2017年02月24日

中国経済見通し~成長率は6.5%前後へ減速と予想、リスクは“住宅バブル崩壊” と“トランプシフト”

三尾 幸吉郎

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2|投資
投資は引き続き減速している。投資の代表指標である固定資産投資(除く農家の投資)の動きを見ると、2016年は前年比8.1%増と、2015年の同10.0%増を1.9ポイント下回った。価格要因を除いた実質でも前年比8.8%増と2015年の同12.0%増を3.2ポイント下回っている(図表-8)。業種別に見ると、全体の3分の1を占める製造業が前年比4.2%増と3.9ポイント低下、消費サービス関連も同8.4%増と5.9ポイント低下した。一方、不動産業は同6.8%増と低水準ながらも2015年の同2.5%増を4.3ポイント上回り、水利・環境・公共施設管理業などインフラ関連は伸びが鈍化したものの同15.4%増と、2桁台の高い伸びを維持している(図表-9)。
(図表-8)固定資産投資(除く農家の投資)の推移/(図表-9)固定資産投資(除く農家の投資)の内訳
2017年以降の投資は2016年に比べて小幅に減速すると予想している。(1)企業利益の底打ち(図表-10)、(2)「中国製造2025」に関連する領域に対する中国政府の手厚い支援、(3)新型都市化・環境対応に伴う巨大なインフラ需要1が投資の伸びを高めるプラス要因として働くと見られる。しかし、(1)過剰生産能力を抱える製造業では引き続きデレバレッジ(債務圧縮)の動きが続くと見られること、(2)中国政府が住宅規制を強化したことに伴って住宅着工が減速すると見られること、(3)2016年前半に高い伸びを示したインフラ投資も足元ではスピード調整していること、(4)中国国内の賃金が上昇したことに伴って国内での製造コストが高くなり、製造拠点を後発新興国(ベトナム、ミャンマー、インドなど)へ移転する動きが加速している。そして、海外企業による対内直接投資が頭打ちとなってきたのに加えて、国内企業による「一帯一路」地域などへの対外直接投資も増加傾向を示している(図表-11)。これら4点が国内投資を抑制するマイナス要因として働くため、全体としてはマイナス要因がやや勝り2017年以降も投資は小幅に減速すると見ている。

なお、中国では、大気汚染対策、水質汚染対策、土壌汚染対策、ごみ処理能力増強など環境関連や、中国共産党・政府が2014年3月に発表した「新型都市化計画(2014~2020年)」に伴う交通物流関連の需要が大きいため、成長率目標を下回る恐れが出てきた場合には、長期計画を前倒してインフラ投資を加速させる可能性がある。
(図表-10)工業企業(一定規模以上)の利益/(図表-11)中国の対内・対外直接投資の推移
 
1 新型都市化が生み出す投資需要は巨大で2020年までの累計で42兆元に達すると試算されている(中国財政部)。スケジュールとしては2017年までが試行地域における先行実施期間となり、その成果を踏まえて2018-20年には全国展開される予定。なおこれに関連して、2016年5月11日には投資総額4.7兆元に及ぶ交通インフラ整備3ヵ年計画(2016-18年)が発表された。
3|輸出
輸出は冴えない動きとなっている。2016年の輸出額(ドルベース)は前年比7.7%減と、2015年の同2.9%減に続いて2年連続の前年割れとなった(図表-12)。相手先別に見ると、米国向けが前年比5.9%減、EU向けが同4.7%減、日本向けが同4.7%減、ASEAN向けが同7.8%減となるなど減少した相手先がほとんどだ。増加したのはロシア向けの同7.4%増が目立つ程度である。

