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- 国際比較で浮かび上がる日本の財政悪化の原因とは?
2017年03月31日
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6――税収の伸び悩みによる影響の定量的な試算
ここまでは、日本の政府債務が他国と比べて大きく増加している要因が少子高齢化に伴う社会保障給付の増大や低い経済成長にもありながら、他国と比較すると、税収の伸び悩みが大きな原因であることを定性的に検証してきたが、最後に税収の伸び悩みがどの程度政府債務の増加に寄与したのかを定量的に検証したい。
第5節では、日本の個人所得課税と法人所得課税における所得と税収の関係が他国と比べて特異なものであることを確認した。仮に、日本の個人所得課税と法人所得課税において、他国並みの所得と税収の関係が実現していた場合、どの程度税収が変化し、どの程度政府総債務の増加が抑制されたかを、簡便な方法ではあるが、国民経済計算ベースの税収の所得相当額に対する仮想的な弾性値(所得相当額が1%増加した際、税収が何%増加するかを示す値)を用いて試算を行った。
試算の概略は次の通りである。
まず、日本を除く5ヵ国について、国別に個人所得課税と法人所得課税の税収弾性値を簡便に推計。次に、5ヵ国の弾性値を単純平均し、算出した平均弾性値を日本の所得実績値に適用した場合、税収がどれだけ変化するかを試算した。当試算では、弾性値の推計にあたって各国の税制改正による影響を全く排除していないため、算出された弾性値は他国で実際に行われた税制改正を反映したものとなり、日本でも他国並みの税制改正が実現していた場合の影響を含む試算となっている。また、日本の所得は所与のもの5としており、日本が他国並みに経済成長していた場合の税収の増加については、ここでは考察対象外としている。
各国の税収弾性値推計にあたっては、1992年から2015年までの期間平均値に基づいて、所得相当額の変化率に対する税収の変化率の倍率として単純に算出した。なお、別の手法として、説明変数(所得)と被説明変数(税収)を対数変換し、回帰分析によって弾性値を推計したが、それを用いた場合も試算結果に大きな相違はなかった。
第5節では、日本の個人所得課税と法人所得課税における所得と税収の関係が他国と比べて特異なものであることを確認した。仮に、日本の個人所得課税と法人所得課税において、他国並みの所得と税収の関係が実現していた場合、どの程度税収が変化し、どの程度政府総債務の増加が抑制されたかを、簡便な方法ではあるが、国民経済計算ベースの税収の所得相当額に対する仮想的な弾性値(所得相当額が1%増加した際、税収が何%増加するかを示す値)を用いて試算を行った。
試算の概略は次の通りである。
まず、日本を除く5ヵ国について、国別に個人所得課税と法人所得課税の税収弾性値を簡便に推計。次に、5ヵ国の弾性値を単純平均し、算出した平均弾性値を日本の所得実績値に適用した場合、税収がどれだけ変化するかを試算した。当試算では、弾性値の推計にあたって各国の税制改正による影響を全く排除していないため、算出された弾性値は他国で実際に行われた税制改正を反映したものとなり、日本でも他国並みの税制改正が実現していた場合の影響を含む試算となっている。また、日本の所得は所与のもの5としており、日本が他国並みに経済成長していた場合の税収の増加については、ここでは考察対象外としている。
各国の税収弾性値推計にあたっては、1992年から2015年までの期間平均値に基づいて、所得相当額の変化率に対する税収の変化率の倍率として単純に算出した。なお、別の手法として、説明変数(所得)と被説明変数(税収)を対数変換し、回帰分析によって弾性値を推計したが、それを用いた場合も試算結果に大きな相違はなかった。

個人・法人ともに税収弾性値は5ヵ国平均が日本を上回り、5ヵ国平均の弾性値を適用すると、個人・法人ともに税収は増加するという結果となった。日本においては、法人所得相当額が1992年から2015年にかけて増加していたものの、税率引下げや課税ベースの拡大不十分による影響で法人税収が減少し、上で述べた簡便な方法に基づく税収弾性値が負に計測される一方、適用した5ヵ国平均の弾性値は正値であるため、特に法人所得税では大きな効果が見られた。個人と法人の合計では、280.5兆円(対2015年名目GDP比:52.7%)税収が増加、すなわち政府債務が280.5兆円減少するという結果となった。
5 他国並の税制改正が実現していた場合の所得への影響は考えないものとする
7――まとめ
当レポートにおける検証結果を総括すると、次の通りである。
1990年代以降、日本の政府総債務残高対名目GDPは他の先進国(フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国)と比べて大きく上昇している。この原因を探るため、国民経済計算ベースのデータを用いて、1992年から2015年における財政収支とその構成項目に焦点を当て、国際比較を通じて、特徴を明らかにした。
要因としては、日本の低い経済成長と恒常的な財政赤字による政府債務の増加があるが、後者が主因となっている。財政収支の内訳では、日本の利払費は低金利環境下で抑制されており、他国と比べても小さいが、対照的に日本の基礎的財政収支は1993年以降、恒常的な赤字となっており、他国と比べても大きくなっている。日本の恒常的な基礎的財政収支の赤字の大きな原因は、社会保障給付が大きく増加しており、それに対して、社会保障負担と税収の増加が追いついていないことがある。ただし、他国との比較では、税収の伸び悩みが大きな原因となっている。
税収については、特に直接税が伸び悩んでいる。これは、直接税の主要な税目である個人所得課税と法人所得課税について、経済成長が低迷したことによって、家計所得と法人所得が伸び悩んだことがある。また、税制改正については減税等の影響もあり、他国ほど所得の増加を税収の増加に結び付けられなかったことがある。
このように、日本の財政悪化の原因には複数の要因が絡んでいるが、他国との比較では税収の伸び悩みが大きな原因であると言える。しかし、今後さらなる社会保障給付の増加が予想される中では、経済成長と税制改正による税収の増加だけでなく、社会保障給付やその他支出の抑制も含めた、より総合的な施策が必要であるだろう。
1990年代以降、日本の政府総債務残高対名目GDPは他の先進国(フランス、ドイツ、イタリア、英国、米国)と比べて大きく上昇している。この原因を探るため、国民経済計算ベースのデータを用いて、1992年から2015年における財政収支とその構成項目に焦点を当て、国際比較を通じて、特徴を明らかにした。
要因としては、日本の低い経済成長と恒常的な財政赤字による政府債務の増加があるが、後者が主因となっている。財政収支の内訳では、日本の利払費は低金利環境下で抑制されており、他国と比べても小さいが、対照的に日本の基礎的財政収支は1993年以降、恒常的な赤字となっており、他国と比べても大きくなっている。日本の恒常的な基礎的財政収支の赤字の大きな原因は、社会保障給付が大きく増加しており、それに対して、社会保障負担と税収の増加が追いついていないことがある。ただし、他国との比較では、税収の伸び悩みが大きな原因となっている。
税収については、特に直接税が伸び悩んでいる。これは、直接税の主要な税目である個人所得課税と法人所得課税について、経済成長が低迷したことによって、家計所得と法人所得が伸び悩んだことがある。また、税制改正については減税等の影響もあり、他国ほど所得の増加を税収の増加に結び付けられなかったことがある。
このように、日本の財政悪化の原因には複数の要因が絡んでいるが、他国との比較では税収の伸び悩みが大きな原因であると言える。しかし、今後さらなる社会保障給付の増加が予想される中では、経済成長と税制改正による税収の増加だけでなく、社会保障給付やその他支出の抑制も含めた、より総合的な施策が必要であるだろう。
(2017年03月31日「基礎研レポート」)
神戸 雄堂
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