2017年02月24日

中国経済見通し~成長率は6.5%前後へ減速と予想、リスクは“住宅バブル崩壊” と“トランプシフト”

三尾 幸吉郎

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4.経済見通し

1|ポイントの整理
2017年以降の中国経済を見通す上で重要と考えられるポイントを整理したのが図表-16である。主なプラス要因としては、(1)中間所得層の着実な増加、(2)雇用情勢の安定、(3)企業利益の底打ち、(4)中国製造2025関連領域に対する政策支援、(5)新型都市化・環境対応に伴う巨大インフラ需要、(6)米国の持続的な景気拡大、(7)元安による輸出競争力の向上が挙げられる。一方、主なマイナス要因としては、(1)賃金上昇率の鈍化、(2)小型車減税の縮小、(3)住宅規制の強化、(4)インフレ率の上昇、(5)製造業の過剰設備・過剰債務の圧縮、(6)インフラ投資のスピード調整、(7)後発新興国への工場移転が挙げられる。これらを総合的に勘案するマイナス要因の影響がプラス要因を上回ると見られる。また、3月に開催される全国人民代表大会(全人代)では、2017年の成長率目標が発表される見込みだが、2016年の「6.5~7%」から「6.5%前後」へ引き下げる可能性が高いと予想している。
(図表-16)主なプラス要因・マイナス要因
(図表-17)経済予測表 2|経済見通し
経済見通しとしては、2017年の実質成長率は前年比6.4%増、2018年は同6.4%増と、6.5%前後の経済成長が続くと予想している。個人消費は、中間所得層の着実な増加や雇用情勢の安定などが強力なプラス要因となるものの、所得の伸び鈍化、インフレ率の上昇、小型車減税の縮小、住宅規制の強化などマイナス要因も目立つため、伸びは小幅に鈍化すると予想している。投資は、製造業の過剰設備・過剰債務の圧縮、バブル退治に伴う住宅着工の減速、インフラ投資のスピード調整などマイナス要因が目立つものの、企業利益の底打ちや中国製造2025関連領域に対する政策支援などプラス要因もあることから、小幅な鈍化に留まると予想している。輸出は、米国の持続的な景気拡大などがプラス要因だが、後発新興国への工場移転は止まらず、2016年並みに留まると予想している。また、消費者物価は原油高や住宅価格上昇、それに人民元安に伴う輸入物価上昇を受けて緩やかに上昇していくと予想している(図表-17)。

金融市場の動向としては、米国では景気拡大の歩調に合わせてゆっくりと政策金利が引き上げられていくと想定している。一方、中国では第13次5ヵ年計画(2016-20年)で成長率目標を「6.5%以上」と高く設定していることもあって、中国の利上げは米国の利上げに大きく遅れると見ている。従って、米中金利差は2017年も縮小する可能性が高く、それを背景に人民元は弱含みの展開が続くだろうと見ている。その後、インフレ率上昇が実質成長を蝕む構造が看過できなくなると見ていることから、中国人民銀行は2018年1-3月期に第1回目の利上げに踏み切ると予想している。そして、人民元下落には歯止めが掛かり、2018年の人民元はやや上昇と予想している(図表-18)。
(図表-18)(図表-18)
3|リスクの所在
構造改革の渦中にある中国経済を取り巻く環境は極めて不透明でありリスクを挙げれば切りが無いが、注意すべきは“住宅バブル崩壊”と“トランプシフト”だと考えている。
(図表-19)新築住宅販売価格の推移 中国経済が抱える最大のリスクは“住宅バブル崩壊”だと考えている。中国人民銀行は2014年11月以降6回に渡る利下げを実施、これを受けて2016年の住宅ローン残高は前年比35.0%増と急増、融資全体の増加額の約4割を占めた。分譲住宅の販売面積は前年比22.4%増となり、住宅価格は勢い良く上昇した。現時点の住宅価格を年間可処分所得で割った倍率は北京市で16倍前後に達したと見られる4。これは日本で住宅バブルがピークを付けた1990年の東京都区部の倍率とほぼ同水準である。従って、北京市の住宅価格はバブルだと言っても過言ではないと思われる。

住宅価格がまだ上昇している中で、その崩壊に言及するのは時期尚早なのかもしれない。しかし、その影響の大きさを考えれば事前の心構えが必要だろう。そもそも中国では、過剰設備・過剰債務問題を解消すべくゾンビ企業の淘汰を進めており、銀行が抱える不良債権は増加傾向にある5。それに加えて、昨年急増した個人の住宅ローンまで返済が滞るようなことになると、金融システムが不安定になるリスクが排除できなくなる。

具体的には、住宅価格が微調整ライン(A)を上回っているうちはメインシナリオの範囲内(黄信号)、それを下回ればシナリオ修正が必要な「赤信号」と考えている。仮に「赤信号」が点灯したとしても、中国政府が財政金融面で有効な対策を打ち出せば金融システム不安を回避できる可能性はある。しかし、有効な対策が打ち出されず、デッドライン(B)を下回るようだと、住宅バブル崩壊へと一直線で突入するリスクも排除できない。ここ数年で建設された住宅在庫のほとんどがデッドストック(含み損を抱えた資産)となってしまうからだ(図表-19)。従って、中国政府が適時適切なタイミングで政策運営を上手く切り替えられるのか、その手綱さばきの巧拙が問われる局面となるだろう。

また、前述のとおり製造コストが高くなった中国では、海外企業が対内直接投資を減らし、中国企業が対外直接投資を増やす動きがでてきている。その動きを加速させかねないのがトランプシフトである。米国では“米国第一”を掲げるトランプ政権が動き出した。巨大な貿易赤字を計上する中国に対する風当たりは尚一層強まるだろう。現時点では広範囲に高関税を課す可能性は高くないと見ている6。しかし、グローバル企業がサプライチェーンを見直して、中国にある製造拠点を貿易赤字の小さい国・地域へ移すトランプシフトが加速する可能性もあり、その場合は中国国内の投資が想定以上に落ち込むことになるだろう。当面は、米中貿易摩擦の行方とグローバル企業の動向から目が離せない状況が続きそうだ。
 
4 住宅バブルに関しては「図表でみる中国経済(住宅市場編)~住宅バブルの現状と注目点」基礎研レター 2016-11-1を参照
5 不良債権の現状に関しては「図表でみる中国経済(不良債権編)」基礎研レター2016-07-15を参照
6 米中の貿易関係に関しては「トランプノミクスと中国経済-中国は「為替操作国」に認定されて深刻な打撃を受けるのか?」基礎研REPORT(冊子版)2017年1月号を参照
 

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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2017年02月24日「Weekly エコノミスト・レター」)

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