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米医療保険制度改革の振り返り-オバマケアは、なぜ人気がなかったのか?

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員 篠原 拓也
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1――はじめに
本稿では、健康保険市場1の動向を中心に、オバマケアが浸透しなかった原因を、概観することとしたい。アメリカの医療制度の事例は、日本における今後の医療・介護制度の改革に向けた検討の際にも、参考になるものと考えられる。
1 連邦や州が強制加入の受け皿として設けた保険提供の枠組み。全てのアメリカ国民がアクセス可能。健康保険市場で保険に加入すると補助金が支給されるなど、保険料が安くなるメリットがある。通称「エクスチェンジ」と呼ばれる。
2――健康保険市場の加入動向
3――医療制度改革の人気が高まらなかった様々な原因
1|数多くの訴訟が起こされ、一部は連邦最高裁の判決にまで至った
オバマケアについては、多くの訴訟が起こされ、司法判断が示されてきた2。例えば、次の通り。
(1)保険加入の義務づけとメディケイドの拡大の合憲性 ― 合憲
国民の保険加入を義務付ける条項が、憲法に反するかどうかが争われた。2012年、連邦最高裁は、これを合憲とする判決を下した。
また併せて、各州が運営する低所得者向け公的医療扶助制度であるメディケイドについて、加入資格基準を拡大することについても、合憲性が争われた。連邦最高裁はこれも合憲とした。ただし、基準は拡大するものの、実際に加入資格を拡大するか否かは、各州の判断に委ねられることとし、もし拡大しない場合でも、連邦政府から州への補助金は失われないとの判決となった。
(2)避妊医療の保障義務づけの合憲性 ― 違憲(一部適用除外)
企業が従業員向けに提供する医療保険の保障の一部に、避妊医療を含めることを義務づけている規定について、合憲性が争われた。2014年、連邦最高裁は、これを違憲とし、信仰に基づく経営方針をとる小規模経営や、非公開の企業は、この規定の適用が除外されるとの判断を下した。
(3)連邦運営の健康保険市場での助成金の合法性 ― 合法
連邦が運営する健康保険市場について、助成金を出すことが法令違反だとして訴訟が起こされた。法令規定上、助成金は州が設置した市場に対するものとされており、連邦が運営する健康保険市場に対する明文規定はなかった。2015年、連邦最高裁は、健康保険市場に助成金を出すことの法律趣旨は明らかであり、連邦が運営する場合でも、助成金は法令違反ではないとの判断を下した。
2 (1)~(3)は、それぞれ、“National Federation of Independent Business v. Sebelius”、“Burwell v. Hobby Lobby”、“King v. Burwell”と呼ばれる。
連邦議会では、オバマケアの廃止について、審議が繰り返されてきた。
(1)実施時期を巡る予算案不成立
オバマケアの2014年実施に関して、2013年9月に、共和党が多数を占める下院は、実施を1年延期する暫定予算案を可決した。一方、上院(当時は、民主党が多数)は、予定通りの実施とすべく、この暫定予算案を否決した。このため、両院が対立した。両院の調整は進まず、予算案が不成立となることが確定し、10月から2週間以上に渡り政府閉鎖の状態となった3。
(2)オバマケア廃止法案の可決と、代替案の公表
2014年11月の中間選挙では共和党が勝利し、上院・下院とも、共和党が多数を占めることとなった。2015年12月に上院、2016年1月に下院で、オバマケア廃止法案が賛成多数で可決された。オバマ大統領(当時)は、拒否権を発動して、廃止法成立を阻止した。
2016年11月の大統領選挙と上院・下院の議員選挙で、オバマケア廃止を掲げた共和党が勝利した。これを受けて、両院で、2017年1月に、オバマケアの撤廃に向けた決議案が可決された。3月6日に、下院の共和党は、オバマケアの代替案を公表した。代替案では、未加入者へのペナルティーをやめる一方、年齢と所得に応じた、新たな税優遇制度を導入して、加入率を高めるなどとされている。
3 2013年10月半ばに期限を迎える連邦政府債務限度額引上げ法案は可決され、連邦政府が債務不履行となる事態は、土壇場で回避された。なお、10月16日に、暫定予算案が両院で可決され、閉鎖は17日に解除された。
2016年に、医療保障を提供する保険会社が、相次いで、健康保険市場からの撤退を表明した4。健康保険市場は、これまで医療保険に加入していなかった人を、保険に加入させるための仕組みである。主な対象は低所得者層であり、保険料プランも比較的安いものが用意されている。それに対して、保険会社の想定よりも、保険給付の支払率が高く、保険収支が赤字となっていた。保険会社には、リスク管理プログラム(後述)が用意されている。しかし、それが十分に機能しなかったため、保険会社は損失を抱えることとなった。こうしたことが、市場からの撤退の背景にあったとされている。
4 大手保険会社では、2016年4月に、ユナイテッドヘルス社が多くの州から撤退。7月には、ヒューマナ社が2017年には主要な州で保険を提供しないことを表明。8月には、エトナ社が、15州のうち損失額の大きい11州から撤退することを発表。
5 新大統領就任後、オバマケアへの評価が変化しているとの調査結果もある。例えば、2017年2月公表の、Kaiser Family Foundationの調査では、オバマケア賛成48%、反対42%。Pew Research Centerの調査では、支持54%、不支持43%であった。
(2017年03月14日「保険・年金フォーカス」)

保険研究部 主席研究員 兼 気候変動リサーチセンター チーフ気候変動アナリスト 兼 ヘルスケアリサーチセンター 主席研究員
篠原 拓也 (しのはら たくや)
研究・専門分野
保険商品・計理、共済計理人・コンサルティング業務
03-3512-1823
- 【職歴】
1992年 日本生命保険相互会社入社
2014年 ニッセイ基礎研究所へ
【加入団体等】
・日本アクチュアリー会 正会員
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