2017年01月11日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(2)-EIOPAの報告書の概要報告-

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4―措置毎の国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)-その3-

この章では、DBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)、ED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)の株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について報告する。

1|DBERデュレーションベースの株式リスクサブモジュール)

2016年1月1日時点では、フランスの会社1社のみが適用している(なお、当該会社は2016年の保険ストレステストに参加していないため、適用無しのベースの影響額等は把握できていない)。

11カ国(チェコ、デンマーク、フィンランド、ドイツ、アイスランド、リトアニア、ラトビア、オランダ、ポーランド、スロバキア、ブルガリア)で、DBERは国内法で規定されていない。

残りの国々では、以下の理由からDBERが適用されていない、としている。

(1) 国内市場の商品がソルベンシーII指令の第304条の基準を満たしていない。
(2) 会社が年金市場であまりアクティブでない。
(3) このサブモジュールへの必要性や関心が無い。
(4) ソルベンシーII指令第308条b(13)の株式移行措置5のため、DBERを適用するインセンティブが今のところない。ただし、移行措置の段階的消滅の過程でより多くの適用があるかもしれない。

2|ED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)

EDは、SCRの株式リスクサブモジュールを算出するのに標準式を使用(部分内部モデルが株式リスクサブモジュールをカバーしていない場合を含む)している全ての会社が適用している。

2016年1月1日時点では、対称調整に関わらず、22%の株式価格の下落を想定したリスクシナリオに基づいているので、非適用による影響はない。EDの影響は2017年以降となる。
図表 EDの国別適用状況(会社数)
3|ERPソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)

回復期間の延長は、NSAs(National Supervisory Authorities:国家監督当局)からの要請に基づいて、EIOPAが「例外的に不利な状況(an exceptional adverse situation)」を宣言した時に適用されるが、これまでのところ、EIOPAはそのような要請を受けていない。

2016年1月1日時点で、SCR要件を満たしていない会社数と、そのうちのソルベンシーII指令第308条b(14)の移行措置6の適用を受けている会社数は、以下の通りとなっている。
SCR要件の充足状況(会社数)
この表で、SCR要件を満たしていないが、SCR移行措置の適用を受けていない会社は、主として、2016年の最初の数ヶ月で、特に、資本調達、例えば再保険によるリスク回避、他の会社との合併等により、SCR要件の遵守を達成した会社である。加えて、いくつかの会社は、ソルベンシーIIの適用前に再編や解散の手続きに入っている。
 
 
5 2016年1月1日以前に購入した株式についての移行措置
6 2015年末において、ソルベンシーIの資本要件を満たしているが、ソルベンシーIIの適用初年度でSCRを満たしていない会社は、2017年12月31日までに要件を満たすことが認められる。
 

5―まとめ

5―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書に基づいて、ソルベンシーIIにおける欧州保険会社のLTG措置や株式リスク措置の適用実態とその財政状態に与える影響について、措置毎、国別の分析結果の概要を報告してきた。

VAは多くの国で、生命保険・損害保険会社を問わず、幅広く使用されているが、MAは英国とスペインの2カ国の会社に限定されている。ただし、これら2カ国、特に英国の保険会社がMAの適用によって受けている影響は、VA適用会社全体に匹敵するものとなっており、これらの2カ国、特に英国におけるMAの位置付けの重要性が際立った形になっている。

さらに、TTPについては、主要国の保険会社が適用しているが、特にドイツや英国で、SCR要件の遵守の上で大きな意味合いを有するものとなっている。

次回の3回目のレポートでは、LTG措置や株式リスク措置の適用状況とその財政状態に与える影響について、主要国を中心とした全体及び措置毎の状況をまとめるとともに、併せて、会社別の状況について報告する。
 
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中村 亮一

研究・専門分野

(2017年01月11日「保険・年金フォーカス」)

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