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2017年04月25日
欧州大手保険グループの2016年決算状況について(1)-低金利環境下での各社の生命保険事業の地域別の業績や収益状況はどうだったのか-
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1―はじめに
欧州大手保険グループの2016年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Reportの形で公表されている。欧州大手保険グループを巡る経営環境は、世界的な金融緩和の長期化に伴う低金利環境の継続に加えて、2016年1月にスタートしたソルベンシーIIをはじめとした各種の規制の強化への対応等、困難な課題を抱えている状況にある。ただし、各社ともこうした環境下で、基本的には積極的な海外事業展開等を進め、各種リスクへの対応策を講じつつ、収益基盤の拡大を図ってきている。
今回の基礎研レポートでは、各社の2016年の生命保険事業について、昨年度の基礎研レポートと同様に、地域別の業績や投資関係損益を巡る状況等に焦点を当てて報告する1。
昨年度の基礎研レポートでも述べたが、以下の報告においては、例えば、保険料の地域別内訳のベースが各社毎に異なっていたり、地域区分の考え方も各社独自の方式によっている等、各社の公表データのベースが必ずしも統一されていない。このため、厳密な意味での各社間の比較等を行うことはできないが、筆者の判断で各種の前提をおいて、一定程度比較可能な数値を作成して分析を行っている。
また、当レポートでは、「全体の状況とAXA、Allianz、Generaliの3社の状況」、次回のレポートでは、「Prudential、Aviva、Aegon、Zurichの4社の状況と全体のまとめ」と2回に分けて報告する。
1 なお、2016年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2017.4.17及び18)を参照していただきたい。
今回の基礎研レポートでは、各社の2016年の生命保険事業について、昨年度の基礎研レポートと同様に、地域別の業績や投資関係損益を巡る状況等に焦点を当てて報告する1。
昨年度の基礎研レポートでも述べたが、以下の報告においては、例えば、保険料の地域別内訳のベースが各社毎に異なっていたり、地域区分の考え方も各社独自の方式によっている等、各社の公表データのベースが必ずしも統一されていない。このため、厳密な意味での各社間の比較等を行うことはできないが、筆者の判断で各種の前提をおいて、一定程度比較可能な数値を作成して分析を行っている。
また、当レポートでは、「全体の状況とAXA、Allianz、Generaliの3社の状況」、次回のレポートでは、「Prudential、Aviva、Aegon、Zurichの4社の状況と全体のまとめ」と2回に分けて報告する。
1 なお、2016年末のソルベンシーの状況については、筆者による、保険・年金フォーカス「欧州大手保険グループの2016年末SCR比率の状況について-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(1)及び(2)-」(2017.4.17及び18)を参照していただきたい。
2―欧州大手保険グループの各社間比較-全体の業績と地域別業績について-
欧州大手保険グループとしては、欧州の主要国を代表する保険グループとして、昨年度の基礎研レポートで取り上げたAXA(フランス)、Allianz(ドイツ)、Generali(イタリア)、Prudential(英国)、Aegon(オランダ) 、Zurich(スイス)の6社に加えて、今回のレポートではAviva(英国)を加えている。このうち、AXA、Allianz、Prudential、Aegon、Avivaの5社はFSB(Financial Stability Board:金融安定理事会) が選定するG-SIIs(Global Systemically Important Insurers:システム上重要なグローバルな保険会社)に指定されている。Generaliも2015年11月まではG-SIIsに指定されていた。
以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
1|会社全体の業績
欧州大手保険グループは、生命保険事業だけでなく、損害保険事業も行っており、さらには、資産管理事業2も会社によっては大きな位置付けを占めてきている。
まずは、保険料と営業損益について、生命保険事業と損害保険事業の内訳を示しておく。下記の図表からわかるように、グループ全体における生命保険事業の位置付けは、会社毎に異なっているが、PrudentialとAegonの2社以外は、損害保険事業も大きな位置付けを有している。
前年との比較では、グループ全体の業績としては、各社ともほぼ安定した状況にある。
このうち、生命保険事業については、各国において低金利の影響を受けて、厳しい経営環境下にあったが、ほぼ前年並みか前年を上回る営業利益を確保している。損害保険事業については、生命保険事業と比較して、収益が安定しない傾向があるが、2015年に多額の損失の計上で大幅な営業減益となっていたZurichが2016年は大きく回復している。
以下の図表の数値は、特に断りがない限り、各社の公表資料に基づいている。
1|会社全体の業績
欧州大手保険グループは、生命保険事業だけでなく、損害保険事業も行っており、さらには、資産管理事業2も会社によっては大きな位置付けを占めてきている。
まずは、保険料と営業損益について、生命保険事業と損害保険事業の内訳を示しておく。下記の図表からわかるように、グループ全体における生命保険事業の位置付けは、会社毎に異なっているが、PrudentialとAegonの2社以外は、損害保険事業も大きな位置付けを有している。
前年との比較では、グループ全体の業績としては、各社ともほぼ安定した状況にある。
このうち、生命保険事業については、各国において低金利の影響を受けて、厳しい経営環境下にあったが、ほぼ前年並みか前年を上回る営業利益を確保している。損害保険事業については、生命保険事業と比較して、収益が安定しない傾向があるが、2015年に多額の損失の計上で大幅な営業減益となっていたZurichが2016年は大きく回復している。
なお、以下の分析では、生命保険事業に焦点を当てて、各社の数値比較等を行っていくことにするが、その前に各社がグループ全体の指標として提示しているROE(Return on Equity:資本収益率)の状況を、次ページの図表に示しておく。このROEの数値の算出方法等についても、各社間で統一されているわけではないが、あくまでも各社が掲げている経営目標の1つとなっているので、参考として掲載しておく。
ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業のみの数値も公表しており、AXAとGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、生命保険事業に対するROEを開示している。
これによれば、各社のROEはほぼ10%から15%の範囲内にあり、生命保険事業のROEもグループ全体とほぼ同じ水準を確保している。
ROEについては、基本的には各社はグループ全体の数値のみを開示している。生命保険事業以外のウェイトもかなり高い4社のうち、Allianzのみが生命保険事業のみの数値も公表しており、AXAとGeneraliはEV(Embedded Value)に対するリターンという形で、生命保険事業に対するROEを開示している。
これによれば、各社のROEはほぼ10%から15%の範囲内にあり、生命保険事業のROEもグループ全体とほぼ同じ水準を確保している。
2 2016年の資産管理事業の営業損益は、AXA 943百万ユーロ、Allianz 2,205百万ユーロ、Prudential 589百万ポンド、Aviva 138百万ポンド、Aegon 149百万ユーロ、またGeneraliの金融セグメントの営業損益は370百万ユーロ等、各社とも大きな位置付けを占めてきている。
2|生命保険事業の地域別業績
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、生命保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている34。
2-1.保険料の状況
まずは、保険料の地域別内訳を見てみる。ここでの保険料の数値には、例えばユニット・リンク等の投資型保険からの収入が反映されていなかったりするが、各社の地域間の分布等を比較するための1つの基準として採用している。
なお、地域別の保険料分布の数値を得るために、AllianzとPrudential の保険料については、前ページの図表とは異なるベースの数値を使用している。
(1)2016年の結果
これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険料が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな意味を有している。各社の地域別の構成比の概要は以下の通りとなっている。
AXAは自国のフランスが29%、その他の欧州が34%、米国が22%、アジア・太平洋が14%で、欧州以外で全体の1/3以上を占めている。
Allianzは自国のドイツで56%と高いが、ドイツ以外の欧州で27%となっており、米国やアジア・太平洋等も有意な水準となっている(なお、3―2|で述べるように、法定保険料ベースでは、米国は18%と、ここでの5%よりもかなり高い水準となっている)。
Generaliは自国のイタリアが36%であるが、イタリア以外の欧州で57%と高くなっている。
Prudentialは自国の英国は31%で、米国が42%、アジアが27%となっている。
Zurichは自国のスイスは9%で、スイス以外の欧州が63%となっているが、中南米を含むその他が18%と他社とは異なり高くなっている。
なお、以下の図表にはないが、Avivaの場合、欧州が9割程度と殆どを占めている。
Aegonの場合、欧州が6割弱、北米・中南米が4割弱となっている。
ここでは、各社のセグメント情報に基づいて、生命保険事業に関する保険料と営業利益の地域別内訳を見ている34。
2-1.保険料の状況
まずは、保険料の地域別内訳を見てみる。ここでの保険料の数値には、例えばユニット・リンク等の投資型保険からの収入が反映されていなかったりするが、各社の地域間の分布等を比較するための1つの基準として採用している。
なお、地域別の保険料分布の数値を得るために、AllianzとPrudential の保険料については、前ページの図表とは異なるベースの数値を使用している。
(1)2016年の結果
これによれば、各社毎に状況は異なっているが、各社とも自国(親会社国)以外からの保険料が一定の規模を有しており、自国以外での事業が大きな意味を有している。各社の地域別の構成比の概要は以下の通りとなっている。
AXAは自国のフランスが29%、その他の欧州が34%、米国が22%、アジア・太平洋が14%で、欧州以外で全体の1/3以上を占めている。
Allianzは自国のドイツで56%と高いが、ドイツ以外の欧州で27%となっており、米国やアジア・太平洋等も有意な水準となっている(なお、3―2|で述べるように、法定保険料ベースでは、米国は18%と、ここでの5%よりもかなり高い水準となっている)。
Generaliは自国のイタリアが36%であるが、イタリア以外の欧州で57%と高くなっている。
Prudentialは自国の英国は31%で、米国が42%、アジアが27%となっている。
Zurichは自国のスイスは9%で、スイス以外の欧州が63%となっているが、中南米を含むその他が18%と他社とは異なり高くなっている。
なお、以下の図表にはないが、Avivaの場合、欧州が9割程度と殆どを占めている。
Aegonの場合、欧州が6割弱、北米・中南米が4割弱となっている。
3 地域区分は、基本的に引受会社の所属国に基づいている。
4 2016年の数値算出において、会社によっては、地域別のセグメントの変更や算出方法等の変更を行っているケースもあり、これに伴い、前回の基礎研レポートで報告した2015年の数値を変更している場合もある。
(2017年04月25日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2025/05/02 | 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その11)-螺旋と渦巻の実例- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
2025/04/25 | 欧州大手保険グループの2024年の生命保険新契約業績-商品タイプ別・地域別の販売動向・収益性の状況- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/14 | 欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2024年決算数値等に基づく現状分析- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2025/04/01 | 欧州大手保険グループの2024年末SCR比率等の状況-ソルベンシーII等に基づく数値結果報告と資本管理等に関係するトピック- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
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