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- 日銀短観(3月調査)~景況感は幅広く改善したが、先行きへの警戒感は強い
2017年04月03日
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1.全体評価:景況感は幅広く改善、先行きへの警戒感は強い
日銀短観3月調査では、注目度の高い大企業製造業の業況判断D.I.が12と前回12月調査比で2ポイント上昇し、2四半期連続で景況感の改善が示された。大企業非製造業の業況判断D.I.も20と前回比2ポイント上昇し、6四半期ぶりに改善した。
前回12月調査では、円安の進行や国際商品市況の持ち直し、生産の回復などから大企業製造業の業況判断D.I.が改善する一方、インバウンド消費鈍化の影響などを受けて非製造業では景況感が伸び悩みとなっていた。
16年10-12月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率で1.2%(2次速報値)となり、日本経済が回復基調を維持していることが示されたが、今年1月以降の経済指標も総じて底堅い状況が続いている。世界経済の持ち直しを受けて、輸出(数量)と生産は2月にかけて増加基調にある。これまで冴えなかった消費にも、雇用所得環境の改善などを受けて持ち直しの兆しがみえる。実質消費水準指数(除く住居等、季調値)は2月にかけて2ヵ月連続で改善しているほか、2月の自動車販売台数も前年比で大きく増加している。また、金融市場では、今年に入って、やや円高方向にシフトしているものの、米大統領選前と比べると依然として大幅な円安水準が維持されている。
今回、大企業製造業では輸出の回復や円安の持続を受けて幅広い業種で景況感が改善した。非製造業も消費の持ち直しのほか、16年度第2次補正予算の執行や大都市圏での再開発を受けた建設需要などが、景況感の改善に繋がった。ただし、円安・資源価格高止まりに伴う仕入コスト上昇などが景況感の抑制に働いたとみられ、マインドの改善は想定していたよりも限定的であった。
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比4ポイント上昇の5、非製造業が2ポイント上昇の4となり、大企業同様、製造業・非製造業ともに改善が示された。
一方、先行きの景況感については、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示された。海外情勢については、トランプ米大統領の政策運営、フランス大統領選や英国のEU離脱等を控えた欧州の政治リスクなど、不透明感が強い。国内では消費の加速が見込みづらいほか、一部業種では人手不足に対する懸念が表面化していることが影響したとみられる。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計14、当社予想は15)、先行き(QUICK集計13、当社予想は12)ともに市場予想を下回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計19、当社予想は23)は予想を若干上回ったものの、先行き(QUICK集計18、当社予想は21)は予想を下回った。
2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比0.4%増と前回調査時点の1.8%増から下方修正された。例年、12月調査から3 月調査にかけては、上方修正されやすいクセがあるが、今回は大企業の大幅な下方修正によって、全体でも下方修正となった。事業環境を巡る不透明感がかなり強かったことが、設備投資の抑制に働いたとみられる。
今回から新たに調査・公表された2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2016年度計画比で▲1.3%となった。例年3月調査の段階では前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はない。近年の3月調査との比較が重要になるが、今回は近年の3月調査での伸び率をかなり上回る計画が示されている。16年度計画が下方修正になっていることから、一部先送りされた分が17年度計画に加算された面もあるとみられるが、それを考慮しても強めであることには変わりない。生産の回復や人手不足等が計画の追い風になっている可能性が高い。
