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- 「普通保険約款」という用語-「保険規則」から「普通保険約款」へ
3――保険業法などでの普通保険約款
保険業法などでの普通保険約款の基礎書類としての記載の経緯はつぎのとおりである3。
旧商法(いわゆるロエスエル商法。1890年に成立。民法はフランス法を、商法はドイツ法を基礎としており、体系が異なることなどから反対の声が根強く、1893年その一部が施行され、保険監督に関する規定を含む完全施行はさらに遅れた)が1898年7月に完全施行となり、保険業は第689条で官許制とされ、同年8月、主務官庁である農商務省からつぎの農商務省令第5号が発出された。
前項ノ申請書ニハ目論見書、仮会社契約(仮定款)及ヒ左ニ掲ケタル事項ヲ記載シタル書面ヲ添付スヘシ但目論見書仮会社契約(仮定款)中ニ記載シアルモノハ此限ニ在ラス
三 責任準備金資本金及其他ノ積立金利用ノ方法
四 営業保険料、純保険料及ヒ附加保険料ノ対照表
五 一被保険者ノ生命ニ関シ支払フヘキ保険金最高額
六 保険契約ノ種類
七 普通保険約款
八 保険契約締結ノ手続
乙 損害保険業ヲ営ナマントスル者ニ在リテハ
一 保険料ノ計算ニ関スル統計表
二 前号第二、第三、第七及ヒ第八ニ掲ケタル事項4
旧商法の完全施行時代は1年足らずであり、1899年6月に新商法が施行され、同時に保険監督に関する規定は、近い将来の独立した保険監督法の制定を見据え、商法施行法に移され(第95条~第116条)、第98条において、普通保険約款を営業免許申請時の必要書類と規定した。
二 普通保険約款
三 保険料及ヒ責任準備金算出ノ基礎及ヒ方法
四 責任準備金利用ノ方法5
翌1900年7月に独立した保険監督法として保険業法が施行され、第1条で、「保険事業ハ主務官庁ノ免許ヲ受クルニ非サレハ之ヲ営ムコトヲ得ス」と、保険業を免許制とするとともに、第5条で「損害保険ヲ目的トスル会社カ免許ヲ申請スルニハ申請書ニ左ノ書類ヲ添附スルコトヲ要ス 一 定款 二 事業方法書 三 普通保険約款 四 保険料及ヒ責任準備金算出ノ基礎ニ関スル書類 五 財産ノ利用方法ヲ記載シタル書類」、第6条で「生命保険ヲ目的トスル会社カ免許ヲ申請スルニハ前条ニ掲ケタル書類及ヒ責任準備金利用ノ方法ヲ記載シタル書類ヲ添附スルコトヲ要ス」6と、普通保険約款を免許申請時の添付書類として規定している。さらに、第7条で普通保険約款記載事項を列挙している。
すなわち、1900年7月施行の保険業法以前に、1898年8月から農商務省令により、普通保険約款が保険業の基礎書類とて規定されていたこととなる。
この普通保険約款という用語は、わが国の保険監督法が模範とした、基礎書類の審査や認可などを通じて実体的に保険会社を監督するドイツにおけるallgemeine Versicherungsbedinngungen(英語ではgeneral policy conditions)という用語を翻訳したものであるものと考えられる。
3 三浦義道『改正保険業法解説』1~22ページ、巌松堂書店、1940年9月。
4 官報第4530号、1898年8月5日、近代デジタルライブラリー、国立国会図書館ホームページ。
5 官報第4703号、1899年3月9日、近代デジタルライブラリー、国立国会図書館ホームページ。
6 生命保険会社協会編『日本保険関係法規全集』上巻1ページ、1932年、近代デジタルライブラリー、国立国会図書館ホームページ。なお1912年の保険業法改正により、それまで第5条と第6条で損害保険会社、生命保険会社ごとに規定されていた基礎書類に関する条項が第5条に統合された。さらに1939年の保険業法全面改正により第1条と第5条が統合されて第1条となり、1996年施行の現保険業法では、第4条に普通保険約款などの基礎書類が列挙されている。
1898年8月の農商務省令制定以前から、すでに近代的保険会社が設立されていた。
1881年7月創設の明治生命(現明治安田生命)、1888年3月創設の帝国生命(現朝日生命)、1889年7月創設の日本生命などである。これらの会社では、普通保険約款という用語は使用されておらず、顧客との約定は「保険規則」と称されていた。
こうした事情は、保険業法の起草者の1人であり、後に農商務省保険課長を経て、1902年に日本初の相互会社として第一生命を創設した矢野恒太により、
「是迄実は日本に保険約款という文字は余りなかった、近頃出来たのでございますが、日本では保険規則という文字を確か明治生命で始めてお附けになった」7。と、顧客との権利義務を明確化するため、保険約款という名称として、保険業法施行規則で保険証券への添付を求めたと説明されている。
7 農商務省保険課長矢野恒太君講演『保険業法施行規則』22ページ、保険時報社、1900年10月。
4――おわりに
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小林 雅史
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(2017年02月28日「保険・年金フォーカス」)
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