2017年04月26日

欧州大手保険グループの2016年決算状況について(2)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-

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(4)新契約の状況
(4-1)新契約の商品ポートフォリオと新契約マージンの推移
新契約年換算保険料は、中南米での高い進展により、現地通貨ベース5で7%増加したが、そのうち保障商品が23%増加し、ユニットリンクや企業年金と合わせた軽資本商品がほぼ80%を占めた、としている。
生命保険事業の新契約の商品別内訳
Zurichは、マージン率の高い保障商品やユニットリンク商品に注力してきている。

2016年の貯蓄・年金の新契約価値は、金利低下の影響を受けて、マイナスとなっている。
 
 
5 為替レートが変化しなかったとした場合の合計数値でみた場合
(4-2)新契約マージンの地域別状況
新契約マージンの地域別内訳は、以下の図表の通りとなっている。

マージン率については、前年との比較では、グループ全体ではほぼ横ばいであった。
生命保険事業の新契約マージン(対保険料比率)の状況

3―まとめ

3―まとめ

以上、欧州大手保険グループの2016年の生命保険事業について、地域毎の業績及び低金利環境下での投資関係損益を巡る状況等について報告してきた。ここで、今一度欧州大手保険グループの状況を総括するとともに、日本の生命保険会社への示唆について考えてみる。昨年度のレポートの繰り返しになる部分も多いが、改めてこの1年間の状況を踏まえて述べておく。

1|地域別の事業展開及び業績状況
各社の自国以外の地域への事業展開の方針等は必ずしも一様ではなく、さらには、各社毎に、重点を置く事業種類等も考慮した上で、地域選定等に特徴を有した形になっている。その中には、積極的に海外進出するだけでなく、一旦進出した地域からの事業撤退等を行うケースも含まれている。具体的には、Allianzの韓国生命保険事業、Aegonのカナダ生命保険事業に加えて、Generaliが新興市場を含めて最大15の市場の合理化を進めることを公表しているケースが挙げられる。さらには、事業単位で考えれば、Prudentialが英国でのバルク年金市場から撤退したこと等が挙げられる。

ただし、基本的には、各社とも、自国以外の保険先進国や新興国への進出を通じて、自国以外でも一定規模の収益を確保してきている。特に、ここで取り上げた欧州大手保険グループでは、GeneraliとAvivaを除いて、各社とも米国において一定のプレゼンスを有し、高い収益を上げてきている。さらには、これらの地域に加えて、アジアや中南米等での展開を積極的に進めることで、収益機会を拡大させてきている。

前年からの地域別の進展率等については、各社毎の異なる地域展開の方針及び地域毎の市場環境の違い等を反映して、必ずしも一様ではない。ただし、これらを合算した会社全体の数値は、分散効果も一定程度見られる中で、比較的安定した形になっている。自国以外の地域への事業展開は、こうした点での意味合いも一定有する形になっている。
2|低金利環境下での投資関係損益等を巡る状況や各社の対応
低金利環境下で、各社は、新契約の保証利率の引き下げや、伝統的な保証商品に比べて保証を限定した商品(満期時保証、年金総額保証等)への代替を図ることで、負債コストの引き下げを図ってきている。一方で、今回のレポートの中では触れなかったが、リスク対応も図りつつ、安定的に高い運用利回りを確保するために、新たな分野での投資の拡大等の資産運用面での取組みも積極的に行ってきている。その結果として、再投資利回りと負債コストとのスプレッドを一定確保し、投資収益の減少をできる限り抑制するポートフォリオを構築してきている。欧州の多くの生命保険会社においては、投資関係損益が重要な収益源となっていることから、適正なマージンを確保すべく、各種の対応を図ってきている。

一方で、金利リスクに対するエクスポジャーを低下させ、その耐性度を高めるために、デュレーション・ギャップの解消等も図ってきている。これらを通じて、新たなソルベンシーIIという資本規制下で、適正な資本水準を効率的に確保しつつ、高い収益を目指す経営を追求してきている。

なお、従前の投資関係損益への大きな依存から脱却すべく、各社とも、1) 市場に左右されない保障や医療商品にシフトすることで、保険引受けによる損益の位置付けを高めていくことや、2) 着実に資産の積み上げを図ることで手数料収入の確保を目指していく、運営を進めてきている。
3|各種規制(ソルベンシーII等)への対応
今回採り上げた欧州大手保険グループのソルベンシーIIに伴う2016年のSCR比率の状況については、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について(1)及び(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告-」(2017.4.17及び2017.4.18)で報告した。

さらには、ソルベンシーIIへの対応という観点からの各社の対応については、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年上期末の SCR 比率の状況等について -SCR 比率及び感応度の推移等-」(2016.10.11)で報告した。

そこで述べたように、各グループとも、2016年のソルベンシーIIの導入に向けて、SCR比率の水準や安定性の最適化に向けて、資本の増強やリスクの低減等の各種の対応を行ってきた。毎期の事業を通じて着実に収益を計上するとともに、劣後債等の発行で自己資本を積み上げ、リスク面では、特に金利リスクへの対応について、2|で述べたように、ミスマッチの解消やヘッジの活用等でその低減を図ってきた。

