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- 全人代閉幕-国民の関心が最も高いのは「社会保障」
2016年03月18日
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■要旨
経済成長の減速化が鮮明になる中で、李首相は、2020年までの5年間の経済成長率の目標を年平均6.5%以上に引き下げ、産業構造の改革を積極的に進める姿勢を打ち出した。中国は2020年に「小康社会」(国民の生活にややゆとりのある社会)の実現を目指しており、国民1人あたりの所得を2010年の2倍にすることを目標にしている。
一方、このような政治的な機運が高まる時期を前に、中国のメディア各社は毎年、国民が最も注目している話題をインターネットで調査をしている。2016年の結果は、国民が最も注目しているのは「社会保障」で、次いで「収入」、「医療改革」となった。年初以来話題となっている‘金融リスク’や‘経済(の新常態)’は上位とはならなかった。
経済成長の減速化が鮮明になる中で、李首相は、2020年までの5年間の経済成長率の目標を年平均6.5%以上に引き下げ、産業構造の改革を積極的に進める姿勢を打ち出した。中国は2020年に「小康社会」(国民の生活にややゆとりのある社会)の実現を目指しており、国民1人あたりの所得を2010年の2倍にすることを目標にしている。
一方、このような政治的な機運が高まる時期を前に、中国のメディア各社は毎年、国民が最も注目している話題をインターネットで調査をしている。2016年の結果は、国民が最も注目しているのは「社会保障」で、次いで「収入」、「医療改革」となった。年初以来話題となっている‘金融リスク’や‘経済(の新常態)’は上位とはならなかった。
3月16日、12日間開催された全国人民代表大会(全人代)が閉幕した。
経済成長の減速化が鮮明になる中で、李首相は、2020年までの5年間の経済成長率の目標を年平均6.5%以上に引き下げ、産業構造の改革を積極的に進める姿勢を打ち出した。中国は2020年に「小康社会」(国民の生活にややゆとりのある社会)の実現を目指しており、国民1人あたりの所得を2010年の2倍にすることを目標にしている。政府としては、この目標を実現する上でも、構造改革を進めることで、経済成長は確保したい意向だ。
一方、このような政治的な機運が高まる時期を前に、中国のメディア各社は毎年、国民が最も注目している話題をインターネットで調査をしている。最大手の人民ネットは2002年から調査をしており、2016年はのべ389万人が参加した1。調査のしかたは、予め用意をした社会問題を中心とした18項目のうち、関心のある内容を最多10項目まで選択、回答するものである2。回答者の年齢構成等は公表されていないが、中国のネット利用者そのものが10~30代が最も多い点を考慮すると、比較的若い世代の意見が反映されていると考えられる3。
2016年の調査結果は、最も注目をしている話題として、「社会保障」が再び首位となり、「収入」、「医療改革」がそれに続いた(図表1)。
経済成長の減速化が鮮明になる中で、李首相は、2020年までの5年間の経済成長率の目標を年平均6.5%以上に引き下げ、産業構造の改革を積極的に進める姿勢を打ち出した。中国は2020年に「小康社会」(国民の生活にややゆとりのある社会)の実現を目指しており、国民1人あたりの所得を2010年の2倍にすることを目標にしている。政府としては、この目標を実現する上でも、構造改革を進めることで、経済成長は確保したい意向だ。
一方、このような政治的な機運が高まる時期を前に、中国のメディア各社は毎年、国民が最も注目している話題をインターネットで調査をしている。最大手の人民ネットは2002年から調査をしており、2016年はのべ389万人が参加した1。調査のしかたは、予め用意をした社会問題を中心とした18項目のうち、関心のある内容を最多10項目まで選択、回答するものである2。回答者の年齢構成等は公表されていないが、中国のネット利用者そのものが10~30代が最も多い点を考慮すると、比較的若い世代の意見が反映されていると考えられる3。
2016年の調査結果は、最も注目をしている話題として、「社会保障」が再び首位となり、「収入」、「医療改革」がそれに続いた(図表1)。
昨年を振り返ると、「社会保障」については、習近平体制によって次々と発表される政府高官の汚職問題やその逮捕劇に国民の関心が奪われ、9位と大きく後退していた4。加えて、経済の新常態(ニューノーマル)など、新たな施策や考え方が発表されたことも影響していよう。
しかし、2016年の全人代は、経済成長の減速化が鮮明となる中で、産業の構造改革に伴う失業問題5、少子高齢化の急速な進展による高齢者の社会扶養、医療や年金といった社会保障関係費の増大などの問題が顕在化し、国民が社会保障の重要性を再認識する結果となった。回答者の多くを占める20~30代は、一人っ子世代にあたり、現在、就職、結婚、出産といったライフイベントを迎えている。中国社会は、いまや一人っ子世代の夫婦2人がそれぞれの両親4人の老後の生活を支え、そして自身の子ども1人を育てるという「421家庭」が主流となっている。都市での生活コストや教育熱が高まる中で、介護保険制度は整備されておらず、両親4人の老後の生活は一人っ子世代の肩に重くのしかかっているといっても過言ではない。また、2位の「収入」を見ても、およそ5割が「物価上昇を考慮すれば2015年の収入は前年より減っている」と感じており、これが社会保障の重要度を高める要因の1つとなったとも考えられる。
