2016年07月04日

最近の人民元と今後の展開(2016年7月号)~元安容認か

三尾 幸吉郎

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  • 6月の人民元相場(対米ドル)は基準値・市場実勢ともに下落した。英国民がEU離脱を選択したことから、人民元は1米ドル=6.6元台に下落する展開となった。
     
  • 2月以降、中国人民銀行はバスケット構成通貨に対する安定を重視したコントロールを実施しており、ユーロに対する連動性を強めてきた。6月もその傾向は続いたが、ユーロが上昇した時にはあまり連動しなくなり、中国人民銀行は元安を容認し始めた可能性がある。
     
  • 今後の人民元(市場実勢)は不安定な展開となりそうで、想定レンジは1米ドル=6.5~6.8元と広めに構えておきたい。そして16年末にかけてはじわじわと下落する展開を予想する。

[ 6月の動き ]

6月の人民元相場(対米ドル)は基準値・市場実勢ともに下落した。市場実勢(スポット・オファー、中国外貨取引センター)は前月末比0.9%の元安・ドル高で、当月高値は1米ドル=6.5550元(6/3)、当月安値は同6.6558元(6/27)だった。基準値は前月末比0.8%の元安・ドル高で、当月高値は1米ドル=6.5497元(6/6)、当月安値は同6.6528元(6/28)だった。前回レポートでは「6月の人民元(市場実勢)は、これまでのボックス圏(1米ドル=6.4~6.6元)を維持する可能性が高いものの、ボックス圏を下に抜けるリスクも否定できず、波乱含みである」と予想したが、英国民がEU離脱を選択したことでユーロドルが下落、人民元はボックス圏を下に抜けて1米ドル=6.6元台に下落した(図表-1)。他方、日本円は同結果を受けて米ドルに対して買い進まれたため、人民元は日本円に対しては大幅下落することとなり、6月末は前月末比8.3%元安・円高の100日本円=6.4609元(1元=15.5円)で取引を終えた(図表-2)。
(図表1)人民元レート(対米ドル)の推移/(図表2)人民元レート(対100日本円)の推移
一方、世界通貨の動きを見ると、6月23日に英国民がEU離脱を選択したことを受けて、英ポンドが米ドルに対して大幅下落、ユーロの下落は小幅に留まり、安全通貨とされる日本円が上昇した。こうした中で新興国通貨は、有事の米ドル買いで一旦は米ドルが買い進められたものの、その後は米利上げが遠退いたとの冷静な見方が優勢となり米ドル高修正の動きとなった。ブラジル(レアル)が前月末比12.4%上昇、ロシア(ルーブル)が同3.4%上昇したほか、韓国(ウォン)やタイ(バツ)などアジアでも上昇した通貨が多かった(図表-3)。こうした環境下で人民元は下落した。

今年2月以降、中国人民銀行はバスケット構成通貨に対する安定を重視したコントロールを実施、構成通貨の中で米国に次いでシェアが大きい欧州のユーロ(対米ドル)に対する連動性を強めた。6月もその傾向は続いたが、ユーロ下落時には連動率が大きく、ユーロ上昇時には連動率が小さくなるケースが目立ってきた(図表-4)。中国人民銀行は、ユーロドルの変動の中で徐々に元安に誘導しようとしている可能性がある。そして、人民元の対米ドルレートは1月安値を下回った。
(図表3)6月の主要新興国通貨の変化率(対米ドル、前月末比、WM/Reuters)/(図表4)人民元とユーロ(対米ドル)

[ 今後の展開 ]

さて、今後の人民元(市場実勢)は不安定な展開となりそうで、想定レンジは1米ドル=6.5~6.8元と広めに構えておきたい。そして16年末にかけてはじわじわと下落する展開を予想している。

英国では国内政治の混迷が深まる様相を呈しており、EU離脱の動きがユーロ圏の国々へと飛び火する恐れも排除できない。今後の道筋がスッキリ見えるには相当の時間を要し、しばらくは不透明感が払拭できそうにない。こうした環境下では、市場はニュースに一喜一憂しやすい。同じニュースを捉えて「有事の米ドル買い」と「米利上げ後ずれに伴うドル高修正」を繰り返す可能性もあるだろう。従って、今後の人民元は乱高下しやすいと思われる。

一方、ここもとの中国経済を見ると、民間投資が落ち込む中で、成長率目標の下限(6.5%)を達成できるか微妙な状況だ。目標をクリアするには財政の積極化か金融緩和でバブル膨張を許容する必要があると見られる中で1、輸出が足かせとなるのは避けたい。中国が輸出ドライブをかけるために無理やり元安に誘導するとは考え難い。しかし、アジア通貨が下落すれば同程度の下落を許容して輸出競争力を維持するだろう。16年末に米利上げを想定する中で人民元は下落しやすくなる。
 
1 「中国経済と住宅バブル~住宅バブルか財政悪化かの選択を迫られる局面へ」Weeklyエコノミスト・レター2016-04-28を参照
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三尾 幸吉郎

研究・専門分野

(2016年07月04日「経済・金融フラッシュ」)

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