2017年01月17日

EUと米国の間の再保険規制を巡る交渉はどうなったのか-カバード・アグリーメントをついに締結へ-

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2|NAIC(全米保険監督官会議)
これに対して、カバード・アグリーメントの締結に慎重な意見を示していたNAICは、以下の声明をリリースして、引き続き批判的なスタンスを表明している。

その中で、NAIC会長のTed Nickel氏は、「私たちは、1年以上の秘密会議の後、現行政権が終わろうとしている時に、最終的に、米国とEUの間で合意されたカバード・アグリーメントが何を意味するのかの詳細を目の当たりにしている、ことに失望している。」と述べ、さらに「消費者保護が州法の優先権の侵害によって妥協されないように、協定の徹底的な見直しを調整しており、我々は議会に対して、同じことをすることを奨励している。最大の懸念は、米国企業に対する外国の規制を強制するバックドア(内密の方法)としてこの合意を使用する可能性があることである。」と述べている。

NAICは、「合意が、法律上の対象となる契約の臨界値を満たしているかどうか、米国の消費者及び企業にどのように潜在的な影響を与える可能性があるのかを判断する上において、メンバーを支援する。」としている。
 

NAICは財務省とEUの取引に反応

ワシントンDC(2017年1月13日)

全米保険監督官協会(NAIC)の州の保険監督官及び検事が、米連邦政府とEU(欧州連合)の間の合意をレビューしている。このレビューでは、消費者が保護されたままであり、米国の会社が外国の保険会社と比較して競争上不利な立場に置かれていないことを確実にするよう求める。

「私たちは、1年以上の秘密会議の後、現行政権が終わろうとしている時に、最終的に、米国とEUの間で合意されたカバード・アグリーメントが何を意味するのかの詳細を目の当たりにしている、ことに失望している。」とNAICの会長で、ウィスコンシン州保険コミッショナーの Ted Nickel氏は述べた。「殆どの州規制当局がこのプロセスに参加することを許可されていないため、NAICは、消費者保護が州法の優先権の侵害によって妥協されないように、協定の徹底的な見直しを調整しており、我々は議会に対して、同じことをすることを奨励している。最大の懸念は、米国企業に対する外国の規制を強制するバックドア(内密の方法)としてこの合意を使用する可能性があることである。」と語った。

カバード・アグリーメントは、ドッド・フランク法によって定義された特定のタイプの国際合意であり、米国財務省の連邦保険局(FIO)と米国通商代表(USTR)が外国当局と共同で交渉する。NAICは、協定が、法律上の対象となる契約の臨界値を満たしているかどうか、米国の消費者及び企業にどのように潜在的な影響を与える可能性があるのかを判断する上において、メンバーを支援する。

 

5―保険業界等の反応

5―保険業界等の反応

1|Insurance Europe
欧州の保険業界団体であるInsurance Europeは、2017年1月16日に、以下のプレス・リリースを行い、「(再)保険に関するEUと米国の二国間協定の成功した結論は歓迎される。」と述べている。
 

(再)保険に関するEUと米国の二国間協定の成功した結論は歓迎される

欧州と米国の間の(再)保険に関する二国間協定が成功裏に終わった後、Insurance Europeの健全性規制と国際問題の責任者であるCristina Mihaiは次のように述べている。

「Insurance Europeは、最近のEUと米国の間の(再)保険に関する二国間協定の締結を歓迎し、EU再保険会社が米国に事業を置く際に受ける差別的担保要件の除去を予見する規定を支持する。Insurance Europeは、EU-米国の規制対話と欧州委員会が率いる(再)保険に関する二国間協定の交渉を非常に支持しており、最近の結論はEUと米国の関係の強さを示していると考えている。」

「同合意は、消費者と経済の両方の利益のために、(再)保険の二国間取引を支援する、お互いの管轄区域で事業を行っている、EUと米国の再保険会社の両方に同じ要件を適用することを目的としている。今後、Insurance Europeは、成功した成果を確実にするために、関係当局による本合意のスピリットと規定の迅速な適用を見ることを希望している。」

2|ACLIAmerican Council of Life Insurers:米国生命保険協会)
ACLIは、AIA(米国保険協会)及びRAA(米国再保険協会)と共同で、以下の声明を公表して、「カバード・アグリーメント交渉の結論を歓迎する。」と述べるとともに、「詳細をレビューする」としている。
 

業界は、カバード・アグリーメント交渉の結論を歓迎する

ワシントンDC(2017年1月13日)

以下の声明は、米国と欧州連合(EU)間のカバード・アグリーメント交渉の結論に対応して、米国生命保険協会(ACLI)、米国保険協会(AIA)及び米国再保険協会(RAA)を代表して発行された。