ただし、昨今の金利の低下等の市場環境のさらなる悪化により、より一層の対応の検討を求められる状況になってきている。これに対しては、従前の延長的な考え方や手法に拠らずに、新たな考え方に基づく対応も必要になってきている。

各社の主要な対応策を巡る状況については、具体的に、以下の(1)から(5)の5点について、前述のレポート及び今回の2回のレポートで報告してきたが、今回の2016年決算の状況は、こうした動向を裏付けるものとなっている。

(1)資産と負債のマッチング
資産と負債のマッチングのうちのデュレーション・マッチングについては、各社とも過去からミスマッチの解消を進めてきており、ほぼ対応がついてきている状況にある。ただし、キャッシュフロー・マッチングを含めて、資産と負債のマッチングをさらに進めていくことについては、UFRという市場金利とは直接的にリンクしていない規制上の金利が存在していることもあり、そのインセンティブは低いものと思われる。さらには、昨今のような低金利環境下において、マッチングをさらに進めることは、必ずしも最適な戦略とは考えられない状況になってきている。今後は、将来の全体的なリスクを考慮して、金利上昇リスクも見据えた上での対応が求められてきていると考えられる。一方で、低金利環境下での利回り向上の観点からは、資産のデュレーションの長期化等の対応が避けられない状況も考えられることになる。

(2)株式等のリスク性資産の圧縮によるリスク低減
株式等のリスク性資産の圧縮によるリスク低減は、短期的にはSCR比率の改善に貢献することが期待される一方で、長期的な観点からは、収益力及び自己資本の形成能力の低下につながることになりかねない。今後は、リスク性資産の圧縮によるメリット・デメリットの両者のバランスをより一層考慮して対応していく必要がある。特に、昨今のような環境下で、債券中心の運用では極めて低い運用利回りしか確保できないことから、例えば配当ベースで高い利回りを確保できる株式等により注目していかざるを得ない状況にもなってきている、と思われる。

(3)再保険の活用
SCR比率の改善に向けては、再保険を利用したリスク回避策も多くの会社で利用されてきている。

例えば、Avivaは、グループ内の再保険会社を積極的に利用することで、SCR比率の改善を図っている。具体的には、リスクマージンの算出において、リスクの分散効果は同一会社内でしか認められないことから、グループ内のリスクを内部再保険会社に移転させることで、グループ内の異なる会社が抱える様々なリスクに対して、高い分散効果を享受しようとしている。

(4)ヘッジの活用
各社ともヘッジ戦略を洗練化することを通じて、自社の目指す方向でのSCR比率の水準や安定性の最適化を図ろうとしている。ただし、例えば、超長期での金利リスクのヘッジについては、市場参加者が限定されていることから、高い流動性リスクや価格変動リスク等を抱えることにもなりかねない等の課題もある。こうしたリスクも十分に考慮した上で、ヘッジ戦略を構築していく必要がある。

(5)商品ポートフォリオの見直し
2|で述べたように、各種商品ポートフォリオを見直して、ユニットリンク型商品や保証水準を低めた商品等の資本負担の少ない商品へのシフトを図ろうとしている。ただし、顧客ニーズとの関係で、どの程度まで保証水準を低くした商品が市場に受け入れられるのかといった点を十分に考慮した上で対応していく必要がある。その効果は短期的に現われてくるものではないが、長期的に累積されていくことで、SCR比率や資本効率性に大きなプラス効果を与えていくことになることから、着実に取り組んでいくことが求められている。

即ち、各社とも、市場環境の変化や市場動向等を踏まえた上で、それぞれが置かれている状況に応じて、必要な対応策を講じていくことが求められてきており、実際にそのような方向で対応してきている。

なお、SCR比率という観点からは、各社とも、2016年はVA(ボラティリティ調整)変更が大きな影響を与えたとしているが、VAの見直しは今後も毎年行われていくことになる。さらには、現在EIOPAが提唱しているUFR水準の見直しがどうなっていくのかによっても保険会社が影響を受けていくことになる。英国の保険会社については、Brexitの影響やリスクマージンの見直しの動向に加えて、直近ではOgden割引率の改定の動向も損害保険事業において重大な関心事となっている。

さらには、規制ということではないが、IASB(国際会計基準審議会)が検討している新しい保険契約の会計基準であるIFRS 17が採択されていくことになると、財務諸表の数値が大きく変化していき、保険会社の業績を適正に見るための新たな指標のコンセンサス作りが必要になってくることになる。

欧州大手保険グループは、こうした規制等の動向に目配りをしつつ、自社のビジネススタイルに見合った適正な業績判断指標に基づいて、契約者や株主等の利害関係者に説明責任を果たしていくことが求められることになる。
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中村 亮一

研究・専門分野

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