ただし、海外を巡る先行き不透明感はかなり強いことから、海外動向が今後の設備投資の大きなカギになってきそうだ。
今回の短観では、企業景況感の幅広い改善が確認され、日銀の景気回復・物価上昇シナリオをサポートする材料になりそうだ。ただし、先行きの景況感の弱さに慎重さが残る点は懸念材料として残るだろう。
ただし、今回の結果が日銀の金融政策に直接与える影響は限定的になる。もともと残された追加緩和の余地が小さいうえ、米大統領選後の円安進行と底堅い原油価格はともに物価の上昇に作用するため、当面、日銀が追加緩和を迫られる可能性は大きく低下している。一方で目標である物価上昇率2%は依然として遠く、出口戦略を視野に入れる段階にも全くない。従って、日銀は2%達成を目指し、長期にわたって現行金融政策の維持を続けるだろう。従来と比べて、日本の景気や企業の景況感と金融政策の関係性は希薄化している。
前回12月調査では、円安の進行や国際商品市況の持ち直し、生産の回復などから大企業製造業の業況判断D.I.が改善する一方、インバウンド消費鈍化の影響などを受けて非製造業では景況感が伸び悩みとなっていた。
16年10-12月期の実質GDP(国内総生産)成長率は前期比年率で1.2%(2次速報値)となり、日本経済が回復基調を維持していることが示されたが、今年1月以降の経済指標も総じて底堅い状況が続いている。世界経済の持ち直しを受けて、輸出(数量)と生産は2月にかけて増加基調にある。これまで冴えなかった消費にも、雇用所得環境の改善などを受けて持ち直しの兆しがみえる。実質消費水準指数(除く住居等、季調値)は2月にかけて2ヵ月連続で改善しているほか、2月の自動車販売台数も前年比で大きく増加している。また、金融市場では、今年に入って、やや円高方向にシフトしているものの、米大統領選前と比べると依然として大幅な円安水準が維持されている。
今回、大企業製造業では輸出の回復や円安の持続を受けて幅広い業種で景況感が改善した。非製造業も消費の持ち直しのほか、16年度第2次補正予算の執行や大都市圏での再開発を受けた建設需要などが、景況感の改善に繋がった。ただし、円安・資源価格高止まりに伴う仕入コスト上昇などが景況感の抑制に働いたとみられ、マインドの改善は想定していたよりも限定的であった。
中小企業の業況判断D.I.は、製造業が前回比4ポイント上昇の5、非製造業が2ポイント上昇の4となり、大企業同様、製造業・非製造業ともに改善が示された。
一方、先行きの景況感については、企業規模や製造・非製造業を問わず悪化が示された。海外情勢については、トランプ米大統領の政策運営、フランス大統領選や英国のEU離脱等を控えた欧州の政治リスクなど、不透明感が強い。国内では消費の加速が見込みづらいほか、一部業種では人手不足に対する懸念が表面化していることが影響したとみられる。
なお、事前の市場予想との対比では、注目度の高い大企業製造業については、足元(QUICK集計14、当社予想は15)、先行き(QUICK集計13、当社予想は12)ともに市場予想を下回った。大企業非製造業は、足元(QUICK集計19、当社予想は23)は予想を若干上回ったものの、先行き(QUICK集計18、当社予想は21)は予想を下回った。
2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比0.4%増と前回調査時点の1.8%増から下方修正された。例年、12月調査から3 月調査にかけては、上方修正されやすいクセがあるが、今回は大企業の大幅な下方修正によって、全体でも下方修正となった。事業環境を巡る不透明感がかなり強かったことが、設備投資の抑制に働いたとみられる。
今回から新たに調査・公表された2017年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2016年度計画比で▲1.3%となった。例年3月調査の段階では前年割れでスタートする傾向が極めて強いため、マイナス自体にあまり意味はない。近年の3月調査との比較が重要になるが、今回は近年の3月調査での伸び率をかなり上回る計画が示されている。16年度計画が下方修正になっていることから、一部先送りされた分が17年度計画に加算された面もあるとみられるが、それを考慮しても強めであることには変わりない。生産の回復や人手不足等が計画の追い風になっている可能性が高い。
