2017年05月22日

6月も続く欧州の政治イベント-メイ首相の保守党、マクロン大統領の共和国前進が議会選で優位を保つ-

経済研究部 常務理事 伊藤 さゆり

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フランスではマクロン大統領の共和国前進が第1党の可能性もあるが流動的

6月に国民議会選挙を控えるフランスの情勢も確認しておこう。

現時点ではマクロン大統領にとって、見通しは明るい。マクロン大統領が1年前に立ち上げた政治運動「前進!」は、大統領選挙後、「共和国前進(REM)」として政党登録された。その支持率は、最新の世論調査では、右派の共和党を抑えて第1位に立つ。調査会社Opinion Wayが5月18日に公表した調査では、共和国前進が、フランス本土の535議席のうち、280から300過半を超える議席を獲得すると予測されている。この予測は、世論調査をベースに過去の選挙結果などを基に一定の仮定を置いて算出した推計値であり幅を持ってみる必要があるが、第1党で過半数を確保していた社会党グループが40~50へと大きく議席を減らすほか、共和党グループも150~170に議席を減らすと予測している。大統領選挙第1回投票で僅差の4位につけたメランション党首率いる左翼党と共産党からなる左翼戦線は10議席から20~25議席に、極右の国民戦線は2議席から10~15議席に議席を増やすと予測する。

確かに、大統領選挙で確認された二大政党離れと極右・急進左派への支持の広がりという流れが、中道の共和国前進に有利に働く面もありそうだ。フランスの下院議員選挙は小選挙区・単記2回投票制で行われる。6月11日の第1回投票で有効投票の過半数かつ選挙人名簿登録者数の25%以上を獲得する候補者がいない場合は、得票率12.5%以上の候補者が第2回投票に進む。極右の国民戦線の勝利を阻止のため、二大政党間で、勝利の見込みのない候補者の擁立を見送る調整も行われてきた。

しかし、世論調査のとおり、共和国前進が、第1党となり、さらに単独過半数を確保するような地滑り的な勝利を収めることができるかは流動的だ。Opinion Wayの調査でも、投票の意思がある人々の48%が「誰に投票するかを変える可能性がある」と答える。大統領に過半数を「とって欲しい」と「とって欲しくない」がともに49%ずつを占める。共和国前進の候補者として公表されているのは428名(男性214名、女性214名)、まだ577の全選挙区に候補者を擁立するまでに至っていない。
 

マクロン大統領の最大の課題は必要だが痛みを伴う改革に国民の理解を得ること

マクロン大統領の最大の課題は必要だが痛みを伴う改革に国民の理解を得ること

今月14日に就任したマクロン大統領は、15日に共和党のエドワール・フィリップ氏を首相に指名、組閣を指示し、17日には閣僚名簿が発表された。経済相にはブルーノ・ルメール(共和党・元農相)、内相にジェラール・コロン(社会党・リヨン市長)、外務・欧州相にジャンイブ・ルドリアン(社会党・前国防相)、法相にフランソワ・バイル(中道政党・民主運動党首・元教育相)など党派を超えて有力者を登用した。政治家と民間人半々、男女の割合も半々と、新しさと中道、男女平等を重んじる公約通りの顔ぶれを揃えた。

現内閣は、基本的に国民議会選挙までの選挙管理内閣という位置づけになるが、フィリップ首相は、フランスの高失業率解消の原因とされる労働市場の高コスト体質・硬直性を是正するための改革法案の策定に動き出した。

労働市場改革を通じた競争力の回復は、マクロン大統領が目指す「成長と雇用の拡大」と「財政再建」の両立、さらにドイツとの協調による「EU・ユーロ制度改革」の成功のために欠かせない(図表2)。オランド前政権も、労働市場改革に取り組んだが、国民の強い反発を受けて改革法案は後退を余儀無くされた上に、歴史的な低支持率、社会党の分裂の原因ともなった。マクロン政権の新たな労働市場改革の動きに、早くもフランス最大の労働組合・労働総同盟(CGT)は警戒を強めている。 

マクロン大統領にとって、まずは国民議会に公約の実現を支える体制を構築することが重要だが、最大の課題は、フランス経済のために必要だが痛みを伴う改革に国民の理解を得ることだ。
図表2 マクロン大統領の経済政策、EUユーロ制度改革案
 
 

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経済研究部   常務理事

伊藤 さゆり (いとう さゆり)

研究・専門分野
欧州の政策、国際経済・金融

経歴
  • ・ 1987年 日本興業銀行入行
    ・ 2001年 ニッセイ基礎研究所入社
    ・ 2023年7月から現職

    ・ 2011~2012年度 二松学舎大学非常勤講師
    ・ 2011~2013年度 獨協大学非常勤講師
    ・ 2015年度~ 早稲田大学商学学術院非常勤講師
    ・ 2017年度~ 日本EU学会理事
    ・ 2017年度~ 日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
    ・ 2020~2022年度 日本国際フォーラム「米中覇権競争とインド太平洋地経学」、
               「欧州政策パネル」メンバー
    ・ 2022年度~ Discuss Japan編集委員
    ・ 2023年11月~ ジェトロ情報媒体に対する外部評価委員会委員
    ・ 2023年11月~ 経済産業省 産業構造審議会 経済産業政策新機軸部会 委員

(2017年05月22日「Weekly エコノミスト・レター」)

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