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ソルベンシーIIの今後の検討課題について(1)-技術的準備金及びリスクの評価に関する項目-
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(1)概要
ソルベンシーIIの下での資産に対する資本チャージについては、資産の種類毎に異なっているが、同一資産種類の中でも、デュレーションによって異なり、より長いデュレーションがより高い資本チャージを必要とする体系になっている。
この資本チャージについても、立場によって意見が大きく異なる問題となっている。
(2)これまでの対応
ソルベンシーIIの下での長期的な資産への資本チャージの水準については、そのリスクファクターがあまりにも高く、保険業界による投資を妨げていると批判されており、先の「Call for Evidence」 においても、保険会社から「ソルベンシーIIは、長期投資のチャージを引き下げ、評価の枠組みにおけるボラティリティ及びプロシクリカル的な行動を抑制するために、長期投資と短期投資をよりよく区別すべき」との意見が出されていた。その中で、具体的に、「一定の長期投資商品(例えば、証券化、戦略株式、商業用不動産、私募債及びプライベート・エクイティ)に関するリスクチャージを引き下げる」ことを提案していた。
こうした点も踏まえて、2015年に、保険会社のインフラプロジェクトや欧州長期投資ファンド(ELTIF)への投資を支援するための改訂が行われ、2016年4月2日から施行された。加えて、インフラストラクチャー企業への投資を促進するためのさらなる検討も志向されている。
この項目については、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」の中では、「欧州委員会がさらなる調査に値する投資クラスの詳細な評価を実施中であり、必要に応じて、後にEIOPAの技術的サポートを要求する可能性がある。」としている。
一方で、ESRBは、インフラ投資の増加への障壁を除去するために、インフラや証券化の資本費用が低減されたことに対して、リスクを適切に評価するものではない、として批判している。
(3)今後の対応
資本チャージの水準の問題は、該当する資産クラスに対する投資インセンティブに大きな影響を与えることになるが、保険会社の長期投資という性格を考慮しつつも、リスク管理の観点から適正なインセンティブを提供できるように、健全性原則に基づいて、慎重な水準設定が行われていくべきであると考えられる。
(1)概要
ソルベンシーIIの標準式においては、マイナス金利が反映されておらず、金利がマイナスになるリスクは考慮されていない。
これに関して、各国の監督当局は、保険会社に対して、昨今のマイナス金利の拡がりを考慮して、金利が低下し続けるリスクに対する資本の保有を確実にするために、マイナスの金利リスクをモデル化することを求めてきている。
(2)各国の監督当局の対応
ドイツやオランダの監督当局は、ソルベンシーIIの導入当初から、マイナス金利の反映を求めてきているが、フランスの監督当局は、ボラティリティ調整を含めてもマイナス金利になるという状況も踏まえて、マイナス金利の反映を必要不可欠なものと認識するようになっている。
ただし、マイナス金利をモデル化するアプローチについては、必ずしも会社間等で統一されているわけではなく、その影響もどのような金利リスクモデルを採用するのかによっても異なってくることになる。
なお、資本モデリングシステムを提供するベンダーも、従前は対応していなかったマイナス金利への対応を行ってきている。
(3)今後の対応
EIOPAは、これまでのところ、マイナスの金利リスクのモデル化について、何らの指針も公表していない。欧州委員会も、「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」に、この問題を含めていない。
マイナス金利のリスク評価方式が、今後十分な議論が行われ、会社間あるいはEU加盟国間で少なくとも一定程度整合的な取扱いが行われていくことが望まれることになる。
なお、マイナス金利をモデリングすることは、分布の中心におけるリスクを増加させるが、直感に反して、それが債券価格の上昇を通じて、テール・リスクの削減につながり、したがって、資本要件を減らすことを示唆している、との分析もある。従って、どのようなモデリングが行われていくのかは大変興味深いものがある。
(1)概要
現在の信用リスク評価に関しては、少数の格付会社に大きく依存している。
ソルベンシーIIにおいては、無格付の資産に対しては、高い資本チャージが課せられることから、自社で市場リスクをモデル化する能力等が十分でない中小の保険会社も、外部の格付会社に依存している状況にある。
(2)問題の所在
保険会社が、監督当局への報告において、信用格付情報を使用する場合には、格付会社に対して特別な手数料を支払っているが、これが中小の保険会社にとっては特に大きな負担になっている。
小規模な保険引受け会社を代表しているAMICE(The Association of Mutual Insurers and Insurance Cooperatives in Europe:欧州相互保険会社及び保険協同組合協会)は、「ソルベンシーIIの導入により、格付会社への支払いが80%増加した。」と述べて、「信用格付機関への依存を再検討すべきである。」と述べている。さらに、少数の格付会社への過度な依存は、システミックリスクを形成することになるとの懸念も示されている。
(3)レビューの方向性
こうした背景から、信用リスク評価に関しては、外部信用格付への過度な依存を回避し、実務上可能な限り、追加評価の使用等で、外部信用評価の適切性の評価等を推進していく、ことが求められている。
「欧州委員会によるEIOPAに対する技術的助言要求項目」は、「適切な代替手段が準備されることを条件に、2020年までに、信用リスク評価のための格付機関への保険会社の参照を削除する」方向であることを述べて、EIOPAに対して、「代替的信用評価を導くための標準化されたアプローチのための方法と基準を設定することにより、ソルベンシーII標準式における代替的信用評価の使用の枠組みをさらに発展させる。」ことを求めている。
3.2.1.スプレッドリスクサブモジュール、市場リスク集中サブモジュール及び外部信用格付の参照に関するカウンターパーティ不履行リスクモジュールの算定における信用リスクを評価する際に使用される方法、前提及び標準パラメータ(2009/138 / EC指令の第111条(l)(c)のエンパワーメントの下で)。
Regulation(EC)1060/2009の規定に沿って、連合体は、第1段階で、連合法の下での外部信用格付への言及が、そのような外部的な信用格付への単一のあるいは機械的な依存を引き起こすか又は引き起こす可能性を有するか、 第2段階では、信用リスク評価の適切な代替案が特定され、実施されているとの前提の下で、2020年までにそれらを削除することを目的とした、規制目的のための外部信用格付への全ての参照を、見直す方向で働いている。
ソルベンシーIIの標準式は、外部格付が利用可能かどうか、その格付にどのような格付が割り当てられているかに応じて、異なるリスクの考察を提供している。格付に過度に依存するリスクを軽減するため、ソルベンシーIIは、保険会社が技術的準備金及びソルベンシー資本要件の計算において、外部信用格付評価を使用する際に、外部評価への自動的な依存を避けるために、実務上可能な限り、追加の評価を使用することにより、リスク管理の一部として、外部信用評価の適切性を評価すべき、と規定している。さらに、ソルベンシーII委任規則(第4条(5))は、より大規模または複雑なエクスポージャーに対する会社内部の信用評価を作成するための(再)保険会社に対する要件を定めており、それが過度の依存リスクの軽減にも寄与する。このような軽減規則が整備されているにもかかわらず、ソルベンシーII委任法に含まれる格付の使用は、(再)保険会社が格付機関からの評価に依存するインセンティブを生む可能性がある。
したがって、EIOPAは以下のことを求められる。
代替的信用評価を導くために、標準化されたアプローチのための方法と基準を設定することにより、ソルベンシーII標準式における代替的信用評価の使用の枠組みをさらに発展させる。 このようなアプローチは、外部信用評価をもたないエクススポージャーをターゲットにして、大規模かつ複雑なエクスポージャーに限定されるべきではない。
(2016年12月06日「基礎研レポート」)
中村 亮一のレポート
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