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- ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-
ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-
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「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」は、リスク評価に関連して、上記に述べたもの以外に、以下の項目について、「意図しない技術的な不整合の除去」のために、「必要な情報を収集して、報告し、項目に応じては、それらに基づいて評価する」ことをEIOPAに求めている。
・特定の引受リスクモジュールを計算する際に使用される標準的なパラメータ(具体的には、損害保険の保険料及び責任準備金リスクの標準パラメータ及び医療費リスクの標準パラメータ、生命保険及び健康保険引受モジュールにおける死亡及び長寿リスクの標準的なパラメータ)
・損害保険カタストロフィーリスクサブモジュールの計算に使用される方法および前提
・市場リスク集中サブモジュールを計算する際に使用される前提
・関連会社に関する市場リスクモジュールを計算する際に使用される方法、前提及び標準パラメータ
このうち、例えば、「長寿リスク」に関しては、年齢群団によって異なるキャリブレーションを目指して、より詳細なアプローチを調査すること、特にリスクの感応度と複雑さを考慮して、これらのより詳細なアプローチのコストと便益を評価することをEIOPAに対して求めている。
上記の項目についての具体的な記述は、以下の通りとなっている。
3.2.2.特定の引受リスクモジュールを計算する際に使用される標準的なパラメータ(指令2009/138 / ECの第111条(l)(c)のエンパワーメントの下で)。
EIOPAは、以下の引受サブモジュールの中で、どの標準パラメータを変更する必要があるのかを評価し、ソルベンシーII適用の移行期間及び初年度に取得した経験及び得られたデータを利用して、さらには他の当事者によって提供される関連データを利用して、必要に応じて、可能な新しいキャリブレーションを提案する、ことが求められる。
・拡張データに基づいてキャリブレーションされるべき、損害保険の保険料及び責任準備金リスクの標準パラメータ及び医療費リスクの標準パラメータ。この文脈においては、継続的な妥当性のために保険料リスクの量的尺度の定義が再評価されるべきである。
・継続的な妥当性について評価されるべき、生命保険及び健康保険引受モジュールにおける死亡及び長寿リスクの標準的なパラメータ。EIOPAはまた、年齢群団で異なるキャリブレーションを目指して、長寿リスクについてのより詳細なアプローチを調査することが求められる。EIOPAは、特にリスクの感応度と複雑さを考慮して、これらのより詳細なアプローチのコストと便益を評価することが求められる。
3.2.3.損害保険カタストロフィーリスクサブモジュールの計算に使用される方法及び前提(指令2009/138 / ECの第111(l)(c)項のエンパワーメントの下で)。
EIOPAは、より単純な構造(上記3.1.3項)に関する助言に加えて、方法と前提の継続的な妥当性、及び必要であれば、損害保険カタストロフィーリスクのサブモジュールを計算する際に使用されるパラメータを、特に、委任規則(EU)2015/35のリサイタル54に規定されている契約上の限度に関するアプローチを考慮して、評価することが求められる。
3.2.4.市場リスク集中サブモジュールを計算する際に使用される前提(指令2009/138 / ECの第111(l)(c)項のエンパワーメントの下で)。
EIOPAは、市場リスク集中サブモジュール及びその影響を計算する際に、保険及び再保険会社によって現在使用されている前提について報告するように求められる。
3.2.5.関連会社に関する市場リスクモジュールを計算する際に使用される方法、前提及び標準パラメータ(指令2009/138 / ECの第111(l)(c)項のエンパワーメントの下で)。
ルック・スロー・アプローチは現在、関連会社への投資には適用されていない。
EIOPAは以下のことを求められる。
・保険会社及び再保険会社が投資ビークルとして使用する関連事業に関する情報を提供する。
・どのような条件の下で、そのような会社にルックス・スルー・アプローチを拡張するのが適切なのかを評価する。
標準式では、特定の条件が満たされている場合、欧州中央銀行、加盟国の中央政府、中央銀行、国際開発金融機関及び特定の国際機関によって発行される保証をリスク軽減手法とみなしている。
EIOPAは、これらについて、銀行の枠組みとの整合性の評価等を行うことが求められている。
3.2.6.第三者によって保証されるエクスポージャー及び地域政府と地方自治体へのエクスポージャーについての委任規制(EU)2015/35と指令2013/36 / EU及び規制(EU)No 575/2015との相違(指令2009/138 / ECの第111条(l)(c)、(e)及び(f))。
ソルベンシーIIの標準式は、特定の条件が満たされている場合、欧州中央銀行、加盟国の中央政府、中央銀行、国際開発金融機関及び特定の国際機関によって発行される保証をリスク軽減手法とみなしている。
EIOPAは以下のことを求められる。
・第三者によって保証された現在のエクスポージャーの額および地域政府や地方自治体へのエクスポージャーに関する情報を提供する。
・地域政府及び地方自治体の取扱いおよび第三者によって保証されたエクスポージャーの取扱いにおいて、銀行の枠組みと委任規制(EU)2015/35の差異を評価する。
・これらの違いのそれぞれについて、2つのセクターのビジネスモデルの相違、必要資本の決定における要素の相違、またはその他の根拠によって、それらが正当化されているかどうかを評価する。
・ソルベンシーIIの枠組みにおいて、他の保証人による保証のリスク軽減効果がどの条件のもとで認識されるか、を調査する。
近年、リスク軽減のための技術が大幅に進展してきている。ソルベンシーIIはリスクベースの枠組みであることから、その評価においては、各会社が抱えているリスクを適切に反映していることが基本になってくる。その意味で、保険会社や監督当局は、昨今のこうしたリスク軽減技術による会社のリスクプロファイルの変化を評価して、リスクが確実に効果的に第三者に移転されていることを確認していくことが求められることになる5。
特に、スワップや再保険取引を通じての長寿リスクの移転が、2016年のソルベンシーII導入の時期に併せて増加していたが、2016年に入っても、その動きが続いている。これらについての分析と評価を行うことが求められてきている。
この問題について、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」では、以下のように記述されている。
3.2.7.リスク軽減技術に関しては、近年大幅に発展してきたが、当該事業体のリスクプロファイルの変化を評価し、ソルベンシー資本要件の計算を調整するために使用される方法及び前提、リスクが効果的に第三者に移転されていることを確実にするために、リスク軽減技術が満たさなければならない定性的基準(指令2009/138 / ECの第111条(1)(e)、(f)のエンパワーメントの下で)
ソルベンシーIIはリスクベースの枠組みであり、特に一定のリスク軽減技術の効果を考慮している。
EIOPAは以下のことを求められる。
・リスク軽減技術、特に組込デリバティブ及び長寿リスク移転、に関する最近の市場動向についての情報を提供する。
・リスク軽減技術の認識の枠組みが、これらの最近の市場動向を適切にカバーしているかどうかを評価する。
・必要に応じて、このフレームワークの更新を提案する。
5 長寿リスクの移転については、「3|リスクマージン(参考)長寿リスク対応」を参照していただきたい。
(2016年12月06日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
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