は先行きが明るいとはいえ、金融仲介機能が低下しているなかでは、政府が期待するほどには景気が加速しない展開も十分に予想される。
(図表6)インドの消費者物価上昇率 6月4日には金融政策委員会が開かれる。2月の会合では、廃貨による景気減速への懸念が高まるなかで金融政策を緩和から中立に移行している。インフレタカ派の中銀が態度を翻すとは考えにくいものの、足元の消費者物価が下振れるなか(図表6)、1-3月期のGDP悪化への対応として追加利下げが議論の焦点になると予想される。
 
 
 
1 5月31日、インド中央統計機構(CSO)が2017年1-3月期の国内総生産(GDP)統計を公表した。
2 Bloomberg調査
3 5月5日、政府は銀行規制法を改正した。同法は中央銀行に銀行への介入権限を与えるものであり、政府は昨年成立させた倒産法を通じた不良債権処理の加速に繋げる公算だ。
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経済研究部   准主任研究員

斉藤 誠 (さいとう まこと)

研究・専門分野
東南アジア経済、インド経済

(2017年06月01日「経済・金融フラッシュ」)

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