2017年01月31日

EIOPAによる2016年度保険ストレステストの結果について(3)-EIOPAの報告書の概要報告-

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3―ストレステストの結果-(4)重要な影響変数、(5)デリバティブ分析-

この章では、「(4)重要な影響変数」、「(5)デリバティブ分析」について、報告する。

1|重要な影響変数
ストレステストサンプル会社は、異なるストレス感応度の背後にある主な要因を強調するために、シナリオ毎に5つの異なるグループに分けられた(シナリオによって会社は異なるグループになる可能性がある)。このグループ毎に、AOL比率(Assets over Liabilities ratio:資産/負債)の変化や技術的準備金、将来保証給付、SCR(Solvency Capital Requirement:ソルベンシー資本要件)比率及び会社規模等の重要変数との関係を分析している。

(1)グルーピング基準がAOL比率の変化の場合
AOL比率の変化の影響が最も大きい会社がグループ1に属し、影響が最も小さい会社がグループ5になる。特に、シナリオ毎に、全てのサンプル会社が、AOL比率の変化の分布における五分位数として定義される5つのグループのうちの1つに割り当てられる。
図表 AOL比率の変化によるグルーピング基準
主な分析の結果は、以下の通りとなっている。

・グループ1とグループ2の会社は、ストレスシナリオの影響を比較的受けている一方で、ストレス前のAOL比率が幾分高く、ストレス後のAOL比率も相対的に高い水準を維持している。ダブルヒットシナリオでは、(AOL比率の変化の影響が比較的小さい)グループ3とグループ4の会社は、AOL比率を1以上に保つために、特にLTG及び移行措置に依存している。

・ユニットリンク型契約のシェアの高い会社は、伝統的な生命保険契約のシェアが高い会社よりも、最も影響を受けていないグループ(特に、グループ4とグループ5)に属している可能性が高い。それは、契約者が資産価格の変動リスクを負うため、負債が変動し、資産価値の低下を完全に相殺することによる。このパターンは、資産と負債において、両方のシナリオで、一貫して観察された。しかし、ユニットリンク型契約の大きなシェアのため、ストレスの直接的なソルベンシー効果から会社は保護されているが、保険契約者はそうではないことは注目に値する。さらに、多くの保険契約者が同時に保険契約を解約しなければならない場合には、流動性問題が発生する可能性がある。

・不利な市場シナリオに対してより脆弱な会社(特にグループ1)は、当初のAOL比率がより高い会社であるようにみえる。これは、内部ガバナンス、市場及び/又は規制上の圧力の結果である可能性がある。また、LTG及び移行措置の使用の多様性を反映しているが、LTG及び適用措置を除外した場合でも、グループ1はAOL比率でより良い資本を有している。

・長期低利回りシナリオ(グループ間の差がより小さいシナリオ)におけるストレス前のSCR比率と併せて見ると、その結果は、そのようなシナリオのリスクにさらされている会社に対して、規制資本要件がより高い、という明確な役割を示唆しているようである。この発見は、(ストレス・テストによってテストされたように)市場状況の変化に比較的敏感な会社が、比較的高い資本水準のため、他のグループの会社よりも悪い、またはリスクの高いポジションにあるとは限らない、ことを示している。さらに、ストレスシナリオに対する感応度は、LTG及び移行措置の使用にも依存している。

・将来の保証給付のシェアは、とりわけ、シナリオの最大の影響を経験した会社を有するグループにおいて、分布が一貫して著しくより高い方向にシフトしたダブルヒットシナリオにおいて、グループを明確に分離している。

(2)グルーピング基準がストレス後のAOL比率の場合
潜在的な脆弱性の別の見方は、AOL比率の変化ではなく、ストレス後のAOL比率に従って、会社を分類することによって得られる。この第2の基準は、以前の状況にかかわらず、ショック後の状況に従って、会社をグループ化することを可能にする。これらのグループを割り当てる際、適用されたストレスの長期的な経済的影響を示すために、LTG及び移行措置の影響は除外されている。
図表 ストレス後のAOL水準によるグルーピング基準
主な分析の結果は、以下の通りとなっている。

・グループ2、グループ3及びグループ4の場合、LTGの影響は特に顕著である。ダブルヒットシナリオでは、これらのグループは、措置が含まれているときのAOL水準が非常に近いが、これらの措置を除くと、グループ1とグループ2のAOL比率は1未満となる。

・(ベースラインでの資産が)より大きな会社が、小会社よりも、ストレス後のAOL比率が最も低いグループに属する可能性がはるかに高い。これは、特にダブルヒットのシナリオで示されている。これらの大会社は、ベースラインでもAOL比率が最も低い会社グループである。しかしながら、重要なことは、これらの会社は(AOL比率の変化の点で)ストレスの影響を最も受けているわけではないが、当初の相対的に低い資本水準が依然としてそれらの会社を潜在的に脆弱としている、ということである。グループ1の会社は、他のグループの会社よりも、マッチング調整を適用している可能性が高く、程度は少ないが、ボラティリティ調整を適用している会社である可能性が高い、ことを示している。

・長期低利回りシナリオにおいては、規模において、著しい差異が見られる。グループ1の中央値(メディアン)の会社はグループ3の中央値の会社の約2.5倍の規模であり、グループ3の中央値の会社はグループ5の中央値の会社の約8倍の規模である。グループ1の会社は、グループ2やグループ3の会社に比べて、内部モデルの適用がはるかに少なく、グループ4やグループ5の会社と同じ適用水準となっている。これらの会社の資本レベルがSCR比率やAOL比率の点でもより低く、SCR比率については、グループ1のSCR比率の中央値は1.66であるのに対して、グループ2やグループ3ではそれぞれ1.94及び1.96となっている。それにも関わらず、これらの会社はボラティリティ調整やマッチング調整をより適用している。

・さらに、長期低利回りシナリオにおいて、負債超過資産の点でより高いストレス前資本とショックに対するより大きな感応度を有し、それでもより高いストレス後資本を有している、グループ4やグループ5におけるより小さな会社の集団を見つけることができる。これらのグループは、SCR算出に標準式を使用している生損保兼営会社であり、ボラティリティ調整やマッチング調整をあまり適用していない会社である。

2|デリバティブ分析
デリバティブがSCRの金利感応度やリファイナンスリスクに与える影響を調査するための評価については、強制的でないため、5カ国(フィンランド、フランス、オランダ、デンマーク、アイルランド)のみが明示的に自国会社に参加を呼びかけていた。自発的な参加会社を含めても、合計で40社が参加したのみのため、データは比較的限定されている。

デリバティブ・ヘッジングの影響は会社間で異なるが、利用可能なデータが限定されていることから、一般的な結論を引き出すことはできなかった。ただし、デリバティブの使用は、デンマークやオランダの会社において、金利感応度を低下させた(平均して、デンマークの会社はデリバティブの使用により、金利感応度を半減させている)。

一方で、デリバティブの使用は、デリバティブのカウンターパーティリスクのような他のリスクに会社をさらすことになる。
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中村 亮一

研究・専門分野

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