2016年03月04日

複雑化する円相場を読む4つのポイント~金融市場の動き(3月号)

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
  1. (為替) 最近のドル円相場は、多くの材料が複合的に影響しており、構造が複雑化しているため、改めて円相場を読むためのポイントを整理してみたい。最初のポイントは市場のリスク回避姿勢、2つ目のポイントは米国の追加利上げ観測、3つ目のポイントは日銀の追加緩和観測だ。これらの組み合わせによって様々な展開が考えられる。リスク回避姿勢が後退するとともに、米利上げ観測や日銀の追加緩和観測が高まることで日米金融政策の差が拡大すると、円安ドル高へ。逆にリスク回避が強まるとともに、日米金融政策の差が縮小すると、円高ドル安が進行することになる。ここで、悩ましいのは、米利上げ観測が高まることで副作用への懸念が高まり、リスク回避が誘発されかねないことだ。その場合はやや円高ドル安に振れる可能性が高い。米利上げ観測が高まっても市場がリスク回避的にならないためには、現在のリスク要因(中国不安や原油安)に改善がみられることや、新たなリスク要因が緊迫化しないこと、世界経済の下支え役としての米経済の堅調さが十分に確認できることが必要になる。そして、最後のポイントは個人金融資産の動向になる。マイナス金利政策によって、預貯金からの利息はほぼ全く期待できない状況になった。家計が資産運用について改めて考える契機になったはずだ。これを受けて、家計が株や外貨建て資産を積み増す動きが生じれば、株価上昇を通じたリスク選好の円売りや外貨投資に伴う直接的な円売りが発生し、円安に作用する。家計の預金の1%が外貨建て資産に流れるだけで8兆円強の円売りが発生する。このインパクトは14年度の貿易赤字(9.1兆円)にほぼ匹敵するだけに、影響力は侮れない。
     
  2. (市場の動きと予想) 2月は急激な円高ドル安が進行、ユーロドルは横ばい、長期金利はマイナス圏に転落した。当面ドル円、ユーロドルとも上値が重く、長期金利も現状付近での推移を予想するが、日米中銀会合を受けてボラティリティが高まる可能性も。

■目次

1.為替:複雑化する円相場を読む4つのポイント
  ポイント(1):市場のリスク回避姿勢
  ポイント(2):米国の利上げ観測
  ポイント(3):日銀の追加緩和観測
  ポイント(4):個人金融資産の動向
2.日銀金融政策(2月): 日銀内での意見の乖離が鮮明に
  ・(日銀)維持(開催なし)
3.金融市場(2月)の動きと当面の予想
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
   
ドル円レートの推移(日足)/円相場のポイント
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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