コラム
2016年04月05日

ロシア見聞録(その2)-「芸術の都」サンクトペテルブルク

土堤内 昭雄

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モスクワから北西に約650キロ、バルト海のフィンランド湾に面してサンクトペテルブルクはある。ピョートル大帝が1703年に創建、1712年から1917年まで帝政ロシアの首都だった。多くの宮殿建築や正教会があり、ロシアの文学・音楽・美術の中心でもある「芸術の都」だ。エカチェリーナ2世が建造した「冬宮」は、今日、世界有数のコレクションを誇るエルミタージュ美術館である。

エルミタージュ美術館は、「冬宮」の他に小・旧・新エルミタージュと劇場の5つの建物で構成される。昨年には印象派の作品を主に展示する新館が、宮殿広場の向い側の旧参謀本部をリノベーションして新たに開館した。収蔵する作品は、レンブラント、ルーベンス、ラファエロ、ダ・ヴィンチ、セザンヌ、ピカソ、ゴーギャン、マチスなど約300万点に上る。展示されている絵画や彫刻はもちろん、美術館自体が素晴らしい建築作品で、美術館の内装も優れた芸術品であることを忘れてはならないだろう。

私はエルミタージュ美術館の代表作品のひとつであるレンブラントの『放蕩息子の帰還』を観た時、これほど巧みに光を描けるものかと感動した。絵画はどのような額に入れるか、額装によって印象が随分変わるが、更にどのような部屋に展示されるかによっても変化する。エルミタージュ美術館では素晴らしい絵画が素晴らしい展示室と協奏し、その作品価値を一層高めているように思える。

北緯60度に位置するサンクトペテルブルクの冬は厳しく、私が訪れた3月でも市内を走る川や運河は全て凍っていた。冬季は日照時間も短く観光客は少ないが、現地のロシア人ガイドによると冬こそエルミタージュのベストシーズンだと言う。なぜなら夏の観光シーズンには長い行列ができ、有名な絵画の前は人垣のために、それらをゆっくり鑑賞することもままならないからだ。

サンクトペテルブルクにはバレエやオペラ専用の劇場が数多くある。1783年開場のマリインスキー劇場や1832年開場のアレクサンドリンスキー劇場は、帝政ロシア時代からの伝統ある劇場で、これらが立地する歴史地区はユネスコの世界文化遺産に登録されている。サンクトペテルブルクでは、街のあちこちで伝統的建造物の修復工事が行われており、計画的に歴史的景観の保存が図られている。

社会主義のソ連が崩壊して四半世紀が経過し、資本主義に転換したロシア経済はエネルギー資源の輸出に大きく依存している。今後の持続的経済成長には脱石油が求められているが、年間3,200万人の外国人が訪れる観光は重要な産業のひとつだ。ロシアが更なる近代化に向けて、市場経済のなかで「芸術の都」サンクトペテルブルクの歴史と文化をどのように守ってゆくのか注目される。(つづく)
 
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(2016年04月05日「研究員の眼」)

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