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EUと米国の間の再保険規制を巡る交渉はどうなったのか-カバード・アグリーメントをついに締結へ-
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1―はじめに
その中で、交渉の当事者である欧州委員会(EC)や米国財務省(FIO)及び米国通商代表部(USTR)、さらにはEIOPA(欧州保険年金監督局)や欧米の保険業界は、カバード・アグリーメントの締結に前向きであるが NAIC(全米保険監督官会議)が慎重な姿勢を表明している、ことを報告した。
こうした状況下で、「トランプ氏が大統領に就任した場合、カバード・アグリーメントが合意に達する可能性が低くなると懸念されており、FIOとUSTRは、トランプ政権が誕生する前に、カバード・アグリーメントを迅速に処理しようとしている。」と報告した。
実際に、今回トランプ氏の大統領就任日1月20日の1週間前の2017年1月13日に、EUと米国の間のカバード・アグリーメントが締結された、という声明が公表された。
今回のレポートでは、このカバード・アグリーメントの内容及びこれに対する関係団体等からの反応について報告する。
2―カバード・アグリーメントとは
カバード・アグリーメントとは、「米国と1つ以上の外国政府、当局または規制主体との間で締結され、州の保険または再保険規制の下で達成される保護レベルと『実質的に同等』である保険または再保険の消費者のための保護レベルを達成する保険または再保険の事業に関する健全性措置の認識に関連する、保険または再保険の事業に関する保守的措置に関する、書面による二国間または多国間の合意」として、ドッド・フランク法(Dodd-Frank Act)のTitle Vに定義された特殊なタイプの国際的合意である。
今回のEUと米国の間で締結されたカバード・アグリーメントにより、米国で活動するEUの再保険会社の担保要件が排除され、米国の再保険規制をソルベンシーIIと同等のものとして認識することで、EUで活動する米国の再保険会社に課せられる障壁が取り除かれることになる。
2|カバード・アグリーメントの意味合い
カバード・アグリーメントの概念は、米国の財務省及びUSTRの独自のスタンドバイ権限として、必要に応じて、米国の州の保険法または規制が米国以外の保険会社を米国の保険会社とは異なる方法で扱う領域に対処するために、含まれた。
カバード・アグリーメントは、特定の状況下では州法の優先権の基礎となる可能性があるが、その契約が、州法に基づく消費者に与えられた保護と実質的に同等の措置に関連する場合に限られる。
3|カバード・アグリーメントのプロセス
カバード・アグリーメントは、FIOとUSTRの共同で、外国当局と交渉される。このような合意は、州法に基づくものと実質的に同等の消費者保護を提供しなければならない。 実質的に同等であるためには、合意の成果は州の法律や規制に含まれる消費者保護と少なくとも同等のレベルの消費者保護を提供しなければならない。さらに、交渉を開始する前、交渉中、対象となる協定に入る前に、財務省とUSTRは、下院金融サービス委員会、下院歳入委員会、上院銀行住宅都市委員会、上院財政委員会と共同で協議しなければならない。カバード・アグリーメントは、FIOとUSTRが合同で提案されたカバード・アグリーメントを上記の委員会に提出するときにのみ発効する。法律で規定されている90日の延長期間がある。
州の保険措置は、FIO局長が以下の事項を決定した場合にのみ、取って代わられることができる。1)その措置が、その州に、本拠を置き、認可を受け、事業を行うことを認められた米国の保険会社よりも、カバード・アグリーメントに従う外国の管轄地域に本拠を置く米国以外の保険会社に対して、有利でない取扱いを導く。 2)その措置が、カバード・アグリーメントと矛盾している。 FIOは、優先権を使用するために、ドッド・フランク法に規定されている手順に従わなければならない。
3―今回のカバード・アグリーメントの締結に関する共同声明及びその概要
欧州委員会(EC)や米国財務省(FIO)及び米国通商代表部(USTR)は、今回のカバード・アグリーメントの締結に関して、以下の共同声明を公表している。
米国とEUの保険及び再保険措置に関する2国間合意に対する交渉に関する共同声明
2017年1月13日
ワシントン
米国とEUの代表者は、継続的な保険の消費者保護を確実にし、米国とEU両国で営業している保険会社と再保険会社の規制の確実性を高める合意に向けた交渉の成功を発表することを喜ばしく思う。これらの交渉は、米国のドッド・フランク法の意味での「カバード・アグリーメント」であり、EUの欧州連合機能に関する条約第218条に基づく合意という書面による合意をもたらした。
本合意は、健全性保険監督の3つの分野、すなわち(1)再保険、(2)グループの監督、(3)監督者間の保険情報の交換、をカバーしている。
再保険に関しては、消費者保護が強化され、EU及び米国の市場で事業を展開するEU及び米国の再保険会社に対する担保及び現地のプレゼンス要件の廃止につながる。
この合意のおかげで、他の市場で活動している米国とEUの保険会社は、自国の管轄地域の監督者による世界的な健全性保険グループの監督のみの対象となる。米国にとって、これにより、米国の保険グループの監督に関する米国の監督当局の優位性が保持される。EUにとって、これにより、EUの保険グループの監督に関するEUの優位性が保持される。自国の管轄地域の外の世界的なグループ監督の行使の制限には、ソルベンシーと資本、報告、ガバナンスに関する事項の制限が含まれる。それにもかかわらず、監督者は、その監督領域における保険契約者の利益や金融の安定性を損なう可能性のある世界的な活動についての情報を要求し入手する資格を保持している。
また、米国とEUの保険監督当局は、米国及びEU市場で活動する保険会社及び再保険会社に関する監督情報を引き続き交換することを奨励している。このような情報交換を支援するため、本合意には、モデル覚書の規定が含まれている。
この合意の最終的な法的文書 2は、ドッド・フランク法に従って、2017年1月13日に米国議会に提出された。 EUは、本合意に署名し正式に締結するために、欧州理事会と欧州議会の関与及び欧州連合の機能に関する条約に関連する必要な措置に従う。米国とEUの交渉者は、合意が米国とEUの相互利益において調和しており、米国とEUの保険消費者、両市場で活動する米国とEUの保険会社と再保険会社にとって有意義な利益をもたらすと確信している。
(2017年01月17日「保険・年金フォーカス」)
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