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ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-
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SCRを計算するために、標準式で使用されているパラメータの代わりに会社固有のパラメータ(Undertaking specific parameters:USP)6を用いることが認められている。EIOPAは、この適用について、監督上の承認を得るために満たされなければならないデータの完全性、正確性及び妥当性に関する基準を評価することが求められる。
「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」では、以下のように記述されている。
3.2.10.会社固有のパラメータ(Undertaking specific parameters)で置き換えることができる生命保険、損害保険及び健康保険引受リスクモジュールの標準的なパラメータのサブセットと、それらのパラメータを計算するために使用される標準化された方法(指令2009/138 / ECの第111条(l)(j)(k)及び第234条)。
会社固有のパラメータのためのフレームワークは、負債に合わせたキャリブレーションを計算するのに十分なデータが利用できる場合に、標準式において定義されたパラメータを置き換える標準化された方法を提供する。この枠組みは、引受リスクモジュールにおいて、可能な限り提供されるべきである。
EIOPAは以下のことを求められる。
・保険、再保険会社及びグループによる会社固有のパラメータの使用に関する情報を提供する。
・引受リスクモジュールの追加パラメータを置き換える標準化された方法を評価し、監督上の承認が得られる前に満たされなければならないデータの完全性、正確性及び妥当性に関する基準を評価する。
・現在の方法の修正または置き換えを視野に入れて、非比例再保険のための具体的なパラメータを決定する代替的方法を評価する。
・特にリスクの感応度や複雑さを考慮して、会社固有のパラメータに基づいて構築されるグループ固有のパラメータを計算する追加的方法を評価する。
6 USPの使用については、EIOPAがガイドラインを作成している。
グループ・ソルベンシーの算出における通貨リスクの計算に関して、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」では、以下の記述がなされている。
3.2.14.通貨リスクの計算に関する標準式のソルベンシー資本要件を計算するための会計連結ベースの方法の適用(指令2009/138 / ECの第234条のエンパワーメントの下で)。
標準式における通貨リスクの計算は、関連する事業体のソルベンシー資本要件を、当該事業体の資産及び債務が表示されている通貨でカバーするために、自己資本を保有することにペナルティを課す可能性がある。
したがってEIOPAは次のことを求められる。
・保険グループが自己資本を保有するために選択した通貨に関する情報を提供する。
・グループのリスク管理に与えられたインセンティブを考慮して、グループの通貨リスクに対するアプローチが、グループがさらされているリスクを適切にカバーしているかどうかを調査し、必要に応じて修正を提案する。
5―まとめ
1|課題項目毎の位置付けの差異
いくつかの項目を挙げてきたが、ある項目は、専門性の高い技術的な問題としてEIOPAにおける検討に委ねられているが、別の項目は、その影響度等の重要性から、政治的な問題に発展して、EIOPAだけでは解決できない問題となっている。もちろん、法的な枠組みから言えば、その検討対象となっている項目のレビュー内容が、指令(Directive)、実施基準(Implementing rules)、技術的基準(Technical Standards)、ガイダンス(Guidance)等のソルベンシーIIの法体系のどこに対応するものなのかによって、レビューの最終決定主体が異なってくることになる。ただし、その区分けの解釈についても、必ずしも明確でないケースもあることから、この点が難しい状況を生み出すことにもなっている。
いずれにしても、こうした課題項目について、どのような方向で解決策が図られていくにしても、最終的な結果については、一定程度の合理性は求められることになり、対外的な説明責任が強く求められてくることになる。
2|国際的な資本規制の検討との関係
今回採り上げた項目の多くについては、ソルベンシー比率の算出結果に大きな影響を与えるものであり、その検討状況は国際的な資本規制の検討にも影響を与えることが想定されていくことになる。
IAIS(保険監督者国際機構)におけるICS(保険資本基準)の検討については、基礎研レポート「IAIS(保険監督者国際機構)によるICS(保険資本基準)について-公表された市中協議文書の概要と関係団体からの初期反応等-」で報告したように、7月19日にIAISが協議文書を公表し、それに対する意見募集を行っていたが、10月19日に協議期間が終了している。
この過程の中で、11月30日に、Allianz、Aviva、Manulife、AIA、AIGの欧米の大手保険グループの5社によって、保険負債の算出における割引率に関して、国際的に統一されたルールとして、OAG(Own Assets with Guardrails)と呼ぶ新たなアプローチが提案されている7。このアプローチは、現在のソルベンシーII制度で使用されている割引率とは異なる考え方に基づいているものである。このような提案が、欧州の大手保険グループからも提案されるということ自体が、現行のソルベンシーII制度に対する関係者の大きな課題意識を表しているといえるのかもしれない。
OAGについては、今回のレポートの主要なテーマではないので、その詳しい内容の報告は別途の機会に委ねさせていただくことにするが、この提案により、今回のレポートの技術的準備金の評価で採り上げた割引率の設定に絡む各種の課題に、新たな考え方で対応していくことも可能になることが期待されることになる。従って、このようなICSの検討状況がソルベンシーIIの今後の検討内容に影響を与えていくことも想定されることになる。
次回のレポートでは、自己資本やその他の項目及び実務に関する課題、さらには今回や次回に取り上げる検討課題がBrexit(英国のEU離脱)によってどのような影響を受けていく可能性があるのかについて報告することとしたい。
7 IAISのWebサイトより「ICS Valuation Achieving a Single, Coherent Discounting Approach through Own Assets with Guard Rails (“OAG”)」
(2016年12月06日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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