2017年以降の輸出は2016年並みに留まると予想する。(1)米国の持続的な景気拡大、(2)「一帯一路」の沿線地域への影響力拡大、(3)人民元の下落が輸出の伸びを高めるプラス要因として働くと見られる(図表-13)。しかし、国内生産の製造コストが上昇した中で、製造拠点を後発新興国へ移転する動きは外資系企業ばかりか国内企業でも盛んであり、国際収支統計を見ても対内直接投資が減り対外直接投資が増えているため、引き続き輸出を抑制するマイナス要因となりそうだ。従って、全体としての伸びは±ゼロ前後で横ばいと見ている。足元では先行指標となる新規輸出受注(中国国家統計局)や貿易輸出先行指数(中国税関総署)が上向いてきており、大きく落ち込む可能性はしばらく低い。しかし、対米輸出に力点を置くグローバル企業が、トランプ米大統領の意向に配慮してサプライチェーンを見直し、製造拠点を風当たりの強い中国から後発新興国などへ移転する“トランプシフト”が加速すれば、中国の輸出は3年連続の前年割れとなる可能性も否定できない。
(図表-12)輸出額(ボルベース)の推移/(図表-13)2016年の主要通貨の変化率(対米ドル、2015年末比、WM/Reuters)

3.金融政策は景気重視からバブル退治へ

3.金融政策は景気重視からバブル退治へ

2016年の金融政策を振り返ると、年明けには株価が急落し、人民元が資金流出懸念から売られる中で、中国人民銀行は3月1日に市中銀行から強制的に預かる資金の比率である預金準備率を0.5%引き下げた(図表-14)。過剰設備・過剰債務の調整を進める上で、その痛みを和らげるための措置とされた。また、ドル売り元買い介入が増える中で、金融市場に人民元建て資金を供給する必要があったことも背景にあると見られる。

また、中国人民銀行は貸出・預金の基準金利の引き下げを見送った(図表-13)。景気失速懸念が強まった年明けには、金融市場では利下げ期待が高まった。しかし、原油価格の底打ちを背景に消費者物価は上昇し始めており、住宅市場ではバブル懸念が強まっていた。住宅価格の動きを振り返ると、2016年7月には前回高値(2014年4月)を越え最高値更新中である(図表-15)2。また、2017年1月の住宅価格を見ると、70都市平均では前回高値を小幅に(6.1%)上回ったに過ぎないが、深圳市(広東省)では前回高値の1.77倍と2倍近い水準まで上昇、上海市でも1.46倍、北京市でも1.34倍と巨大都市では住宅バブル懸念が強まっている。即ち、2016年9月までは、景気重視タンスで臨んだ結果、住宅バブルの膨張に関しては本格的な対策を講じなかったと言えるだろう。

景気失速懸念が薄れ回復への足取りがしっかりとしてきた2016年9月末前後、金融政策の重点は“景気重視”から“住宅バブル退治”へ移行したと見られる。10月の国慶節連休前後には深圳市や上海市など多くの地方政府が住宅購入規制を強化する方向に動き出した。また、中国人民銀行は10月12日に、商業銀行17行の幹部および融資担当者などを招集して住宅ローンの管理強化を要請した。中国銀行業監督管理委員会(銀監会)も、不動産融資を巡るリスク管理を強化する方針を明らかにした。そして、12月14-16日に開催された中央経済工作会議では、「住宅は住むためのものであって、投機のためのものではない」として、不動産市場の平穏で健全な発展を促進する方針を打ち出した。中国政府が新常態3への移行を決断した下で、さらなる高成長を目指すよりも、巨大都市で顕著となった住宅バブルをソフトランディングさせることに注力する方針と見られる。
(図表-14)金融市場の動き/(図表-15)新築分譲住宅価格(除く保障性住宅、70都市平均)
 
2 住宅価格は、中国国家統計局が毎月公表する「70大中都市住宅販売価格変動状況」の中で、新築分譲住宅価格(除く保障性住宅)を用いている。また、2016年1月以降の2010年基準指数及び70都市平均を定期公表されてないためニッセイ基礎研究所で推定している。
3 新常態に関する筆者の見方に関しては「中国経済の“新常態”とそれを揺るがす“4つの問題”」基礎研レポート2014-9-22を参照
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三尾 幸吉郎

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