「米国とEU間のカバード・アグリーメント交渉の成功した結論を歓迎する。この合意は、1月13日に締結され、両国の管轄地域で事業を行っている会社の重大な保険及び再保険規制問題の解決を目指している。我々は、カバード・アグリーメント・プロセスを長い間サポートしており、詳細をレビューすることを楽しみにしている。」

「この重要なイニシアティブを進める交渉に携わってきた米国とEUの当事者に感謝する。また、米国の保険契約者に対する貴重な貢献と継続的なコミットメントについて、州規制当局を称賛している。」

3|AIAAmerican Insurance Association:米国保険協会)
AIAは、さらに独自に、以下の声明をリリースして、「カバード・アグリーメントは、大西洋の両側の保険会社に利益をもたらすとして歓迎する。」としている。
 

AIAは、 カバード・アグリーメントは、大西洋の両側の保険会社に利益をもたらすとして歓迎する。

ワシントンDC、2017年1月13日

米国保険協会は、米国と欧州委員会の間の保険及び再保険の健全性措置に関するカバード・アグリーメントの成立を歓迎した。 この合意により、欧州連合(EU)と米国(米国)における健全性監督の相互承認が確立され、欧州で活動する米国のグループに対する増大する障壁を取り除くことになる。

交渉で米国を代表している財務省の連邦保険局(FIO)と米国貿易代表部(USTR)は、4つの議会委員会(下院金融サービス、下院歳入、上院銀行、上院金融)に対して、 全ての委員会が開催されている日に、カバード・アグリーメントに対する法的権限に基づいて、このアグリーメントを提出して協議にかける。このアグリーメントは、その日付から90日後に有効になる。 欧州連合(EU)は、完了したカバード・アグリーメントに関連する独自の内部プロセスを有する。

AIAの社長兼最高経営責任者(CEO)であるLeigh Ann Puseyの声明は、次のとおり

「今日のカバード・アグリーメントは、EUで競争している米国の保険会社と再保険会社の勝利であり、米国の州ベースの規制制度に対する勝利である。最近数ヶ月で、欧州で事業を展開している米国の保険グループは、ソルベンシーIIの実施によりますます差別的な健全性措置の対象となっている。 本日の合意により、EUの監督当局は、米国の保険規制の枠組みを認知し、肯定し、米国の保険会社と再保険会社が、ソルベンシーIIの下で課される費用のかかる二重の規制なしに、市場で競争することを認めている。 引き換えに、EUの保険会社及び再保険会社は、公正な互恵的な取扱いを受け、米国市場で競争することができる。

AIAは、このゴールに至る上での両代表団の苦労を高く評価し、合意をさらに詳細に検討することを楽しみにしている。 USTR、FIO、特に、米国保険監督制度を確認し、その中で事業を行っている保険会社に明快さを提供するバランスの取れた解決を達成するために、彼らと一緒に働いてきた米国の州規制当局の役割に感謝の意を示したい。我々は、大西洋の両側の保険会社と再保険会社に利益をもたらす、この合意を実施するために関係する全ての関係者と協力することを楽しみにしている。」

6―まとめ

6―まとめ

以上、EUと米国の間の再保険規制等を巡るカバード・アグリーメントの締結に関する概要及びそれに対する関係者の反応について報告してきた。

新たなトランプ政権が始まるわずか1週間前に締結されたこの合意は、結果的には、オバマ大統領の下で追い込みがかけられた米国財務省による行為の1つという位置付けになっている。実際の詳細な運営等については、今後の交渉等によるところもあるのかもしれないが、取りあえずは大きな方向性として、懸念になっていたEUと米国の再保険規制の調整が図られた形になっている。これにより、「EUと米国の(再)保険会社の活躍の機会が拡大していく」ことが期待されることになるが、一方で、米国の州規制当局が懸念しているように、真の意味で「(再)保険会社の健全性が維持されて、EUと米国の双方における保険加入者の保護が維持・強化されていく」ということが本当に達成されていくのか、ということは、今後のEUと米国の監督当局による監視体制に依存していくことにもなる。

今後は、議会等での議論が行われていくことになる。NAICは「消費者保護が州法の優先権の侵害によって妥協されないように、協定の徹底的な見直しを調整しており、我々は議会に対して、同じことをすることを奨励している。」と述べている。さらには、歓迎の意を示している業界団体等も、詳細をチェックすることを表明している。

こうした動きを受けて、今後、EUと米国の間の再保険規制等を巡るカバード・アグリーメントの詳細や実際の適用がどのような形で進展していくことになるのかについては、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年01月17日「保険・年金フォーカス」)

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