2017年04月25日

予定利率の開示について-顧客にとってわかりやすい開示とは

小林 雅史

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1――はじめに

2017年4月に、平準払契約の標準利率が、1%から0.25%に引き下げられたことに伴う生保会社の対応については、先日、小著「標準利率の引き下げと生保会社の対応 経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制1で紹介した。

同稿では、

(1) 顧客保護のための標準責任準備金制度における、責任準備金を積み立てる利率である標準利率と、保険料計算上の予定利率とは別の概念であり、標準利率の引き下げは予定利率の引き下げと必ずしもリンクしないこと

(2) 一方で、標準利率の引き下げに当たり、保険料計算上の予定利率を引き下げない場合には、生保会社において予定利率以上の資産運用が困難となるのではないかとの懸念があることから、従来の標準利率引き下げ時には、保険料計算上の予定利率も連動して引き下げられる例が多かったこと

(3) 予定利率を単純に引き下げると、以降の新規契約の保険料が引き上げられることとなるが、従来の標準利率引き下げ時には、生保各社のさまざまな創意工夫により、保険料の単純な値上げを抑制する取り組みが行われてきており、今回の標準利率引き下げ時にも、生保会社は従来にも増して、新規契約に対する保険料の引き上げをなるべく抑制する取り組みを行っていること

を示した。

本レポートでは、保険料計算上の予定利率にスポットを当て、その沿革や生保会社による開示の状況などを紹介することとしたい。
 
1  小著「標準利率の引き下げと生保会社の対応 経営努力による新規契約保険料引き上げの抑制」『保険・年金フォーカス』、2017年4月5日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55433?site=nli
 

2――予定利率とは

2――予定利率とは

生命保険の保険料は、3つの予定率(契約時に予定された基礎率)をもとに計算されている。

過去の統計をもとに、性別・年齢別の死亡者数(生存者数)を予測した数値である予定死亡率、契約の締結・保険料の収納・契約の維持管理などの事業運営に必要な諸経費をあらかじめ見込んだ数値である予定事業費率、資産運用による一定の収益をあらかじめ見込んだ保険料の割引率である予定利率である2

予定利率については、保険業法第4条において、保険会社の免許申請時の添付書類として、「定款」、「事業方法書」、「普通保険約款」とともに、いわゆる基礎書類として規定されている「保険料及び責任準備金の算出方法書」に記載されている。

保険業法施行規則第10条において、保険料及び責任準備金の算出方法書に記載すべき事項として、「保険料の計算の方法(その計算の基礎となる係数を要する場合においては、その係数を含む)」が規定されており、予定利率は、保険料の計算の基礎となる係数であるということができる。

金融庁が定めた「保険会社向けの総合的な監督指針」においては、「保険料の算出方法については、十分性や公平性等を考慮して、合理的かつ妥当なものとなっているか」、「予定利率については、保険種類、保険期間、保険料の払方、運用実績や将来の利回り予想等を基に、合理的かつ長期的な観点から適切な設定が行われているか」などが保険商品審査上の留意点として定められている3

なお、保険業法は1996年に全面改正されているが、改正前の保険業法(1939年制定)下の保険業法施行規則第6条では、保険料の計算の基礎となる係数として、予定死亡率、予定事業費率、予定利率などが明記されていた。

この予定利率という用語は、保険監督に関する規定を含む旧商法の規定(1898年7月施行)にもとづき、1898年8月、当時の主務官庁である農商務省から発出された農商務省令第5号に記載されており4、法的には、120年近い歴史を有する用語である。

ところで予定利率という用語は、保険料計算のほか、生保会社の経営破綻などの際にも使用される。

たとえば、生保会社の経営が破綻した場合には、「生命保険契約者保護機構」により一定の契約者保護が図られ、「高予定利率契約」を除き、生保会社が将来の保険金などの支払いに備えて積み立てた責任準備金の90%までは補償される。

ここでいう高予定利率契約とは、破綻時に過去5年間で常に予定利率が基準利率(3%)を超えていた契約であり、補償割合が、90%から[(過去5年間における各年の予定利率-基準利率)の総和÷2]を控除した割合となる5

さらに、2003年8月の保険業法改正により、保険業の継続が困難となる蓋然性のある保険会社について、保険契約者などの保護の観点から、すでに締結された保険契約の予定利率の引き下げなど、契約条件の変更を可能とする手続が整備された。この契約条件の変更の際の予定利率引き下げの下限も3%とされている6

このように予定利率という概念は、保険契約者にとってきわめて重要な指標となっている。

なお、これまでの主な予定利率の変遷としては、5%(1976年3月~)、5.5%(1985年4月~)、4.75%(1993年4月~)、3.75%(1994年4月~)などとなっている7

1996年4月以降、標準責任準備金制度が導入され、標準利率などにもとづいて生保各社が独自に予定利率を設定している[なお、標準利率の水準は2.75%(1996年4月~)、2%(1999年4月~)、1.5%(2001年4月)、1%(2013年4月)、0.25%(2017年4月~)]。
 
2  「保険料の仕組」、生命保険文化センターホームページ。
3  「保険会社向けの総合的な監督指針 平成28年9月」、金融庁ホームページ。
4  小著「『普通保険約款』という用語-『保険規則』から『普通保険約款』へ」『保険・年金フォーカス』、2017年2月28日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=55162?site=nli
5  「『保険業法等の一部を改正する法律』の一部の施行に伴う保険業法施行令(案)、内閣府令・財務省令(案)、内閣府令(案)等の公表について」、2005年10月12日、金融庁ホームページ。
6  「『保険業法の一部を改正する法律の施行に伴う保険業法施行令の一部を改正する政令(案)』に対する意見募集の結果について」、2003年8月7日、金融庁ホームページ。
7  猪ノ口勝徳「民間生保会社の予定利率の変遷と生保商品動向」『共済総研レポート』No.125、2013年12月。
 

3――予定利率の開示ルールは存在しない

3――予定利率の開示ルールは存在しない

予定利率の開示について、とくに生保会社に義務付けられたルールなどは存在しない。
 ただ、生保会社においては、保険業法第111条により、業務および財産の状況に関する説明書類(いわゆるディスクロージャー資料)を作成し、本店や支店などに備え付けて公衆に縦覧させなければならないとされている。

この「○○生命の現状」などと称されるディスクロージャー資料については、法律で定められた開示項目のほか、生命保険協会において、自主的に開示すべき項目のガイドラインとして「ディスクロージャー開示基準」を定めている。

法律で定められた開示項目としては、「責任準備金残高」があり、ディスクロージャー開示基準においては、「個人保険および個人年金保険の契約年度別責任準備金残高」を記載することとなっているが、生保各社では、各年度の責任準備金残高の右欄に、その責任準備金にかかる主な予定利率を記載するのが通例となっている。

さらに、先述の保険料の3つの予定率(予定死亡率、予定事業費率、予定利率)による予定額と実際の額との差額である死差、費差、利差についても一部生保会社で開示されている(なお、死差、費差、利差の合計額である基礎利益は全社が開示している)8
 
8  安井義浩「日本の生命保険業績動向 ざっくり 30 年史(7)基礎利益、3利源、逆ざや 最初からこれだけ言えば充分だった?」『基礎研レター』、2016年5月17日。http://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=52919?site=nli
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