ただし、海外を巡る先行き不透明感はかなり強いことから、海外動向が今後の設備投資の大きなカギになってきそうだ。
今回の短観では、企業景況感の幅広い改善が確認され、日銀の景気回復・物価上昇シナリオをサポートする材料になりそうだ。ただし、先行きの景況感の弱さに慎重さが残る点は懸念材料として残るだろう。
ただし、今回の結果が日銀の金融政策に直接与える影響は限定的になる。もともと残された追加緩和の余地が小さいうえ、米大統領選後の円安進行と底堅い原油価格はともに物価の上昇に作用するため、当面、日銀が追加緩和を迫られる可能性は大きく低下している。一方で目標である物価上昇率2%は依然として遠く、出口戦略を視野に入れる段階にも全くない。従って、日銀は2%達成を目指し、長期にわたって現行金融政策の維持を続けるだろう。従来と比べて、日本の景気や企業の景況感と金融政策の関係性は希薄化している。
2.業況判断D.I.:事業環境の改善を受けて、幅広く改善
全規模全産業の業況判断D.I.は10(前回比3ポイント上昇)、先行きは4(現状比6ポイント低下)となった。規模別、製造・非製造業別の状況は以下のとおり。
(大企業)
大企業製造業の業況判断D.I.は12と前回調査から2ポイント改善した。業種別では、全16業種中、改善が12業種と悪化の4業種を大きく上回った。
海外経済の回復や円安がプラスに働きやすい、はん用機械(11ポイント改善)、自動車(8ポイント改善)、生産用機械(7ポイント改善)、電気機械(6ポイント改善)などが主な牽引役となった。一方で、円安による輸入コスト上昇が収益圧迫要因となる紙・パルプ(8ポイント悪化)や食料品(4ポイント悪化)が全体の伸びを抑制した。
先行きについては、改善・悪化ともに8業種なったが、全体の景況感は現状比1ポイント悪化した。原料輸入が多く、円安が逆風になりやすい木材・木製品(23ポイント悪化)、紙・パルプ(6ポイント悪化)、食料品(6ポイント悪化)のほか、トランプ政権から名指しで批判を受ける自動車(9ポイント悪化)などで悪化が目立つ。
大企業非製造業のD.I.は20と前回から2ポイント改善。業種別では、全12業種中、改善が8業種と悪化の4業種を上回った。
宿泊・飲食サービス(8ポイント改善)のほか、消費の持ち直しを受けて、対個人サービス(7ポイント改善)、小売(2ポイント改善)、卸売(2ポイント改善)なども改善。16年度第2次補正予算の執行や大都市圏での再開発の追い風を受ける建設(3ポイント改善)、不動産(2ポイント改善)も改善した。
先行きについては、これまで景況感改善が遅れてきた小売(6ポイント改善)こそ引き続き改善がみられるが、10業種が悪化し(横ばいが1業種)、全体では4ポイントの悪化となった。
特に建設(13ポイント悪化)で大幅な悪化がみられるほか、運輸・郵便(6ポイント悪化)もかなり悪化しており、既に人手不足感の強いこれらの業種において、今後業務に支障が出ることへの懸念が台頭しているとみられる。
(大企業)
大企業製造業の業況判断D.I.は12と前回調査から2ポイント改善した。業種別では、全16業種中、改善が12業種と悪化の4業種を大きく上回った。
海外経済の回復や円安がプラスに働きやすい、はん用機械(11ポイント改善)、自動車(8ポイント改善)、生産用機械(7ポイント改善)、電気機械(6ポイント改善)などが主な牽引役となった。一方で、円安による輸入コスト上昇が収益圧迫要因となる紙・パルプ(8ポイント悪化)や食料品(4ポイント悪化)が全体の伸びを抑制した。
先行きについては、改善・悪化ともに8業種なったが、全体の景況感は現状比1ポイント悪化した。原料輸入が多く、円安が逆風になりやすい木材・木製品(23ポイント悪化)、紙・パルプ(6ポイント悪化)、食料品(6ポイント悪化)のほか、トランプ政権から名指しで批判を受ける自動車(9ポイント悪化)などで悪化が目立つ。
大企業非製造業のD.I.は20と前回から2ポイント改善。業種別では、全12業種中、改善が8業種と悪化の4業種を上回った。
