2017年04月04日

トランプ政権による保険会社規制への影響について-国内・国外(EU、IAIS)問題への対応-

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3―SIFI指定とグループ資本規制に対する影響

1|SIFI指定の現状
(1)SIFI指定に対する関係者の考え方
各州の保険監督官は、伝統的保険におけるシステミックリスクの欠如や州に基づく強力な保険規制の存在から、SIFI指定の必要性を感じていない、と考えられている。さらに、規制遵守にはそれに対応するための費用がかかり、結果的にそれは保険契約者の負担につながっていくことになるが、これを本当に正当化できるのか、という意見もある。

これに対して、オバマ政権下で、財務省は、SIFI規制の廃止は金融規制に大きなギャップを残し、保険契約者と納税者を危険にさらすと主張してきた。2016年3月にMetLifeがSIFI指定を取り除くことに成功したとき、財務省は、「世界経済全体を守る」能力を損なうと訴えた。控訴裁判所は10月に政府の申し立てを聞いたが、手続は封印されたままとなっている。

(2)SIFI指定に対するAIGの動き
MetLifeのSIFI指定解除を受けて、AIGやPrudentialというSIFI指定を受けている他の2社の動きが注目されている。

特に、AIGは、トランプ氏が大統領に選出された直後に、裁判所へのファイリングを行って、SIFI指定の妥当性と連邦規制について疑問を呈している。

州の保険監督官は、AIGは、保険のシステミックリスクのシンボルとされてきたが、貯蓄金融機関監督局によって、ともかく連邦レベルで規制されていたはずだったが、十分に規制はされていなかった、と主張していた。

AIGのCEOのPeter Hancock氏は、11月のAIGの投資家の日(Investor’s Day)に、FSOCのメンバーの変更により、SIFI指定の重要性が再評価される可能性がある、と述べて、AIGは、2008年以降、大幅にリスク解除を行い、伝統的な保険のバランスシートになっているにも関わらず、SIFIの対象となっていると主張した。

(3)SIFI指定に関する議会での動き
下院の金融サービス委員会に提出された報告書では、MetLifeが2016年3月にSIFI指定を解除することに成功した裁判所のケースに使用された文言を使用して、SIFIを特定する現在のプロセスが「恣意的で一貫性がない」と主張していた。

この報告書は、FSOCのSIFI指定プロセスに関連した非公開の分析を詳述している。これによると、FSOCは、SIFIに指定したノンバンク金融機関に対して、金融危機に対する脆弱性を評価せず、このような評価は不要であると主張していた。一方で、FSOCは、重大な金融危機に対する一部の会社の脆弱性を評価したが、それらの会社をSIFIに指定しなかった。さらに、FSOCは、その機密評価において、一部の会社の金融危機に対する脆弱性について複数の言明を行っていた。

これらの事実を踏まえて、「異なる会社における同様の要因を異なる形で取り扱うこのような事例は、FSOC全体の分析に疑問を投げかけている。」と同報告書は指摘した。

(4)SIFI指定に関する保険業界の動き
保険業界は、長い間、SIFI指定プロセスについて、疑問を投げかけ、その透明性を図るべく、さらなる洞察を深めるように、繰り返し求めてきた。

ACLI(American Council of Life Insurers:米国生命保険会社協会)は、3月28日の下院金融サービス委員会に、SIFI指定に関して声明2を提出した。その声明の中で、ACLIは、以下の点を指摘した(以下は、ACLIの声明の概要説明からの抜粋である)。

(ACLIの指摘事項)
・FSOC指定プロセスに致命的な欠陥がある。
 FSOCのプロセスは、説明責任、透明性、ガバナンスの基本基準を満たしていない。

・FSOCには、州の保険監督当局の投票権のある代表が欠けている。
 保険の主要な金融監督当局に対する配慮の欠如は、パネルにおける保険専門家と代表者の不在により、さらに悪化させられている。

・FSOCは既存の権限を誤用している。
 FSOCは、特定の分野のいくつかの個別企業に焦点を絞っているため、時宜にかなう形で、潜在的なシステミックリスクを特定することができる広範なマクロプルデンシャルな監督者としてのより重要な役割から、注意とリソースを逸らさせている。

・生命保険会社は、システミックリスクを代表していない。
 生命保険会社が金融サービスシステムに対するシステミックリスクを負っているという説得力のある証拠はない。

ACLIは、委員会の報告が、「ノンバンク金融機関のSIFI指定のためのFSOCプロセスは実質的に不公平で不均等であると述べている。」ということを指摘した。

さらに、既存のFSOCのノンバンク指定権限の明確な失敗に対処する「金融選択法(Financial CHOICE Act)」の条項に対する強力な支持を強調した。そして、「生命保険会社のノンバンク指定権限の廃止は、米国の金融安定化に対するマクロプルデンシャルリスクの特定及び評価の権限を維持しつつ、不十分または規制されていないセクターあるいは実際にシステミックリスクを提示している会社に対するシステミックな監督に再度焦点を当てる本質的な改革である。」と指摘した。
2|SIFI指定に関するトランプ政権の動き
Mnuchin財務長官のリーダーシップの下で、FSOCにおいて、SIFI指定に関してどのような判断がなされていくのかが注目されている。これについては、トランプ政権は、オバマ政権下での保険会社に対するSIFI指定について懐疑的であったことから、廃止または改革される可能性が高いのではないか、と言われている。

Mnuchin財務長官は、3月2日に開催されたFSOCの執行会議において、不特定のノンバンク金融機関がSIFIとして指定されたままでふさわしいかどうかを検討した後、SIFI指定を見直すと総括した。

SIFI指定のコンセプトは、国際的な規制とも関わっているものであることから、そうした点も考慮に入れられて、今後の判断がなされていくことになるものと思われる。
3|グループ資本規制を巡る現状
連邦によるグループ資本規制の検討については、2016年6月に連邦の監督下にある保険会社3に対するグループ資本規制についてのアプローチ等の提案が行われたが、SIFI指定に関する見直しが行われた場合、この検討自体が今後どのような形になっていくかが注目されることになる。

グループ資本規制の対象は、SIFI指定された会社だけでなく、銀行等を保有する保険持株会社も対象になっている。従って、仮にSIFI指定される保険会社がなくなった場合でも、こうした会社に対する規制は、継続的に検討されていくことになるとも考えられる。

ただし、こちらは国内の一部の保険持株会社のみが対象となるもので、結合されたグループレベルの資本要件に到達するために、異なる会社(州あるいは外国保険会社、非保険金融会社、非金融会社、持株会社)のそれぞれの既存の資本要件(それぞれの会社形態を監督する資本要件に基づいて決定)を集約する「ビルディング・ブロック・アプローチ」が使用されることが検討されている。これは、開発中のNAICのグループ資本計算のRBC集計アプローチに類似している。
 
3 (1)SIFIに指定された保険会社、(2)保険活動に有意に従事している預貯金取扱金融機関持株会社(Insurance Depository Institution Holding Companies)
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中村 亮一

研究・専門分野

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