2017年04月03日

取締役会評価についての一考察

江木 聡

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1――企業と投資家に共通する課題認識 ~ 生命保険協会アンケート調査から

コーポレートガバナンスに関して今後強化すべき取り組みとは何だろうか。生命保険協会が2017年3月21日に公表したアンケート結果によれば1、「取締役会評価」が課題であるという点で、企業と投資家の意見は一致している(図表1)。取締役会評価とは、取締役会自身がその実効性について分析・評価を行うものである。これは日本企業に馴染みのない実務にもかかわらず、コーポレートガバナンス・コードが、概要とはいえ分析・評価の結果まで開示するよう求めたため、企業が最も対応に苦慮している原則である。
図表1 コープレート・ガバナンスに関して今後取り組みを強化する事項(企業)・強化を期待する事項(投資家)
実際に、取締役会評価を実施している企業は主要上場企業の半数程度にとどまっている(図表2)。企業側からすると、「実施している(コンプライ)」と表明できるよう何らかの対応を行うべき課題となっている。実施している企業でも何をどう評価すべきか試行錯誤しているのが実情だが、とにかく着手してみると取締役会の課題発見につながっている(図表3)。従って、投資家もその取り組みが進むことを期待しているというわけである。
図表2 取締役会評価の実施状況/図表3 取締役会評価の有効性(企業)
 

2――コードは何を求めているのか

2――コードは何を求めているのか

取締役会評価について、コーポレートガバナンス・コードは次のように定める。「取締役会は、毎年、各取締役の自己評価なども参考にしつつ、取締役会全体の実効性について分析・評価を行い、その結果の概要を開示すべきである」(補充原則4-11③)。コードは評価について手法は示さず、企業の合理的な判断に委ね、自律的に対応するよう求める。
 
ガバナンスの対応をPDCAサイクルに当てはめると、取締役会評価はC(Check)に位置付けられる。Cを行おうとすれば、まずP(Plan)が必要になる。取締役会「全体」が実効的であるかを評価するには、自社のあるべき取締役会というものを具体的にイメージすることが有効なアプローチとなるだろう。勿論、現状をベースにその延長線で地道なカイゼンを積み上げるアプローチ(フォアキャスティング)も有効ではあるが、将来のあるべき姿から現状の課題を明確にして改善するアプローチ(バックキャスティング)の方が、ガバナンス体制を革新できる確率は高まると思われる。
 
あるべき姿の根幹となる取締役会の責務は、(1)会社の舵取り、(2)「攻め」の環境整備、(3)経営陣・取締役の監督、である(コード基本原則4)。この大局的な監督機能の発揮に向けて、監査役設置会社においても取締役会の監督機能と執行機能のあるべきバランスを再考し、自社の取締役会が監督と執行について実際に何を議論し何をやるのかを決める(補充原則4-1①)。決めた事柄をやり切るための、最適な取締役会の構成(補充原則4-11①)と運営(補充原則4-12①)を検討する。このようにコードの枠組みに沿って、自社の状況に即したあるべき取締役会が想定できるのではないだろうか。逆に、あるべき取締役会の姿を議論することこそ、取締役会評価であるともいえる。取締役の間であるべき取締役会の姿が共有できれば、自己評価か外部評価か、アンケートかインタビューか、などといった評価の手法は些末な問題になるだろう。では実際に、どのような設計で取締役会評価が行われているのか、コーポレートガバナンス報告書における開示例をいくつか取り上げてみたい。
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

江木 聡

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【取締役会評価についての一考察】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

取締役会評価についての一考察のレポート Topへ