宿泊・飲食サービス(8ポイント改善)のほか、消費の持ち直しを受けて、対個人サービス(7ポイント改善)、小売(2ポイント改善)、卸売(2ポイント改善)なども改善。16年度第2次補正予算の執行や大都市圏での再開発の追い風を受ける建設(3ポイント改善)、不動産(2ポイント改善)も改善した。
先行きについては、これまで景況感改善が遅れてきた小売(6ポイント改善)こそ引き続き改善がみられるが、10業種が悪化し(横ばいが1業種)、全体では4ポイントの悪化となった。
特に建設(13ポイント悪化)で大幅な悪化がみられるほか、運輸・郵便(6ポイント悪化)もかなり悪化しており、既に人手不足感の強いこれらの業種において、今後業務に支障が出ることへの懸念が台頭しているとみられる。
(中小企業)
中小企業製造業の業況判断D.I.は5と前回から4ポイント改善した。業種別では全16業種中、改善が12業種と、悪化の4業種を大きく上回った。業種別では、大企業同様、輸出の恩恵を受けやすい生産用機械(19ポイント改善)、自動車(8ポイント改善)、電気機械(3ポイント改善)のほか、市況回復を受けた鉄鋼(16ポイント改善)、非鉄金属(11ポイント改善)などで改善が目立った。
先行きについては、悪化が12業種と改善の4業種を大きく上回り、全体では5ポイントの悪化となった。とりわけ、化学(13ポイント悪化)、造船・重機等(11ポイント悪化)、自動車(10ポイント悪化)、窯業・土石(10ポイント悪化)で二桁の悪化が見込まれている。
中小企業非製造業のD.I.は4と前回比2ポイント改善した。業種別では全12業種中、改善が10業種と悪化の2業種を上回った。大企業同様、建設(6ポイント改善)、不動産(2ポイント改善)のほか、小売(2ポイント改善)、対個人サービス(5ポイント改善)などで改善している。
先行きは、悪化が7業種と改善の1業種(通信)を大きく上回り、全体では5ポイントの悪化となった(横ばいが4業種)。建設(15ポイント悪化)、運輸・郵便(8ポイント悪化)、物品賃貸(8ポイント悪化)などで大幅な悪化が見込まれている。
中小企業製造業の業況判断D.I.は5と前回から4ポイント改善した。業種別では全16業種中、改善が12業種と、悪化の4業種を大きく上回った。業種別では、大企業同様、輸出の恩恵を受けやすい生産用機械(19ポイント改善)、自動車(8ポイント改善)、電気機械(3ポイント改善)のほか、市況回復を受けた鉄鋼(16ポイント改善)、非鉄金属(11ポイント改善)などで改善が目立った。
先行きについては、悪化が12業種と改善の4業種を大きく上回り、全体では5ポイントの悪化となった。とりわけ、化学(13ポイント悪化)、造船・重機等(11ポイント悪化)、自動車(10ポイント悪化)、窯業・土石(10ポイント悪化)で二桁の悪化が見込まれている。
中小企業非製造業のD.I.は4と前回比2ポイント改善した。業種別では全12業種中、改善が10業種と悪化の2業種を上回った。大企業同様、建設(6ポイント改善)、不動産(2ポイント改善)のほか、小売(2ポイント改善)、対個人サービス(5ポイント改善)などで改善している。
先行きは、悪化が7業種と改善の1業種(通信)を大きく上回り、全体では5ポイントの悪化となった(横ばいが4業種)。建設(15ポイント悪化)、運輸・郵便(8ポイント悪化)、物品賃貸(8ポイント悪化)などで大幅な悪化が見込まれている。
(2017年04月03日「Weekly エコノミスト・レター」)
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03-3512-1870
経歴
- ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
・ 2007年 日本経済研究センター派遣
・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
・ 2009年 ニッセイ基礎研究所
・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)
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