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- 年金改革ウォッチ 2017年3月号~ポイント解説:確定拠出年金の資産運用の見直し
2017年03月07日
1 ―― 先月までの動き
先月は、社会保障審議会企業年金部会の「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」が新たに開催されました。確定拠出年金の資産運用に関する見直しの細部について、今年の夏頃までを目処に専門的な見地から検討が行われる予定です。
○社会保障審議会 企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会
2月14日(第1回) 委員長の指名等、過去の議論の整理、その他
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000151521.html (配布資料)
○社会保障審議会 企業年金部会 確定拠出年金の運用に関する専門委員会
2月14日(第1回) 委員長の指名等、過去の議論の整理、その他
URL http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000151521.html (配布資料)
2 ―― ポイント解説:確定拠出年金の資産運用の見直し
本稿では、「確定拠出年金の運用に関する専門委員会」の議論について、背景や論点を確認します。
1|見直しの背景:投資教育の限界を踏まえ、指定運用方法や提供する運用商品数の上限を設定。
1|見直しの背景:投資教育の限界を踏まえ、指定運用方法や提供する運用商品数の上限を設定。
確定拠出年金は、加入者が運用方法を選択し、掛金と運用成果に応じて受けとる年金額が決まるタイプの私的年金です。企業が掛金を拠出する企業型と個人が拠出する個人型とがあり、企業型の加入者は約600万人にまで増えています(2016年12月末速報値)。
その一方で、加入者が運用方法を選択するといっても、運用利回りが低い預貯金等に集中していることなどが課題となっています。預貯金等の元本確保型には元本割れしないというメリットがありますが、物価上昇等によって実質価値が目減りするリスクがあり、他の運用方法にも分散して投資した方が長期的な運用リスクを抑えられるためです。企業には加入者(従業員)にリスク等を教育する努力義務が課されており、加入者がリスクを理解して選択していれば問題ありません。しかし、実際には理解が不十分だったり選択肢が多すぎて検討するのが面倒なために預貯金等のみを選択している、という可能性が指摘されています。また、企業が金融機関との取引関係を考慮して同じような運用商品を複数の金融機関から採用しているために加入者が混乱している、という可能性も指摘されています。
そこで、2016年6月に公布された改正確定拠出年金法(公布後2年以内に施行予定)では、海外と同様に、加入者が運用方法を決めきれなかった場合に自動的に適用する運用方法を予め定めることと、企業が提供する運用商品の数に上限を設けることが盛り込まれました。当委員会では、前者の運用方法(指定運用方法[デフォルト商品])の要件や後者の上限数など、政省令の具体的な内容が検討される予定です。
その一方で、加入者が運用方法を選択するといっても、運用利回りが低い預貯金等に集中していることなどが課題となっています。預貯金等の元本確保型には元本割れしないというメリットがありますが、物価上昇等によって実質価値が目減りするリスクがあり、他の運用方法にも分散して投資した方が長期的な運用リスクを抑えられるためです。企業には加入者(従業員)にリスク等を教育する努力義務が課されており、加入者がリスクを理解して選択していれば問題ありません。しかし、実際には理解が不十分だったり選択肢が多すぎて検討するのが面倒なために預貯金等のみを選択している、という可能性が指摘されています。また、企業が金融機関との取引関係を考慮して同じような運用商品を複数の金融機関から採用しているために加入者が混乱している、という可能性も指摘されています。
そこで、2016年6月に公布された改正確定拠出年金法(公布後2年以内に施行予定)では、海外と同様に、加入者が運用方法を決めきれなかった場合に自動的に適用する運用方法を予め定めることと、企業が提供する運用商品の数に上限を設けることが盛り込まれました。当委員会では、前者の運用方法(指定運用方法[デフォルト商品])の要件や後者の上限数など、政省令の具体的な内容が検討される予定です。
2|今後の論点1:指定運用方法(デフォルト商品)として預貯金等(元本確保型)のみの設定を認めるか
