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- 約款の数字 1から1095まで-第1回 「1」について
1――はじめに
筆者は生保会社に入社してもうすぐ満30年となるが、半分以上の17年間は、生命保険の「普通保険約款」(約款)などの作成を担当していた。
約款とは、生保会社などの事業者側が、顧客と一律的な取引を行うためにあらかじめ作成した定型的な約定である。生保会社においては、契約締結時に冊子の形式や、近年ではインターネット上の電子ファイルなどの形式で顧客に提供している。
筆者が約款担当としてだいぶ古株になった頃、後輩諸子に「約款で○○という数字はどんな条項に掲載されているか」などというクイズめいた質問をし、約款の習得状況を確認したことがある。
その際、「なぜ○○という数字になったのですか」という逆襲に遭ったりもしたので、回答の際には、その条項についての「いわく因縁」や「淵源由来」を説明するようにしていた。
本稿では、約款に掲載されている1から1095までの数字について、「いわく因縁」や「淵源由来」を含めて紹介することとしたい。今回はまず「1」について。
2――「1」という数字
筆者の後輩への質問当時の約款では、「1」は死亡保険金が支払われない事由(免責事由)1のひとつである、「契約締結後1年以内の被保険者の自殺」という条項に掲載されていた。そして、この1年以内という期間は「自殺免責期間」と呼ばれている。
被保険者の自殺を免責としているのは、経済的に困窮した被保険者が保険金取得目的で保険に加入し、自殺することによって遺族などに保険金を取得させるという、いわゆるモラル・リスク(保険金の不正な取得目的での保険加入)を回避するためである。
保険法の規定では、自殺について保険期間の全期間にわたり免責とすることも可能であるが、生保会社は約款で契約締結後一定期間の自殺免責期間を設定し、その期間内の自殺に限り免責としている。
これは、加入後一定期間経過後に自殺しようと計画して保険に加入するものは少なく、一定期間経過後の自殺については保険金取得目的である蓋然性が低くなる(たとえば、自殺免責期間がX年の場合、加入してからX年後に自殺して遺族などに保険金を取得させようとして保険に加入する者は少なく、その意思を貫徹してX年経過後に実際に自殺する者はさらに少ないと考えられよう)ことによる。
自殺免責期間については、「約款における自殺免責期間については変遷があり、1930~1940年は1年、1940年~1971年は2年、1971年以後1年というのが通例」2であった。
この後、「2000年前後からは、免責期間を2年とする国内会社が相次いだ。しかし、同時期にアメリカンファミリーやアリコジャパンなどの外資系では、免責期間を3年に延長したため、国内各社も2004年以降、免責期間を3年に延長する対応」3が行われている。
すなわち、概括的には、1971年~2000年までの約30年間は免責期間1年、2000年~2004年は、免責期間を2年とする会社と3年とする会社が混在していた4。2004年以降から現在は、多くの会社については免責期間3年となっている5。
したがって、現在の約款では自殺免責期間について「1」という数字は掲載されていない。
さて、免責期間を1年から2年、さらに3年に延長したのは、「平成初期の経済的な不況から、自殺免責期間経過の直後に自殺をして保険金を取得しようとするケースが増えた」6ことによる。
日本の自殺者数をみると、1997年の2万4391人から、翌1998年には3万2863人と約35%急増、はじめて3万人を超えた。2003年には3万4427人とピークに達しており(警察庁「自殺統計」)、「2000年前後の免責期間2年への変更」、「2004年以降の免責期間3年への変更」といった状況と符合している(直近の自殺者数は2012年に2万7858人、2013年に2万7283人と3万人を下回っている。しかしながら、世界的に見た日本の自殺率は突出して高い状況にあり、たとえば米国の2倍に近い)。
なお、海外にも自殺免責期間があり、米国のニューヨーク州保険法やフランス保険法典では2年、ドイツ保険契約法では3年などとなっている7。
(2015年02月12日「研究員の眼」)
小林 雅史
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