- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 暮らし >
- 子ども・子育て支援 >
- 「給付型奨学金」に期待-「貧困の連鎖」止める教育機会の平等を!
最近では、子どもを支援するNPOなどが食事を提供する「子ども食堂」が各地につくられ、孤立しがちな家庭や子どもたちの地域の交流拠点になっている。また、大学生などによる無償の学習支援も行われている。これら相対的貧困状態にある子どもを支援する取り組みは緊急を要するが、そもそも子どもの貧困を生み出さない社会をつくることが長期的な対策として重要だ。
貧困問題の特徴は、親が貧困状態にあると子どもが貧困になり、その子どもがおとなになると再び貧困状態に陥ることを繰り返す「貧困の連鎖」だ。負の連鎖を断ち切るために最も重要な政策は教育だ。親世帯の経済状況に関わらず、幼児教育から高等教育まで、だれもが教育機会を平等に享受できることが必要だが、日本の教育に対する公的支出割合(GDP比)はOECD諸国のなかでも非常に低い。
現在、大学・短大への進学率が5割を超え、その半数以上の大学生(昼間部)が奨学金を利用している。しかし、卒業後の返済負担は大きく、政府は2017年度から返還不要の給付型奨学金を創設する。文部科学省によると、国立・私立、自宅生・下宿生などの条件により、月額2~4万円を支給するそうだ。保護者の経済的負担を軽くし、意欲のある学生の進学を支援する一助になることが期待される。
一部企業では、就職後の奨学金の返済負担が大きい社員に、返還額を追加支給する「奨学金返済支援制度」を設けている。人材の定着を図ることが目的だ。また、以前から民間企業が設立した財団法人が、給付型奨学金を出している事例も多い。日本から海外への日本人留学生や、海外から日本への外国人留学生に対して奨学金を出す財団もある。昔から、教育は「国の礎」と考えられてきたからだろう。
日本社会の貧困の拡大の背景には、中間層の衰退がある。今日の貧困問題は、ひとり貧困層だけの問題ではない。高額な大学授業料などの負担に苦しむ中間層は多く、高等教育費の負担軽減が必要だ。現在の貧困状態を改善し、貧困の連鎖を断ち切り、労働力人口の減少を補償する生産性の向上のためには、教育により固定観念に囚われない多様な能力を有する人材育成が不可欠だ。本格的な人口減少時代を迎えた日本社会が取り組むべき成長戦略は、一にも二にも「教育」の充実ではないだろうか。
(参考) 研究員の眼『「子どもの貧困対策に関する大綱」を読んで~“少子化社会のユニバーサルデザイン”として』(2014年9月8日)
研究員の眼『絶対的貧困と相対的貧困~「子どもの貧困」どう可視化・共有化するか』(2014年12月29日)
土堤内 昭雄
研究・専門分野
(2017年03月21日「研究員の眼」)
公式SNSアカウント
新着レポートを随時お届け!日々の情報収集にぜひご活用ください。
新着記事
-
2024年04月30日
今週のレポート・コラムまとめ【4/23-4/26発行分】 -
2024年04月26日
ドイツの産業空洞化リスク-グローバル化逆回転はドイツへの逆風、日本への追い風か?- -
2024年04月26日
米GDP(24年1-3月期)-前期比年率+1.6%と前期から低下、市場予想の+2.5%も大幅に下回る -
2024年04月26日
滞留するふるさと納税 -
2024年04月26日
EUのDMA関連調査開始決定-GAFAそれぞれの問題を指摘
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年04月02日
News Release
-
2024年02月19日
News Release
-
2023年07月03日
News Release
【「給付型奨学金」に期待-「貧困の連鎖」止める教育機会の平等を!】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
「給付型奨学金」に期待-「貧困の連鎖」止める教育機会の平等を!のレポート Topへ