第1の論点は、加入者が運用方法を決めきれなかった場合に適用する指定運用方法(デフォルト商品)として、預貯金等(元本確保型)のみの設定を認めるか、という点です。英国のNESTという制度ではデフォルト商品の選択率が99%を超えており*1、日本でもデフォルト商品が重要な問題となる可能性があります。前述した問題意識からは預貯金等を制限すべきという意見がありますが、その一方で、現実には預貯金等が多い、労使協議にゆだね規制すべきでない、デフォルト商品が元本割れした場合に企業の責任が問われる、という指摘もあります。今後は、加入者が積極的に預貯金等を選択すればデフォルト商品が預貯金等以外でも問題ないことや、いったんデフォルト商品が適用された加入者でも事後的に運用方法を指定できることなどをどう評価するかが、検討の鍵となりそうです。
第1の論点は、加入者が運用方法を決めきれなかった場合に適用する指定運用方法(デフォルト商品)として、預貯金等(元本確保型)のみの設定を認めるか、という点です。英国のNESTという制度ではデフォルト商品の選択率が99%を超えており*1、日本でもデフォルト商品が重要な問題となる可能性があります。前述した問題意識からは預貯金等を制限すべきという意見がありますが、その一方で、現実には預貯金等が多い、労使協議にゆだね規制すべきでない、デフォルト商品が元本割れした場合に企業の責任が問われる、という指摘もあります。今後は、加入者が積極的に預貯金等を選択すればデフォルト商品が預貯金等以外でも問題ないことや、いったんデフォルト商品が適用された加入者でも事後的に運用方法を指定できることなどをどう評価するかが、検討の鍵となりそうです。
3|今後の論点2:運用商品数の上限について労使が合意した場合には超過を認めるか
第2の論点は、提供する運用商品数の上限について労使が合意した場合には超過を認めるか、という点です。例外の有無によって、上限が持つ意味合いは大きく変わります。第1の論点のデフォルト商品とは違い、運用商品数の上限は加入者の選択の機会を制限するため、慎重な判断が必要です。
労使合意に基づく上限超過の容認は、この制限を緩和する手段になります。一方で、労使の合意といっても、現実には従業員の意見が適切に反映されない可能性も指摘されています。現在は諸外国における研究結果を基に議論されていますが、日本の現状を分析した上での議論が期待されます。
第2の論点は、提供する運用商品数の上限について労使が合意した場合には超過を認めるか、という点です。例外の有無によって、上限が持つ意味合いは大きく変わります。第1の論点のデフォルト商品とは違い、運用商品数の上限は加入者の選択の機会を制限するため、慎重な判断が必要です。
労使合意に基づく上限超過の容認は、この制限を緩和する手段になります。一方で、労使の合意といっても、現実には従業員の意見が適切に反映されない可能性も指摘されています。現在は諸外国における研究結果を基に議論されていますが、日本の現状を分析した上での議論が期待されます。
4|今後の論点3:個人型にも企業型と同じ規制を適用するか
第3の論点は、個人型にも企業型と同じ規制を適用するか、という点です。例えば、提供される運用商品数に企業の意向が反映される問題は、企業型固有のものです。また、提供される運用商品数が多すぎると検討が難しくなるという問題は企業型と個人型に共通していますが、企業型では勤務先が提供する確定拠出年金に加入するのに対し、個人型ではどの金融機関が提供している確定拠出年金に加入するかを加入者が選択できます。その際、提供される運用商品数を見て、加入先を選択できます。
諸外国を見ると、英国やチリなどでは提供される商品数が、スウェーデンでは選択できる商品数*2が制限されています。しかし、これらの国では確定拠出年金の加入や運営に政府が強く関与しており、日本とは状況が異なります。この論点についても、日本の状況に則した議論が期待されます。
第3の論点は、個人型にも企業型と同じ規制を適用するか、という点です。例えば、提供される運用商品数に企業の意向が反映される問題は、企業型固有のものです。また、提供される運用商品数が多すぎると検討が難しくなるという問題は企業型と個人型に共通していますが、企業型では勤務先が提供する確定拠出年金に加入するのに対し、個人型ではどの金融機関が提供している確定拠出年金に加入するかを加入者が選択できます。その際、提供される運用商品数を見て、加入先を選択できます。
諸外国を見ると、英国やチリなどでは提供される商品数が、スウェーデンでは選択できる商品数*2が制限されています。しかし、これらの国では確定拠出年金の加入や運営に政府が強く関与しており、日本とは状況が異なります。この論点についても、日本の状況に則した議論が期待されます。
*1 臼杵政治 (2016) 「行動経済学と確定拠出年金-英国NESTを中心に」, 『年金ストラテジー』(ニッセイ基礎研究所), Vol.235.
*2 現在は約700の運用商品の中から最大で5つを選択できる。制度の概要や2000年代初頭の状況は、中嶋邦夫 (2004) 「スウェーデンのプレミアム年金にみられる非合理的な投資行動」, 『年金ストラテジー』, Vol.235 を参照.
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(2017年03月07日「保険・年金フォーカス」)
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