2016年04月04日

ドイツの医療保険制度(2)―公的医療保険の保険者との競争環境下にある民間医療保険及び民間医療保険会社の状況―

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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3―民間医療保険の収支構造

この章では、ドイツの民間医療保険会社の保険料率の設定や老齢化積立金の設定等の収支構造について報告する。

1|保険料率の設定
民間医療保険の保険料は、年齢、健康状態及び保険給付等に基づき定められる。2012年12月21日までは、性別も関係していたが、その後は男女同一料率となっている。ただし、実際の保険事故発生率等は男女間で明確な差異や特徴がある(男性は高齢になるほど女性に比べた発生率の増加率が大きく、一方で女性は出産等の関係で若齢での発生率が高い)ため、各社の保険料率設定においては、加入員の男女別構成比等も考慮されている。
保険料は、平準保険料方式で徴収されるため、将来給付に必要となる原資が、保険料のうちから準備金として積み立てられる。いわゆる生命保険における責任準備金であるが、これを「老齢化積立金(Alterungsrückstellung:Ageing reserve又はSuperannuation accruals)」と称している。
後に述べる基本タリフの場合を除けば、健康状態を反映した割増保険料の設定、既往症の免責、謝絶等も認められる。

2|保険料率等の価格設定に関する規定
こうした医療保険の保険料や老齢化積立金の計算に関しては、保険監督法等の法令7に規定されているが、いくつかの点で、生命保険とは異なる方式が採用されている。

(1)計算基礎率
(1-1)割引率
医療保険においては、(生命保険と異なり)保険料計算と老齢化積立金評価のために同じ計算基礎が使用される。
老齢化積立金等を評価するための割引率の最高水準については、(生命保険の場合の1.25%とは異なり)3.5%と規定されている。ただし、実際の適用においては、殆どの医療保険会社は、2012年12月21日の男女同一料率の導入時に、2.75%の水準に引き下げている。
また、医療保険の保険料率算定用割引率の設定については、ACIRP(AUZ-Verfahren)と呼ばれる独自の方式が採用されている。これについては「6-5|ACIRP(AUZ-Verfahren)の結果」で説明する。

(1-2)保険事故発生率
保険事故発生率である疾病罹患率や死亡率については、民間医療保険連盟が会員会社からの匿名ベースのデータを収集して、統計資料等を作成している。会員である各医療保険会社はこれらのデータやBaFinからの公的データ等に基づいて、保険料率設定等を行っている。
例えば、民間医療保険連盟は、加盟会員各社からの死亡率に関するデータに基づいて生命表も作成している。この生命表は毎年レビューが行われ、大きな変動が見られる場合には、新たな生命表が作成される。現在の最新の生命表である「PKV 2015」によれば、平均寿命は、男性が84.42歳、女性が87.66歳となっている。

(1-3)解約率
終身保障等で提供されるため、解約率の設定も重要な要素となるが、これについては各社毎に設定される。

(1-4)予定事業費
(1-1)から(1-3)の計算基礎率を用いて算出される純保険料に、医療保険事業を運営するための経費やコミッションに対応する経費が加味されて、営業保険料が決定される。
(2)代替医療保険の保険料の10%上乗せ8
医療費用を保障する代替医療保険については、65歳以降の保険料増加を緩和するための財源として、21歳から60歳まで、新契約費調整後の保険料(チルメル式営業保険料)の10%が上乗せして徴収され、これが老齢化積立金に積み立てられる。

3|保険料の調整
代替医療保険は、終身保障で提供されるが、一方で保険料は、契約時点に定められるため、将来の保険事故発生率の悪化等に、契約時点の保険料では十分に対応できない可能性が出てくる。
このような場合には、独立したトラスティー9の承認を条件に、保険料を調整する(引き上げる)ことができる。これには、将来の保険事故発生率の悪化による給付の増大だけでなく、平均寿命の進展や事業費の増大、さらには運用効率の低下による不足額の発生の場合も含まれている。
なお、法令の規定により、医療保険会社は少なくとも年1回、現行の保険料と比較して、1)給付実績による影響で、10%を超えて乖離している場合、又は2)死亡率による影響で、5%を超えて乖離している場合、には保険料の調整を検討しなければならない。
昨今の長寿化や低金利環境の継続によって、今後高齢者の保険料の大幅な引き上げが必要になってくることが懸念されている。

4|剰余の還元及びその使用
投資収益の90%から予定利息等を控除した額を超える部分が、被保険者に還元される。毎年の10%の超過保険料に対応する老齢化積立金からの剰余は、被保険者に全額還元される。これらは、配当準備金RfB(Rückstellung für Beitragsrückerstattung:Provision for bonuses and rebates)に積み立てられる。残りの剰余は、2001年の50%からスタートして、毎年2%ずつ増加し、100%に達する割合が、老齢化積立金に積み立てられる。
これらの積立額は、65歳以降の保険料の上昇を緩和するための財源に使用される。80歳時点で未使用の金額は、保険料削減に使用される。その後の剰余は即時に保険料削減に使用される。
なお、投資収益の90%から予定利息等を控除した額を超える部分の還元分については、65歳以上の被保険者に対して、保険料の上昇の回避や上昇幅の緩和及び保険料の削減(ただし、契約時の保険料が限度)に3年以内に使用されなければならない。
民間医療保険連盟の資料によれば、2014年度の老齢化積立金への繰入額12,181百万ユーロのうち、保険料の10%割増による額が1,194百万ユーロ、RfBから保険料の上昇緩和等のために使用された財源が1,378百万ユーロ、毎年の剰余からの積立等による額が642百万ユーロ、残りの8,965百万ユーロが通常の保険料及び予定利息による増加分となっている。
 
保険料の10%上乗せスキーム等のイメージ図
 
7 ドイツ保険監督法第146条~第160条(VAG §146~§160)、計算命令(Kalkulationsverordnung:KalV)等
8 このスキームは2000年1月1日から導入されたが、既契約者は拒否することができ、同意した既契約者については2001年の2%からスタートして、毎年2%ずつ増加して、2005年以降に10%となる段階的な導入方式が採用された。
9 トラスティーは、信頼があり、保険会社やその関連会社と雇用契約やその他のサービス契約を締結等しておらず、医療保険の保険料算出分野における十分な専門的な知識を有していなければならない。
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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