2017年02月03日

トランプ相場とアベノミクス相場の相違点(為替)~金融市場の動き(2月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2.日銀金融政策(1月):米政策の注視を強調、円安誘導批判を牽制

(日銀)現状維持

日銀は1月30日~31日に開催された金融政策決定会合において、金融政策を維持した。長短金利操作(マイナス金利▲0.1%、10年国債利回りゼロ%程度)、資産買入れ方針(長期国債買入れ年間80兆円増、ETF買入れ年間6兆円増など)においてこれまでの方針を維持した(賛成7反対2)。なお、3月に期限が来る「成長基盤強化支援のための資金供給」など各種資金供給策については、1年間の延長を決定した(全員一致)。
 
声明文とともに発表された展望レポートでは、景気の現状判断を「緩やかな回復基調を続けている」とし、前回から据え置いた。内訳の項目についても前回から変更は無かった。16~18年度の実質成長率の見通しについては、各年度分ともに前回(10月)から上方修正した。GDP統計の基準改定、海外経済の上振れ、円安が理由として挙げられている。一方、物価上昇率は前回からほぼ据え置きとなった。本来であれば、成長率の上方修正は物価上昇率の上方修正に繋がるはずだが、現在のところ物価が弱めに推移していることを考慮し、物価は据え置いたとの説明があった(総裁会見にて)。しかしながら、もともと日銀は物価に対して強気の見通しを出し、実現困難なことが見えてくるにつれて下方修正する傾向が強い。今回は成長率の上方修正や円安によって、もともと強気設定である物価見通しの下方修正を回避できたというのが実情だろう。
 
会合後の総裁会見では、トランプ政権の政策に対する見方についての質問が相次いだ。黒田総裁は、「現時点では、新政権の経済政策の具体的な内容は明らかとなっていないが、(中略)新政権の政策運営の方向性やその影響についてはよく注意してみていきたい」と前置きしつつも、「減税、インフラ投資などのマクロ経済政策面では、経済成長を押し上げる方向に効くだろうとみられる。他方で、様々な保護主義的な政策が採られれば、世界貿易を縮小させたり、世界経済の成長を減速させたりするおそれや懸念がある」、「世界的に保護主義が非常に大きく強い形で拡がる可能性は低いだろう」との認識を示した。現段階では政策の不透明感が強いためか、慎重な言い回しに終始した印象。

金融政策と為替の関連性については、「日本の金融政策はあくまでも物価の安定、具体的には2%の物価安定目標をできるだけ早期に実現するために運営されており、為替レートの水準や為替レートの安定は目標にしていない」、「(日銀の緩和は金利差拡大に働くが)日米の金利差だけで何か為替レートが決まってくるということでは必ずしもない」と説明。米国サイドからの通貨安誘導批判の可能性を意識したものとみられるが、従来よりも円安誘導との見方を強いトーンで否定した。

また、国債買入れオペの日々の運営と先行きの政策の関係については、「国債買入れオペの金額あるいはタイミング、回数などは国債の需給環境あるいは市場の動向などを踏まえて実務的に決定されるもの」、「日々の国債買入れオペの運営によって、先行きの政策スタンスを示すことはない」とし、オペ運営を巡る市場のテーパリング観測を否定した。
 
今年に入ってから、為替はやや円高方向に推移しているが、米大統領選前と比べれば依然として大幅な円安水準であること、原油価格も底堅く推移していることは、ともに物価の上昇に働くため、日銀が追加緩和を迫られる可能性は大きく低下している。一方、2%の物価目標は依然として非常に遠い状況に変わりないため、出口戦略を視野に入れる段階も程遠い。従って、日銀は長期にわたって現行金融政策の維持を続けるだろう。長期金利目標の明示的な引き上げも時期尚早(市場動向によっては許容レンジを若干引き上げていく対応は有り得る)。

ただし、現在年間約80兆円増としている国債買入れペースについては、市中残存額との関係で長期には続けられないため、早ければ夏までに減額や柔軟化を開始する可能性がある。
展望レポート( 1 7年1月)政策委員の大勢見通し(中央値)/展望レポート( 1 7年1月)政策委員のリスク評価(コアCPI )

3.金融市場(1月)の動きと当面の予想

3.金融市場(1月)の動きと当面の予想

(10年国債利回り)

1月の動き 月初0.0%台後半からスタートし、月末も0.0%台後半に。    
月初、米金利の低下や低調な入札など強弱材料が交錯し、0.0%台半ばから後半の狭いレンジでの一進一退が継続。12日にはトランプ氏の記者会見を受けた失望による株安を受けて、0.0%台前半に低下。以降しばらく0.0%台半ばを挟んだ展開が続いたが、25日に日銀が中期ゾーンの国債買入れオペを見送ったことを受けて量的緩和縮小観測が台頭、26日には0.1%に迫る水準に上昇した。翌27日には長期ゾーンの買入れオペが増額されたことでやや低下したが、月末にかけて0.0%台後半での推移が続いた。

当面の予想
日銀による国債買入れ縮小・長期金利目標引き上げ観測が燻るなか、昨日の金利上昇局面で指値オペが見送られたことで、本日は一時0.1%台半ばに上昇したが、指値オペ実施を受けて0.1%付近に急低下している。最近の日銀のオペ運営は意図がわかりにくく、市場の疑心暗鬼に繋がっている。しばらく積極的に国債を買いづらく、長期金利が高止まりしそうだ。ただし、日銀が近いうち国債買入れの縮小や長期金利目標の引き上げに踏み切る可能性は低い。さらに金利が大きく上昇する局面では日銀による金利抑制措置の実施が予想される。従って、当面大幅な金利の低下や上昇は見込まれない。
日米独長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(1月)
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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