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3.新たな成長モデル構築のための構造改革
1|需要面では外需依存から内需主導への構造転換
中国は既に世界最大級の経常黒字国となっており、このまま外需依存で高成長を維持するのは難しくなってきている。賃金上昇を抑制し、人民元を無理やり割安にすれば、当面は継続可能かも知れないが、それでは貿易摩擦が高まってしまう。また、賃金上昇を抑制すれば中国国民はいつまでも豊かになれず、また人民元安は米ドルベースのGDPを小さくするため世界における中国の存在感も高まらない。一方、賃金上昇を許容すれば、中国の内需(主に消費)には潜在的な成長余地が残っており、それが開花する可能性が高い。外需に依存する割合が減少するので、経済成長率は鈍化しやすくなるものの、海外情勢の異変には強くなり、経済成長はより安定感を増す。また、賃金上昇で所得が増えるので中国国民の生活も豊かになる。従って、外需依存から内需主導への構造転換は、当面の高成長よりも経済成長の安定や国民生活の豊かさを重視した政策だといえるだろう。
2|供給面では製造大国から製造強国への構造転換
とはいえ、中国は輸出を諦めたという訳ではない。低賃金と人民元安を前提とした付加価値の小さい製造業に見切りを付けただけで、高賃金と人民元高に耐えられる付加価値の大きい製造業はむしろ強化しようとしている。具体的には「中国製造2025」や「インターネット+(プラス)」と呼ばれる国家戦略があり製造大国から製造強国への構造転換を進めている。13億超の人口を擁する中国で使われれば国際規格になりやすいという利点もある。但し、この付加価値の大きい製造業の世界は、日米欧の製造業が既に市場を支配しており、その牙城を崩してシェアを奪うには、コア技術の蓄積やブランド育成が必要で、中国のような新興国にとってはハードルが高く時間も要する。従って、過剰設備(又は過剰投資)の調整がもたらす大きな負のインパクト(経済成長率の低下や過剰雇用の放出など)をある程度はカバーできるだろうが、それだけで全てをカバーするのは難しい。
3|第2次産業から第3次産業への構造転換も
そこで、中国では第3次産業の育成も積極化している。過剰設備(又は過剰投資)の調整がもたらす負のインパクトをある程度カバーするとともに、その調整過程で放出される過剰雇用を吸収するという点でも期待されている。賃金上昇で生活が豊になれば、消費が盛んになるとともに、その内容もモノ中心から教育、文化、体育、健康、医療など様々なサービスへと多様化するため、消費サービス関連産業には発展のチャンスが多い。また、中国では硬直的な金融制度を自由化し始めたため、銀行以外の金融業(ネット金融など)には発展のチャンスが多い。こうしたチャンスを生かして第3次産業が順調に育って行けば、成長率を下支えするとともに、雇用を創出する効果も期待できる。但し、シャドーバンキングが問題になったように一筋縄ではいかない。情報統制が厳しい中国でも果たして第3次産業が上手く育つのか、今後も慎重に見極めていく必要があるだろう。
4.構造改革(まとめ)と日本への影響
従来の成長モデルを卒業して新たな成長モデルにバトンタッチしようとする構造改革は、世界の先行事例を見ると後者のスピードが前者よりも遅いため、成長率の鈍化は避けられそうにない。しかし、中国政府はこの構造改革を今後も続けるだろう。何故なら、後戻りしたくてもそれは不可能で、成長の壁を克服するには他に道がないからである。従って、第2次産業の伸び鈍化と第3次産業の堅調(伸び横ばい)、投資の伸び鈍化と消費の堅調(伸び横ばい)の“ふたつの二極化”も長く続くトレンドになると思われる。なお、当面は新たな成長モデルを構築する途上であるため、バトンタッチが完了するまでは気が抜けない。バトンを落とすような事態もあり得るからである。
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三尾 幸吉郎
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(2015年12月18日「Weekly エコノミスト・レター」)
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