2016年の全人代において、もう1つ重要であったのは、2020年までの施政方針を示した「第13次5ヵ年計画」の建議採択と2016年の重点取組についての発表である(図表2)。
しかし、2016年の全人代は、経済成長の減速化が鮮明となる中で、産業の構造改革に伴う失業問題5、少子高齢化の急速な進展による高齢者の社会扶養、医療や年金といった社会保障関係費の増大などの問題が顕在化し、国民が社会保障の重要性を再認識する結果となった。回答者の多くを占める20~30代は、一人っ子世代にあたり、現在、就職、結婚、出産といったライフイベントを迎えている。中国社会は、いまや一人っ子世代の夫婦2人がそれぞれの両親4人の老後の生活を支え、そして自身の子ども1人を育てるという「421家庭」が主流となっている。都市での生活コストや教育熱が高まる中で、介護保険制度は整備されておらず、両親4人の老後の生活は一人っ子世代の肩に重くのしかかっているといっても過言ではない。また、2位の「収入」を見ても、およそ5割が「物価上昇を考慮すれば2015年の収入は前年より減っている」と感じており、これが社会保障の重要度を高める要因の1つとなったとも考えられる。
2016年の全人代において、もう1つ重要であったのは、2020年までの施政方針を示した「第13次5ヵ年計画」の建議採択と2016年の重点取組についての発表である(図表2)。
社会保険に関する、第13次5ヵ年計画の内容は、2015年10月に発表された同計画の建議がほぼ採択された形だ6。一方、2016年の重点取組としては、全人代で強調された産業の構造改革による失業者の増加を意識した再雇用に向けての対策や救済措置、過去最多とされる新卒者の就業対策としてベンチャー立ち上げの奨励などの取組みが目立った。また、医療保険については、今後5年間を見据え、都市の非就労者や農村住民の高額療養費部分の負担軽減を目的とした大病医療保険への財政拠出や、処方薬や市販薬の価格等の供給体制の見直しなど、国民の不満が集まりやすい部分を中心に対策が実施される予定だ。
1 調査期間は2016年2月15日から3月1日。
2 18項目とは、社会保障、収入、医療改革、経済の新常態、司法改革、一帯一路、公共安全、行政における政府機能のスリム化、イノベーション、金融リスク、住宅、教育の公平性、1人っ子政策の解禁、環境保護、貧困問題、新型都市化、軍事改革、汚職防止(トラもハエも叩く)である。
3 中国のネットユーザーの構成は、20代が29.9%、30代が23.8%、10代が21.4%を占めており、10~30代が中心となっている。また、40代が13.1%、50代が5.3%、60代が3.9%と40代以降は急速に少なくなっている(出所:「中国インターネット発展状況統計報告(2016年1月)」
4 「保険・年金フォーカス 中国保険市場の最新動向(12) 全人代閉幕、年金支給10%増へ-2015年社会保障に関する「活動報告」」2015年3月17日発行
5 2016年2月末、就労や社会保障を管轄する人力資源・社会保障部のトップが記者会見で、「石炭業界で130万人、鉄鋼業界で50万人の余剰人員を見込んでいる」と発表した。
6 「基礎研レター アジア・新興国」中国保険市場の最新動向(17)第13次5ヵ年計画の建議-一人っ子政策の廃止と社会保険」2015年12月15日発行
1 調査期間は2016年2月15日から3月1日。
2 18項目とは、社会保障、収入、医療改革、経済の新常態、司法改革、一帯一路、公共安全、行政における政府機能のスリム化、イノベーション、金融リスク、住宅、教育の公平性、1人っ子政策の解禁、環境保護、貧困問題、新型都市化、軍事改革、汚職防止(トラもハエも叩く)である。
3 中国のネットユーザーの構成は、20代が29.9%、30代が23.8%、10代が21.4%を占めており、10~30代が中心となっている。また、40代が13.1%、50代が5.3%、60代が3.9%と40代以降は急速に少なくなっている(出所:「中国インターネット発展状況統計報告(2016年1月)」
4 「保険・年金フォーカス 中国保険市場の最新動向(12) 全人代閉幕、年金支給10%増へ-2015年社会保障に関する「活動報告」」2015年3月17日発行
5 2016年2月末、就労や社会保障を管轄する人力資源・社会保障部のトップが記者会見で、「石炭業界で130万人、鉄鋼業界で50万人の余剰人員を見込んでいる」と発表した。
6 「基礎研レター アジア・新興国」中国保険市場の最新動向(17)第13次5ヵ年計画の建議-一人っ子政策の廃止と社会保険」2015年12月15日発行
(2016年03月18日「基礎研レター」)
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経歴
- 【職歴】
2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
(2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
(2019~2020年度・2023年度~)
・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
・千葉大学客員教授(2024年度~)
・千葉大学客員准教授(2023年度) 【加入団体等】
日本保険学会、社会政策学会、他
博士(学術)
片山 ゆきのレポート
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