2016年04月04日

ドイツの医療保険制度(2)―公的医療保険の保険者との競争環境下にある民間医療保険及び民間医療保険会社の状況―

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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4|資産運用効率
(1)資産構成比(運用ポートフォリオ)
民間医療保険会社の総資産は、2014年度末で233.2十億ユーロとなっている。
その資産の構成比は、貸付が30.2%、住宅担保債券等が26.0%で、その他の債券等を含めて8割以上が金利資産となっている。
 
医療保険会社の資産構成比(2014年度末)/民間医療保険運用利回りの状況
(2)運用利回り
昨今の金利低下を反映して、運用利回りは低下してきているが、それでも2014年度では3.91%となっており、最高予定利率の3.5%を上回っている。
 

6―民間医療保険会社の財務状況

6―民間医療保険会社の財務状況

この章では、BaFinのAnnual Report 2014等に基づいて、民間医療保険会社の財務状況及びその監視プロセスについて、報告する。

1|老齢化積立金の積立状況
民間医療保険連盟全社の総負債・資本237,949百万ユーロのうち、老齢化積立金が206,190百万ユーロで86.7%を占めている。
その他では、支払備金が6,223百万ユーロ(2.6%)、配当準備金が16,121百万ユーロ(6.8%)となっており、資本は6,094百万ユーロ(2.6%)となっている。 
 
民間医療保険会社の総負債・資本構成(2014年度末)
このうち、老齢化積立金の積立額及びその給付額に対する比率の推移は、以下の通りとなっている。
高齢化を反映する形で、毎年比率が上昇してきている。2014年度末では、8.32年分の給付金支払額に相当する老齢化積立金が積み立てられている状況にある。
 
民間医療保険の老齢化積立金の積立状況の推移
2|ソルベンシー・マージン比率
BaFinのAnnual Report 2014によれば、全ての民間医療保険会社は、2014年12月31日時点のプロジェクションに基づいて、ソルベンシー資本要件に準拠している。医療保険部門の目標ソルベンシー・マージン比率は、約280%であり、前年度に報告された258%より高くなることが想定されている。
これにより、医療保険部門は、良好なレベルの自己資本を持ち続けている、とされている。

3|ストレステスト
42の民間医療保険会社が2014年度のストレステストに参加した。6つの民間医療保険会社はその投資リスクが低いことから、ストレステストへの参加を求められなかった。
ストレステストの結果、全ての民間医療保険会社は、大きな資産価額の損失や金利の上昇があっても、技術的準備金(老齢化積立金)や法定資本要件をカバーするのに十分な資産を有していることが確認された。

4|将来収支予測
老齢化積立金を設定する必要がない会社等を除く40の医療保険会社が、2014年9月30日の基準日時点の将来収支予測を行っている。これは、医療保険会社の低金利による中期的影響を調べることに焦点を当てて行われた。この目的のために、BaFinは、異なる不利な資本市場のシナリオの下で、2014年度と引き続く4年間において予測される収支状況に関するデータを収集した。 1つのシナリオでは、新規投資及び再投資は1.3%の金利を有する10年のファンドブリーフ債13に対してのみ行われると仮定した。 2つめのシナリオでは、個々の医療保険会社の計画に基づいて、新規投資や再投資をシミュレーションしている。
当然のことながら、低金利シナリオは、再投資リスクの実現により、投資リターンのさらなる減少をもたらすことを示していたが、全体的な結論としては、低金利環境の継続に、経済的な観点からは、医療保険会社は耐えられるだろう、ということだった。ただし、保険料調整スキームの中で、段階的に割引率を低下させていく必要性を示唆した。
ただし、将来収支のベースとなった2014年9月30日時点以降に、金利はさらに低下していることから、この観点からは保険料調整の必要性等がより一層増大してきている状況にある、といえる。

