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- 【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(19)-安邦保険は、どうして次々と海外事業を買収するのか。
2016年04月19日
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4-監督当局による規制緩和―株式の積極購入は国内でも
安邦保険については、海外での事業買収が話題になりやすいが、一方、国内においても優良株等を買い進めている。しかし、現在、このような中堅規模で、未上場の生保会社による上場企業の株式購入が、国内においても物議を醸している。2015年のA株市場において、保険会社が合計36社の株式を購入しており、これは過去5年間の保険会社による購入件数の2.5倍にあたるという7。
上述のように、中堅生保の中には、銀行窓販で、ユニバーサル保険を積極的に販売した結果、高いリターンを確保するために、積極的に株式を購入する保険会社が増加している。しかし、その責任の一端は、保監会にあるともされている。保監会は、2015年7月に、下落に歯止めがかからない株式市場へのテコ入れ策として、優良株への投資に限定する形ではあるが、株式の投資上限をそれまでの総資産の30%から40%に引き上げた。これが、2015年後半以降、保険会社による株式の取引が特に多くなった要因の1つともされている。
また、中堅生保の中には、安邦人寿とは異なり、親会社が保険事業以外の他業種である場合も多く、株式買収については、その親会社の投資意向に従わざるを得ないような状況も発生している。例えば、これまで度々紙面で取り上げられているのは、不動産大手の万科集団の筆頭株主の座をめぐる、宝能集団による敵対的買収である。宝能集団は金融や不動産などを広く手がける複合企業であり、傘下に中堅生保の前海人寿を抱えている。前海人寿は、販売チャネル、販売商品も安邦人寿と同様の手法をとり、短期間に保険資産が急速に膨らんだ中堅生保の1社である。前海人寿は、規制が緩和された2015年7月から、宝能集団傘下の企業として、万科集団の株式を買い増しており、2015年12月には、宝能集団全体の持株比率が24.26%まで上昇した。万科集団はこれに対抗するため、安邦保険グループと連携し、新たな対策を検討している。万科集団の株式をめぐって、前海及び安邦による場外闘争が水面下で繰り広げられている。
このように、安邦保険、安邦人寿の勢いはとどまるところを知らないが、保監会は、これら中堅生保の行過ぎた保険販売や運用手法が、金融システム全体に与えるリスクに対して、強い懸念を示している。2015年12月には、「一部の保険グループにおいて、株主の力が保険会社の内部統制システムを凌駕し、有効に機能していない」と指摘。そこで、新たに発表した保険会社の資産運用に関する内部統制のガイドラインで、親会社からの委託を受けて株式投資をする場合は、専門の委員会での許可や責任の所在を明確にし、情報公開を徹底するよう牽制した。保監会としては、株式市場の安定のために出した運用緩和策が、逆に市場を不安定にしてしまっては‘やぶ蛇’となってしまうからだ。
そのような思いとは裏腹に、安邦保険が海外のみならず、国内の投資活動を引き続きどう展開していくのか、市場関係者のみならず、金融業界全体も注目している。
7 A株市場:上海証券取引所や深セン証券取引所に上場している中国本土の投資家が取引できる株式。2014年から外国人でも香港経由での取引が可能となった。
上述のように、中堅生保の中には、銀行窓販で、ユニバーサル保険を積極的に販売した結果、高いリターンを確保するために、積極的に株式を購入する保険会社が増加している。しかし、その責任の一端は、保監会にあるともされている。保監会は、2015年7月に、下落に歯止めがかからない株式市場へのテコ入れ策として、優良株への投資に限定する形ではあるが、株式の投資上限をそれまでの総資産の30%から40%に引き上げた。これが、2015年後半以降、保険会社による株式の取引が特に多くなった要因の1つともされている。
また、中堅生保の中には、安邦人寿とは異なり、親会社が保険事業以外の他業種である場合も多く、株式買収については、その親会社の投資意向に従わざるを得ないような状況も発生している。例えば、これまで度々紙面で取り上げられているのは、不動産大手の万科集団の筆頭株主の座をめぐる、宝能集団による敵対的買収である。宝能集団は金融や不動産などを広く手がける複合企業であり、傘下に中堅生保の前海人寿を抱えている。前海人寿は、販売チャネル、販売商品も安邦人寿と同様の手法をとり、短期間に保険資産が急速に膨らんだ中堅生保の1社である。前海人寿は、規制が緩和された2015年7月から、宝能集団傘下の企業として、万科集団の株式を買い増しており、2015年12月には、宝能集団全体の持株比率が24.26%まで上昇した。万科集団はこれに対抗するため、安邦保険グループと連携し、新たな対策を検討している。万科集団の株式をめぐって、前海及び安邦による場外闘争が水面下で繰り広げられている。
このように、安邦保険、安邦人寿の勢いはとどまるところを知らないが、保監会は、これら中堅生保の行過ぎた保険販売や運用手法が、金融システム全体に与えるリスクに対して、強い懸念を示している。2015年12月には、「一部の保険グループにおいて、株主の力が保険会社の内部統制システムを凌駕し、有効に機能していない」と指摘。そこで、新たに発表した保険会社の資産運用に関する内部統制のガイドラインで、親会社からの委託を受けて株式投資をする場合は、専門の委員会での許可や責任の所在を明確にし、情報公開を徹底するよう牽制した。保監会としては、株式市場の安定のために出した運用緩和策が、逆に市場を不安定にしてしまっては‘やぶ蛇’となってしまうからだ。
そのような思いとは裏腹に、安邦保険が海外のみならず、国内の投資活動を引き続きどう展開していくのか、市場関係者のみならず、金融業界全体も注目している。
7 A株市場:上海証券取引所や深セン証券取引所に上場している中国本土の投資家が取引できる株式。2014年から外国人でも香港経由での取引が可能となった。
(2016年04月19日「保険・年金フォーカス」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
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