5|ACIRPAUZ-Verfahrens)の結果
ACIRP(actuarial corporate interest rate process)は、BaFinによる、「保険会社の数理計算上の割引率水準の妥当性をチェックするための、フォワード・ルッキングな予防的な監視ツール」である。保険会社は、毎年BaFinに数理計算上の割引率を提出しなければならない。これに基づいて、保険会社は、保険料を調整する時に、既存のタリフの割引率を引き下げる必要があるかどうかを決定することになる。
このプロセスでは、次の2会計年度において達成可能なリターンを予測する。資産ポートフォリオを既契約、新規投資、再投資に区分し、リスクも考慮して、それぞれから得られる投資収益を予測する。これによって得られるACIR(actuarial corporate interest rate)が3.5%より低い場合には、それがその会社の新しい最高割引率になる14
2014 年度のACIRP(2015年度の予測)では、36の保険会社が、将来の計算に使用される割引率が、要求される高度の確実性(90%)をもって達成可能なことを示すことができなかった。それゆえ、保険会社は、保険料の調整が行われる時には、タリフの割引率を引き下げるべきだということになっている15
各社のアクチュアリーが、ACIRガイドラインの中で明示的に触れられていないリスク等も考慮に入れるかどうかも検討して、割引率を決定する。どのようなアプローチに基づいて割引率を決定しているのかの理由は、計算を支える技術文書に分かりやすい方法で記載されなければならない。アクチュアリーは、「高齢の保険契約者に対する民間医療保険会社の保険料を、より安定的に維持するために、十分な超過利回りが確保される必要がある。」と述べられている前提等が遵守されていることを確認する必要がある。
 
13 住宅ローン債券等を裏付け資産とする担保付社債(カバードボンド:Covered Bond)で、金融機関によって発行されている。
14 この方式の採用により、2004年に生命保険の責任準備金評価用の最高予定利率が2.75%に引き下げられたにも関わらず、医療保険においては、2012年まで3.5%の水準が維持された。
15 医療保険の場合、(既契約も含めた)保険料の調整が行われる際には、割引率だけでなく、保険事故発生率や事業費率等の要素も含めて勘案されて、決定されることになる。

7―まとめ

7―まとめ

以上、ドイツにおける民間医療保険及び民間医療保険会社の状況を見てきた。
ドイツの生命保険会社は、長期の貯蓄性商品を保証利率付で販売してきたことから、低金利環境の継続で、販売面でも財務面でもかなり厳しい運営を迫られている状況にある。それに比べると、民間医療保険会社の状況は、これまで相対的に大きな問題として捉えられている状況にはなかった。
これは、医療保険会社の場合には、保険事故発生率による影響が大きな意味合いを有していることが関係している。ただし、代替医療保険等は終身保障で提供されていることから、金利環境に基づく割引率の影響が、特に昨今の低金利環境の継続によって、かなり大きなものとなってきている。従って、これを見直す場合には、保険料率、特に高齢者の保険料率への影響が無視できないものとなってきていることが懸念されている。
こうした状況を踏まえて、BaFinも「高齢者の保険料率の安定性」を確保するための各種の方策等について、(1)既存の措置の有効性やその発展的な見直し、(2)これまでも議論されてきた手法の将来における実現可能性、を検討してきている。これにより、民間医療保険会社への影響も想定されてくることになっている。
このように、民間医療保険が、公的な医療保険制度の代替機能を有し、さらには公的医療保険の保険者との競争環境の中で補完・補足機能を果たしている場合には、その社会的性格から、状況に応じて、監督当局主導での各種の規制や仕組みを強制されていくことにもなっている。
民間医療保険会社は、こうした点も考慮に入れながら、将来の経営戦略を構築していく必要があることになる。
次回のレポートでは、ドイツにおける公的医療保険と民間医療保険の課題と役割分担について述べた後、これらを踏まえて、日本における医療保険制度を考えていく上での示唆について考察する。
以上
【参考文献・資料】
 
Financial report for private healthcare insurance 2014 
          PKV(Verband der Privaten Krankenversicherung)
Statistical Yearbook of German Insurance 2015  
          GDV(Gesamtverband der Deutschen Versicherungswirtschaft e.V.)
Akutuar Aktuell  からの医療保険関連報告書 
          DAV( Die Deutsche Aktuarvereinigung e.V.)
ドイツの医療保険について       青山麻里 生命保険経営第76巻第6号(平成20年11月)
 
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2016年04月04日「基礎研レポート」)

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